2015年07月30日 16:01 弁護士ドットコム
シリアへの渡航を計画し、外務省にパスポート(旅券)の返納を命じられた新潟在住のフリーカメラマン杉本祐一さん(58)が7月30日、旅券返納命令処分などの取り消しを求めて東京地裁に提訴した。杉本さんは提訴後の会見で、「こうしたことを許すと、ジャーナリストの取材や渡航がいつ制限されるかわからないことになる。あってはならないことだ」と訴えた。
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杉本さんは、今年2月、シリアへの渡航を計画していたところ、外務省から渡航の自粛を求められたが、応じなかったため、パスポートを返納させられた。外務省が、旅券法19条1項4号の「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」にあたると判断したためだった。4月の段階で、新しい旅券が発給されたが、シリアなど渡航できない国が明記された制限付きの旅券だった。
杉本さんは、「とにかく生きて帰ってくることが取材のポリシーだ。生きて帰ってくることで、はじめて戦地の人たちの生活、後方にいる難民の人々、避難生活をしている人々の現状を伝えることができる。わざわざ野蛮な人たちのもとに行って取材をしようとしたわけではない」と安全性に十分配慮した渡航計画だったことを強調した。
裁判では、旅券の返納命令と渡航制限が、憲法上認められた「海外渡航の自由」、「報道の自由・取材の自由」の制限にあたるとして、処分の違法性を争う方針だ。
代理人の中村亮弁護士は、憲法上の権利が制限されたこと以上に、今回の処分にいたる手続きについて、「強く疑問に思っている」と強調した。行政が国民の権利を制限する処分をした場合、弁明の機会や、聴聞の機会といった「申し開き」の機会が与えられる必要があるが、これが与えられていなかったというのだ。
中村弁護士は、「外務省が、(杉本さんに)渡航の自粛を求めてから、出発の日までは3週間以上あった。それなのに、杉本さんが、旅の安全に配慮しているといった点を説明する機会は与えられなかった」と外務省の対応を批判した。
杉本さんは、「僕は生きがいとしての海外取材を奪われ、仕事としての海外取材を奪われた。裁判を通じて、渡航の自由、表現の自由、報道の自由を勝ち取っていきたい」と裁判への意気込みを語っていた。
(弁護士ドットコムニュース)