今宮純氏が独自の視点でドライバーを採点。F1第10戦ハンガリーGPの週末を通して、20人のドライバーから「ベスト・イレブン」を選出。レース結果だけにとらわれず、3日間コース上のプレイを重視して採点する。(最高点は星5つ☆☆☆☆☆+)
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☆ 故ジュール・ビアンキ
異例ですが、走ってはいない彼に捧げます──。ビアンキは全ドライバーの心の中にいましたから。7月17日に亡くなるまで見守ったご家族に、ここでお悔みを申し上げます。GTで活躍した祖父マウロさん、1968年ル・マン24時間優勝とモナコGP3位入賞の伯祖父ルシアンさん(翌年ル・マンのテスト中に事故死)。彼がカートからステップアップしてきたとき、ビアンキ家の血筋をあらためて思い出しました。20年ぶりに勝てる可能性を秘めたフランス人でした。合掌。
☆☆ ロマン・グロージャン
ジャン-エリック・ベルニュ、シャルル・ピック、ビアンキたちはフランス若手「同期の桜」で、現在F1には彼ひとり。チームが深刻な経済状態にあり、ルノー買収問題も複雑に絡まりルーティンのレース準備にも支障が。タイヤ供給も金曜にやっとという状況だった。レースに集中することが難しいなか、終盤懸命にメルセデス2台に対抗して7位。彼自身ひそかに来季をにらみウイリアムズに接近中だとか……。
☆☆ ニコ・ヒュルケンベルグ
さまざまな「物損事故」が発生。金曜にペレスがリヤサスペンション破損、日曜に彼のフロントウイング脱落。他チームでもヘッドレストがゆるんだり、ノーズカメラが落ちたり、これらは縁石形状に起因する事象ではないか。ハンガロリンクの縁石は他と違い凹凸状の“洗濯板”みたいになっている。そこを通過するときマシン全体が共振しているのがスローVTRで映し出された。それはともかくスタート直後、またまた5番手にアップ。4戦連続入賞を目指す最中の事故。1992年ミハエル・シューマッハーのリヤウイングが外れた事故を思い出した。ヒュルケンベルグはタフだ──。
☆☆☆ ジェンソン・バトン
幅10m程度の狭いコースだからこそ、見切りの技が際立つ。接触多発した混戦をスマートに切り抜けて9位入賞。フリー走行から、セクター2で持ち味の流れるリズムが感じとれた。連続コーナーでの「バトン的トラクション・コントロール」、彼なくしてマクラーレン・ホンダいまの17点はない。
☆☆☆ カルロス・サインツJr.
スペインのファンには手に汗握るバトルだった「アロンソ対サインツ」、やや遠慮気味の新人に敬意が見られ、大先輩は各コーナーでにらみをきかせた。パワーロスによるリタイア3戦続きは無念、それでも大先輩とのコース上の駆け引きレッスンで学んだことがいっぱいあるだろう。
☆☆☆ キミ・ライコネン
前衛がベッテル、後衛はライコネン、初めて見るふたりのダブルス・フォーメーション。アイスマンがNo.2ガード役に徹した序盤、5年ぶりのフェラーリ完全制覇がちらついたが、なんでこうなるの……。MGU-K失速の末にリタイア、満員スタンドに今年も大勢いたフィンランド・ファンがっくり。
☆☆☆☆ ダニール・クビアト
2位でも、はしゃがなかった彼。かつて動乱があった国で、21歳のロシア人は政治や歴史までわきまえたのか表彰台では控えめだった。コース上であれだけやりあったあとの冷静さ。すくすく成長する様子が、こんなところにも見てとれる。
☆☆☆☆ マックス・フェルスタッペン
父ヨスの初表彰台はハンガリー、あとひとつの4位入賞が進化をさらに加速するだろう。波乱万丈レースを戦い抜くには、ただ速さだけではないことを知ったはず。トロロッソとしては2008年セバスチャン・ベッテル以来のリザルトで、ルノー・パワーユニット勢の2-3-4位にも貢献。
☆☆☆☆ ダニエル・リカルド
3位でゴール後、脱水症状になっていたようだ。シャンパンをがぶ飲み。64周目の1コーナーでロズベルグのインサイドに飛び込んだ大胆プレー。接触したものの、スチュワードのエマヌエーレ・ピロ氏はレーシングアクシデントと判定。いわば喧嘩両成敗、どちらにもあった勝つ可能性を失った。それでも68周目の最速ラップはモナコに次ぎ今季2度目、コーナリングマシンの証明だ。
☆☆☆☆☆ フェルナンド・アロンソ
イギリスGPまでの今季レース走行周回数は297周、フルディスタンスの約52%。新人ミナルディ時代にもなかった屈辱の“4戦連続リタイア”もあった。予選Q2で早々に止まるとピットまで押し戻そうとしたチャンピオン。5位入賞レースもさることながら、あの行動にレーシングスピリットを感じた。
☆☆☆☆☆+ セバスチャン・ベッテル
金曜時点ではパワー&トルク制御に問題があるとしか思えない挙動を示し、何度かスピン。それをチームが解決して、土曜にはハンドリングも安定。予選セクター2で2番手タイムを刻み、グリッド3位に進出したのが勝因1。エクストラ・フォーメーションラップとなり再スタート、クラッチ機能性でメルセデスに優り、ダッシュ成功が勝因2。そして21周+22周をソフトタイヤでカバー、最後のミディアム26周をケアしきったのが勝因3。付け加えると、シェル燃料の今年3度目アップグレードが勝因4。すべてが噛み合い、ベッテル149戦目に41勝達成、ビアンキ追悼レースでアイルトン・セナに並んだ──。