2015年07月27日 20:31 弁護士ドットコム
東京・調布の住宅街に、5人乘りの小型飛行機が墜落して、民家が全焼する事故が起きた。小型機に乗っていた操縦士を含む男性2人と、民家の女性1人が亡くなった。また、搭乗者3人と住民2人が負傷した。
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報道によると、小型機は調布飛行場を離陸した直後に墜落したとみられる。同機は今年5月に航空法にもとづく国の検査に合格。操縦士の男性が7月22日に飛行した際も、異常はなかったという。
警視庁は特別捜査本部を設け、業務上過失致死傷の疑いもあるとみて、捜査を進めているようだ。現在のところ、詳しい事故原因はわかっていないが、操縦士の法的責任はどうなるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。
「事故原因がはっきりしないと、操縦士の法的責任は何とも言えません」
秋山弁護士はこう切り出した。どうして、そうなるのだろうか。
「まずは、機体そのものに設計上・製造上の欠陥がなかったのか、機体やエンジンの整備・管理状況に問題はなかったのかなど、十分な検証が必要です。
そのうえで、仮定の話として、機体そのものや整備・管理状況等には問題がなく、操縦士に操縦上の過失があったと判断された場合に初めて、操縦士の法的責任の問題になります」
どういう場合に「過失があった」とされるのだろうか。
「具体的な事故原因が明らかになった前提で、その事故原因との関係で、
(1)操縦士が事故を予見できたこと
(2)注意を怠らなければ事故を回避できたこと
(3)それにもかかわらず通常求められる注意を怠ってしまったこと
などが必要です。もし仮に、操縦士に操縦上の過失があれば、刑事上は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)や『航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律』違反(6条)の問題になります。
ただし、操縦士は事故で亡くなったとのことですので、起訴されることはありません。捜査はするとしても、『被疑者死亡により不起訴』ということになります」
では、民事上の責任はどうなるのだろうか。
「民事上は、操縦士が亡くなっているため、その遺族が、被害者(民家の住民や同乗者など)に対して、不法行為による損害賠償義務(民法709条)を負うかどうかが、問題になります。
この場合、操縦士に『過失があった』ことは、被害者側で立証しないといけないのが原則です。今回の事故では、すでに国の運輸安全委員会から航空事故調査官が現場に派遣されたようです。委員会が事故調査報告書を作成した場合は、その報告書が重要な証拠資料になるでしょう」
操縦士の遺族は賠償を免れることはできないのか。
「仮に、操縦士の『過失』がみとめられたとしても、操縦士の遺族は相続放棄をすれば、操縦士の資産も負債も一切相続しないことになります。
ただ、遺族全員が相続放棄をした場合でも、ご本人に積極的な資産があるときは、被害者側で『相続財産管理人』の選任を家裁に申し立てて、相続財産管理人に損害賠償請求を行うという方法がありえます。そして、もし損害賠償請求権が確定したら、資産から賠償を受けることが考えられます。
また、報道によると、亡くなった操縦士は『操縦士養成会社』を経営していたということです。会社の代表者が会社の事業を執り行っているときに事故が起きたのだとすれば、被害者側は会社に対して、会社法350条に基づく賠償を請求することも考えられます。
その場合、今回の飛行目的が、会社の事業と関係していたのかが問題になります」
このように述べたうえで、秋山弁護士は次のように強調していた。
「いずれにしても、法的責任の議論はまだ先の話です。同じような事故の再発を防止するためにも、まずは事故原因の究明に注目する必要があるのではないかと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は溜池山王にあり、弁護士3名で構成。原発事故・交通事故等の各種損害賠償請求、企業法務、債務整理、契約紛争、離婚・相続、不動産関連、労働事件、消費者問題等を取り扱っている。
事務所名:たつき総合法律事務所
事務所URL:http://tatsuki-law.com