映画『無伴奏』が、2016年に全国で公開される。
同作は、『第114回直木三十五賞』受賞作家としても知られる小池真理子が自身の高校時代を描いた半自伝的小説をもとにした作品。1969年の宮城・仙台を舞台に、時代に流されて学園紛争に関っていた女子高生・野間響子と、クラシック音楽の流れる喫茶店「無伴奏」で響子に偶然出会った大学生・堂本渉の恋愛模様を描く。
主人公の響子を演じるのは成海璃子。響子が強く惹かれていく渉を池松壮亮が演じるほか、斎藤工、遠藤新菜、藤田朋子、光石研らが共演者に名を連ねている。なお、池松は成海について「成海さんとは初共演ですが、とても面白かったです。沢山救われましたし、戦友のような存在です」とコメントしている。
メガホンをとったのは、『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』『太陽の坐る場所』などの矢崎仁司。また、呉美保監督作『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』などの音楽で知られる作曲家・音楽プロデューサーの田中拓人が音楽を担当しているほか、矢崎の過去作品に参加している武田知愛と朝西真砂が脚本を手掛けている。
矢崎は原作小説の映画化について「小池真理子さんの小説は以前から好きで読んでいました。『無伴奏』の映画化の話を、5年くらい前に、あるプロデューサーから頂いたときは本当に嬉しかったです。反面、こんな凄い小説を映画にできるのかという畏れもありました。だけど、生身の俳優たちで、この小説の登場人物たちを映し撮りたいと挑みました」と明かしている。
■成海璃子のコメント
響子は作中で起こる全てのことを背負って生きていく役なので、覚悟を決めて背負おうと思いました。
完成作品をまだ客観的に観ることは出来ませんでしたが、この現場に参加して良かったと、心から思いました。
たくさんの方に観ていただきたいです。
■池松壮亮のコメント
この作品のお話しを頂いたとき、矢崎さん渾身の作品がまわってきたなと思いました。こちらがやりたいと思ってやれるような監督ではないので、飛び込んでみようと思いました。
渉を演じるにあたり、特にありませんが強いて言えば、どの時代にもいる強さも弱さも持つ普通の男の生き様を見せられればと思いました。
成海さんとは初共演ですが、とても面白かったです。沢山救われましたし、戦友のような存在です。完成した映画は、強度のある、深みのある矢崎映画となっていて、一先ずほっとしております。
■矢崎仁司監督のコメント
小池真理子さんの小説は以前から好きで読んでいました。『無伴奏』の映画化の話を、5年くらい前に、あるプロデューサーから頂いたときは本当に嬉しかったです。反面、こんな凄い小説を映画にできるのかという畏れもありました。だけど、生身の俳優たちで、この小説の登場人物たちを映し撮りたいと挑みました。
映画を作りはじめた頃から、ノーマルとかアブノーマルという言葉に疑問を持っていました。だから最初の長編映画『風たちの午後』は、女性同士の愛についての映画です。その後の『三月のライオン』は、兄と妹の愛の映画です。ですから、当然私がこの原作『無伴奏』に巡り合うのはある意味宿命だと感じます。私は今の社会で、誰もが正しいと信じて疑わない事こそ、大きなクエスチョンマークをつけるのが芸術家の仕事だと思っています。
いつも映画を作るたびに、私はなんてラッキーなんだと感じます。映画とは旅に似ていると思います。旅の途中、いろんな人に出会って、映画のエンドマークまで。そして、この映画を観てくれた人たちに出会う訳ですけど。製作途中の旅では、素晴らしい俳優たちに出会ったと思っています。成海さん、池松さん、斎藤さんほか、皆さん素晴らしかったです。何度助けられたか解りません。エンドで涙が零れてしまうのは、彼女、彼らが本当に苦悩しながら諦めないでカメラの前に立ち続けたことを私が知っているからなんです。
日本中が学園紛争の嵐のかなで、地方都市で思春期を過ごした一人の少女の成長物語な訳ですが、あの時代の空気感を、あの時代に生きた人たちに観てもらい、あのとき吹いていた風を思い出してもらえたら嬉しいです。それと同時に、今、主人公と同じ年齢の高校生や大学生たち含めて若い方たちにも、いつの時代でも変わらない反抗心や愛について感じて欲しいと思います。
■小池真理子のコメント
『無伴奏』は、作者自身の高校時代を描いた作品です。時は1960年代の終わりころ。当時、仙台で高校生活を送っていた私の、これはまさに、永遠に色あせない思春期の記録でもあります。
学園紛争があり、反戦フォーク集会があり、音楽、映画、文学、演劇など、すべてのサブカルチャーが一斉に塗り替えられて、学生たちの誰もがじっとしていられなかった時代でした。タイトルの『無伴奏』というのは、当時、仙台に実在したバロック喫茶の名前です。多くの若者たちがバロック音楽を聴きながら本を読み、思索にふけり、議論をし、幾多の恋が生まれたり消えたりしていました。
その、貴重な思春期の想いが詰まっている店を舞台にして小説を書いてから、すでに25年の歳月が流れました。矢崎仁司監督からの熱心な映像化の依頼があったのは、2010年。喜んでお受けしたものの、翌年には東日本大震災が起こります。中断に次ぐ中断を繰り返し、長い時間をかけながらも、しかし、監督の、この作品に向けた強い愛情はつゆほども揺るがずにいて、このたび映画は完成の運びとなりました。
試写を観ながら、私は客席で胸熱くし、自分自身のあの時代を思い返していました。時代背景の何もかもが、繊細に丁寧に描かれていて、私自身がスクリーンの中のどこかに隠れ、あの時代を生き直しているような感覚を味わいました。 矢崎監督と私は同世代。監督と原作者の、あの時代に向けた特別の想いが混ざり合って、またとない化学変化を起こしたのかもしれません。「無伴奏」の店内も完璧に再現されました。俳優さんたちの、役になりきった瑞々しい演技。近年稀れにみる映像美の数々。どれをとりあげても、この映画にかかわったすべての方々の無垢な情熱が感じられます。 多くの方々にご覧いただきたいと切に願っています。