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F1ハンガリーGP決勝分析:ベッテルの勝因は、メルセデスの自滅と大きく下がった気温?

2015年07月27日 12:50  AUTOSPORT web

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2015年F1第10戦ハンガリーGP 決勝 1周目の6コーナーでコースオフしたルイス・ハミルトン
不可解なレースだったと申し上げては、言い過ぎでしょうか。前日までは2番手、下手をすれば3番手チームと目されていたフェラーリのセバスチャン・ベッテルが、まさに完勝と言っても良いレース展開を披露して、今季2勝目を挙げました。チームメイトのキミ・ライコネンはERS-Kのトラブルでリタイアしてしまいましたが、それがなければフェラーリが1-2フィニッシュも果たしていたはずです。

 なぜフェラーリはここまで強いレースをすることができたのでしょうか?

 フェラーリの2台は抜群のスタートを決め、ベッテルがいきなり先頭に、ライコネンもこれに続いて2番手に上がりました。メルセデスAMGの2台は3番手と4番手。しかし、ニコ・ロズベルグを強引にオーバーテイクしようとしたルイス・ハミルトンは6コーナーでコースオフし、10番手まで下がってしまいます。

 確かに、抜群のスタート、そして1周目のハミルトンの脱落が、フェラーリの勝利に貢献したのは間違いありません。しかし、問題はここからです。3番手のロズベルグはフェラーリの2台についていくことができず、ジリジリと引き離されていってしまいます。19周目の時点でのロズベルグとベッテルの差は、約10秒と開いていました。

 金曜日、そして土曜日のフリー走行でのペースからすれば、スタートでフェラーリに先行されたとしても、ロズベルグはそれに難なく追走していくことができたはず。そのくらい、両者の差は大きいように見えていました。しかし、実際にはロズベルグはフェラーリについていくことができなかった。ハミルトンも、多くの時間を遅いマシンに抑えられたとはいえ、オープンスペースに出た際にも、ベッテルと同等かほんの少しだけ良いペースしか発揮できずにいました。つまり、今回のレースに限っては、メルセデスAMGのマシンパフォーマンス上でのアドバンテージは小さかったということです。

 フェラーリとメルセデスAMGのパワーバランスが、1夜にしてこれだけ変わってしまったのには、ハンガロリンクの気候が大きく影響しているように思います。金曜と土曜は、気温32~33度、路面温度は50~54度という灼熱のコンディションでした。しかし決勝日は、気温22~24度、路面温度40~49度と、それぞれ10度前後も低くなっていたのです。

 ハミルトンは予選終了後、「週末に一貫してこれほど強力なパフォーマンスを発揮できたことはこれまでなかった」と語るくらい、マシンに自信を持っていました。しかし一転、決勝レース直前のレコノサンスラップでハミルトンはリヤの安定性不足を訴え、ガレージで調整を加えていました。ロズベルグの方も予選後、「アンダーステアだった。でもレースではこれでリヤタイヤを長持ちさせることができるはず」と語っていましたが、レース後には「オプションタイヤ(ソフトタイヤ)でバランスが悪かった」と言っています。つまりメルセデスAMGは、決勝で上手くタイヤを使うことができなかったと想像できます。その要因が、前日から比較して著しく下がった気温にあったとは考えられないでしょうか? ロズベルグの2日間のコメントを総合すれば、“タイヤへの入力が小さいセッティングだったため、それが仇となって涼しいコンディションでは発熱に苦労した”ということが読み取れるような気がします。

 これに加えてメルセデスAMGふたりのドライバーが“自滅”したことで、ベッテルはさらに楽になりました。ハミルトンは前述した1周目のコースオフと、セーフティカー退出直後のダニエル・リカルド(レッドブル)との接触、ロズベルグはヴァーチャルセーフティカー時のピットインでミディアムタイヤを選択(「あの時点での残り周回では、ミディアムしか選択肢はなかった」とチームは説明していますが、ロズベルグはハミルトンに勝つことしか視野に入っておらず、レースに勝つことを放棄したようにすら見えました……)してペースを上げられなかったことと、64周目のリカルドとの接触……これで、今季ここまで圧倒的な強さを誇ってきた銀色の2台のマシンが後方に沈み、ベッテルの今季2勝目を決定付けました。冷静にレースを進めさえすれば、メルセデスAMGは最低でも2-3フィニッシュはできていたはず。あまりにもミスが多すぎた印象です。

 ところで、金曜日と土曜日に素晴らしいロングランのペースを見せていたレッドブルは、ダニール・クビアト2位、リカルド3位と、今季初の表彰台登壇を果たしました。クビアトに至っては、F1で初めての表彰台。第1スティントはリカルドがスタート失敗、クビアトはフラットスポットを作ってしまいペースを上げられませんでしたが、第2スティントでミディアムを履いてタイヤの使用義務を果たすと、最後のスティントではソフトタイヤを履いて、メルセデスAMGに果敢に挑んでいきました。ふたり揃って表彰台を獲得できたのは、確かにメルセデスAMGの自滅によるところも大きいと思います。しかし、メルセデスAMGが自滅した一因は、レッドブルのペースが良かったから。次のスパ・フランコルシャンは絶対的なパワーが必要なサーキットのため、レッドブルは再び苦戦を強いられると思われますが、今回はレッドブルふたりが速さを見せたからこそ、面白いレースになったと言える面も多いと思います。

 4位のマックス・フェルスタッペン(トロロッソ)と5位のフェルナンド・アロンソ(マクラーレン・ホンダ)は、多くの速いマシン(フォース・インディアの2台、ウイリアムズの2台、そしてメルセデスAMGの2台)の脱落によって、それぞれ今季自身最高位でフィニッシュしました。マクラーレン・ホンダのマシンは、まだまだ上位とのパフォーマンス差は大きいです。しかし終盤、トロロッソとはほぼ同ペースで走行するなど、今後の向けての好材料とも言えるシーンも見受けられます。次戦までの間に、どこまでパフォーマンスを上げることができるか? 注目したいところです。

 大乱戦となった2015年のハンガリーGP。戦前にはまったく想像できない結果で、幕を閉じました。F1はこれで夏休みに突入。次のレースは、8月21~23日にかけて開催されるベルギーGPです。後半戦もメルセデスAMGが速いのか? それとも、今回のようにフェラーリやその他のチームが、メルセデスAMGを苦しめることになるのでしょうか?
(F1速報)