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ドリカム、ベスト盤大ヒットの理由とは? “最後の大物”のストイックな創作姿勢に迫る

2015年07月27日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

DREAMS COME TRUE『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』(Universal Music =music=)

参考:2015年7月13日~2015年7月19日のCDアルバム週間ランキング(2015年7月27日付)(ORICON STYLE)


 ドリカムのベストアルバム『私のドリカム』が2週連続1位。先週は34.4万枚、今週は11.9万枚と売上枚数も圧倒的。バカ売れ状態である。ベストアルバムであっても、コアファンの多くはリリース初週に買うわけで、2週目にして約12万枚も売れたというのは今回のベストアルバムがライト層にもしっかりリーチしてきていることを示している。しかも、本稿執筆時のデイリーチャートをチェックしてみると、3週目以降もほとんど勢いが落ちずに売れ続けている。ちょっと気は早い話だが、今年の年間チャートでもトップ5入りは確実と言っていいだろう。


 近年の音楽業界の流れを大雑把に言うなら、「アルバムが売れなくなった」→「でもベストアルバムならまだ売れる」→「普通のベストアルバムでは売れなくなってきたけど、大物アーティストの全キャリアを網羅した決定版的複数枚ベストアルバムだったら売れる」→「そういう大物アーティストも一通り決定版的ベストアルバムをリリースして、もう次が見当たらない」といったところ。そんな中、ドリカムの存在はまさに「最後の大物」と言うべき盲点だった。


 「ドリカムくらいの大物になると、過去にもたくさんベストアルバムを出してたんじゃないの?」と思う人も多いだろう。でも、実はそうじゃなかった。CDバブル真っ最中の90年代の人気絶頂時から「私たちにベストアルバムは必要ない。一枚一枚どれもベストアルバムだと思っている」と公言していたドリカムにとって、正真正銘の公認ベストアルバムと呼べる単独アイテムは2000年のバレンタインデーにリリースされた2枚組ベスト『DREAMS COME TRUE GREATEST HITS "THE SOUL"』のみ。しかも、この作品もその約2年半前にかつての所属レコード会社であったEpic/Sony Records(現エピックレコードジャパン)によって不本意なかたちでリリースされたメンバー非公認ベストアルバム『BEST OF DREAMS COME TRUE』への意趣返しといった意味合いが強かった。「あくまでもオリジナルアルバムにこだわり続ける」。それがドリカムの理念であり続けてきたのだ。


 そんなドリカムの理念を象徴していたのが、『DREAMS COME TRUE GREATEST HITS "THE SOUL"』の続編『DREAMS COME TRUE GREATEST HITS "THE SOUL2"』を、2009年のオリジナルアルバム『DO YOU DREAMS COME TRUE?』とセットにしたこと。つまり、350万枚以上入れたベストアルバムの第2弾を、なんと単体では購入のできない「オリジナルアルバムのオマケ」にしてしまったのだ。この『DO YOU DREAMS COME TRUE?』には同じく単体販売のないライブDVDとセットになっているバージョンもあり、「とにかく何が何でもオリジナルアルバムをリスナーに届けたい、聴いてもらいたい」というドリカムのオリジナルアルバムへの執着心の強さに当時とても驚かされた。結果的に『DO YOU DREAMS COME TRUE?』の売り上げは70万枚弱。2009年という時代を思えば上々とも言えるが、350万枚以上売れたベストアルバムの続編がセットになっていたことを考えると、目標設定されていた枚数はもっと高かったのではないかと推測できる。


 ドリカムはその2年後の2011年にも『THE SOUL FOR THE PEOPLE ~東日本大震災支援ベストアルバム~』というベストアルバムをリリースしているが、これは選曲もかなり変則的なもので、タイトルの通り、東日本大震災被災地復興支援のために印税を全額寄付するためという目的も含めた、ある種のコンセプトアルバムと位置付けるべきだろう。


 つまり、今回の『私のドリカム』は、単体としては『DREAMS COME TRUE GREATEST HITS "THE SOUL"』以来の、実に15年ぶりの全キャリアを網羅した正真正銘のベストアルバムということになるのだ。15年といえば、当時の女子大生のドリカムファンも今やアルバム購買層の中心となるアラフォー。引っ越しやら結婚やらで過去のCDが散逸してしまっていることも十分考えられるし、言うまでもなくそこには15年分の新たなヒット曲も収録されている。よく考えると、その商品力の高さにもうなづける作品なのだ。しかも、以前はベストアルバムのリリースに積極的ではなく、したがってプロモーションにもそこまで力を入れてこなかったドリカムも、今回のリリースに合わせては、オリジナルアルバムのリリース時以上のメディア大量露出を仕掛けてきた。思えば、今回のベストアルバムへの流れは、デビュー25周年であった昨年の精力的な活動(オリジナルアルバム『ATTACK25』のリリース、新しい世代のミュージシャンを巻き込んでの2枚のトリビュートアルバムのリリース、各方面における中村正人のメディア活動)から連続していて、周到に準備されていたものと言える。そして、その先には今年11月から12月にかけて5大ドーム全9公演というすさまじい規模で開催される4年に1度の「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2015」というゴールも設定されている。ベストアルバムに対して長年ストイックな姿勢を貫いてきたドリカムは、結果的に今回の「満を持しまくった」ベストアルバムのメガヒットによって、音楽シーンにおけるその存在の大きさを改めて証明してみせたのだ。(宇野維正)