「僕はピットに戻ってアタックを続けたかった」
ハンガリーGPの予選Q2で突然マシンが止まったフェルナンド・アロンソ。止まった場所はピットロードの入口だったが、かなり急な上り坂になっており、エンジンが止まったマシンをドライバーが押して帰るのは簡単なことではない。
しかしコクピットを降りたアロンソは、あきらめなかった。ヘルメットを被ったまま、ステアリングを操作しながらマシンを押す。だが今年から最低重量702kgに引き上げられたマシンは、なかなか動かない。アロンソは近くにいたマーシャルを呼んで一緒に押す。すると上り坂にもかかわらず、ゆっくりと動き出した。
「フリー走行でマシンがコース脇に止まると、クレーンでピットまで運ばれてきて、時間があれば、再び走行することができる。レースでもグラベルに入ったときマーシャルに押し出してもらってコースに戻ったことがあったから問題ないと思った」とアロンソは言う。
だが気温32℃、路面温度52℃のなか、汗だくになってマーシャルとともにマシンをガレージに戻したアロンソを待っていたのは、レギュレーションという壁だった。
「ガレージに戻ってから不可能だとわかった。(予選とレースでは)マシンはエンジンのかかった状態で、自力でガレージまで戻る必要があると言われたんだ」
Q2で1度も計測タイムを刻んでいなかったアロンソは、その時点でQ3進出の望みを絶たれた。しかし、アロンソはアウトラップに入った直後からマシンに不調を感じ、そのことを無線でピットに知らせていた。そのときピットからの返答は「そのまま走り続けろ」だった。アロンソがストップした理由は電気系のコネクターが緩んで、外れたためだった。もしアロンソが異変を感じた時点で、レースエンジニアが「慎重な走行でガレージに戻ってこい」という指示を出していれば、アロンソはピットに自走して戻ってくることができたのではないだろうか。
しかし、それでもアロンソが再びアタックに出ることはできなかっただろう、とホンダの新井総責任者は説明する。
「問題が起きたコネクターがあるのは外からは見えない場所で、フロアを外さなければならない。時間的に間に合わなかったでしょう」
つまりイチかバチか走り続けてアタックさせようとしたエンジニアの判断に間違いはなかったのだ。また報われなかったが、突然ストップしたマシンを押して戻ろうとしたアロンソの行動は立派だった。アロンソは少しでも早くマシンを戻したかったが、直後に赤旗が出たため、コース上のマシンがピットに戻るまでピットロード入口をふさぐことなく、しばらく待ってからマーシャルと一緒に押しはじめたのである。
「マシンを押して必死にピットレーンを目指し、我々のもとに戻ろうとした姿勢はドライバーとして本当に素晴らしい」と、新井総責任者。
アロンソは予選後に「僕は心底F1を愛している。最後尾だろうと15番手だろうと、あるいはポールポジションだったとしても、その気持ちに変わりはない」と語った。
ハンガロリンクはドライバーの力が問われるサーキット。決勝レースではトラブルに邪魔されることなく、アロンソの真価を発揮してほしい。
(尾張正博)