2015年07月26日 10:51 弁護士ドットコム
兵庫県弁護士会が6月下旬、法務省と大阪矯正管区、加古川刑務所に対して、性同一性障害で性別適合手術を受け、女性の身体になった人に対しては、戸籍が男性であったとしても女性としての対応が必要だと勧告した。
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たしかに、女性の身体にみえる受刑者が、男性の刑務所にいれば、本人はもちろん、刑務官や他の受刑者に与える影響は少なくないだろう。性同一性障害で手術を受けた受刑者に対して、現在、どのような処遇がされているのか。どうあるべきなのか。法務省と、勧告を出した兵庫県弁護士会に話を聞いた。
現状では、性同一性障害の受刑者に対して、どのような配慮がなされているのか。法務省矯正局成人矯正課の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、受刑者が性同一性障害であっても、収容先を判断する上での基準はあくまでも「戸籍上の性」だと話した。
「収容先は『戸籍』に記載されている性で判断されます。たとえば、本人が申告する性が女性であったとしても、戸籍上の性が男性の場合、男性の刑務所に収容されます」
刑務所では、着衣・身体検査が行われるが、手術を受けて女性の身体になった受刑者に対しても、男性の刑務官が検査を行うのだろうか。
「2011年に出された通知『性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について』に基づき、性器を除去するなどして、男性から女性に外形変更している方に対しては、可能な限り女性職員を含めて対応するようにしています。本人の羞恥心に配慮し、ついたてを立てるなどして、他の被収容者の目に触れないようにしています。
また、入浴についても単独で実施するように対応し、男性の刑務官や他の被収容者の目に触れないように配慮しています」
性同一性障害の人の中には、定期的に女性(男性)ホルモンを注射するホルモン療法を行っている場合もある。刑務所内でも、投薬を行えるのだろうか。
「ホルモン療法については専門的な判断に属することなので一概には言えませんが、投薬を止めることで心身に支障をきたす場合は、可能な限り対応するようにしています」
一方、兵庫県弁護士会は、性同一性障害で女性としての性を自認し、かつ、手術を受けたことで女性の身体になった受刑者について、次のような対応をとるように勧告した。
「戸籍に登載された性別にかかわらず、身体、着衣を検査する場合には、女子の刑務官がこれを行い、女子の刑務官が検査を行うことができない場合には、男子の刑務官が刑務所長の指名する女子の職員を指揮してこれを行うこと」
性同一性障害の受刑者への処遇に関する法務省の通知と、加古川刑務所が作成した処遇基準については、身体・着衣検査を男子職員が行うことを許容し、男子職員のみによる対応を認めているとして、「速やかに改めること」を求めている。
同弁護士会に所属し、人権擁護委員会の委員長をつとめる佐藤功行弁護士は、性同一性障害の受刑者に対する現状の処遇について、弁護士ドットコムニュースに次のように語った。
「刑務所も、性同一性障害の受刑者に対しては、それなりに気遣いをしています。ただ、当会のスタンスは、戸籍上男性でも性転換手術を受けている受刑者は女性刑務所に移送せよ、少なくとも女性として扱うのが相当である、というものです。
男性と全く同一に扱っているわけではないという刑務所の気遣いに理解を示すことはできても、女性とは別に扱っている、という点において、抗議せざるをえません」
(弁護士ドットコムニュース)