安倍首相は23日の経済財政諮問会議で、最低賃金について「大幅な引き上げが可能になるよう、関係大臣はしっかり対応していただきたい」と指示したようです。
同じような動きは米英でも見られます。米ニューヨーク州でも、時給15ドル(1ドル123.8円として1857円)に向けて引き上げられますし、英国でも「生活賃金(Living Wage)」と称して最低賃金の引き上げを図る政策を英下院に報告しているようです。9日付のBBCニュースが伝えています。(文:夢野響子)
2020年までに「時給1700円」へ引き上げ
英国での政策の内容は、25歳以上で週35時間以上働いている労働者に、これまでの最低賃金の時給6.5ポンド(1ポンド192円として1248円)に代わって、時給7.2ポンド(1382円)の「生活賃金」を2016年4月から支払うというものです。
この政策は段階的に導入され、2020年までには9ポンド(1728円)まで引き上げられます。これによって、英国の低賃金労働者の600万人が昇給することになります。25歳未満の労働者の最低賃金も、今年10月までに時給6.7ポンド(1286円)に引き上げられます。
この背景には、低賃金労働者に標準的な生活水準、つまり食費や交通費、光熱費などを払えることを保障するという考え方があります。政策導入前にもすでに1600の企業が、生活賃金と称して最低賃金以上の賃金を支払っていたそうです。
オズボーン英財務相は企業が生活賃金を支払えるように、法人税を2020年までに18%まで引き下げ、雇用主が従業員のために支払う国民保険拠出を50%、3000ポンド(約58万円)まで減らすと語りました。
英国ではこれまで個人や団体が生活賃金を支持するキャンペーンを繰り返してきました。それが実現することになったのですから、人々の表情も一様に明るく見えます。ウクライナから移住したジーナさんは、毎朝6時からオフィスビルの掃除で生計を立て、故郷への仕送りもしています。
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「6万人の失職」か、「110万人の雇用創出」か
その一方で、生活賃金に反対してきた人たちもいます。彼らは「生活賃金」という言葉自体、実際の生活費ではなく、英国賃金中央値から算出されたものなのでふさわしくないと主張します。
さらに、この施策の結果、6万人が職を失うだろうとも予測しています。企業は25歳未満の安い賃金労働者を選択することが予想されるからです。これに対してオズボーン財務相は、新たに110万人の職が創出されるだろうと予測し、問題はないとしています。
また、「生活賃金」の導入とともに、政府は国民の福祉依存を減らすために、育児手当の対象世帯をより絞るなどの方針を打ち出しています。これには、国からの援助に頼って細々と生活を続けてきた母子家庭などには厳しい決定です。
パートをしながら子育てをしているシングルマザーでは、今回の変更で月に約120ポンド(約2万3000円)の減収に。生活保護を受けている人々の大半が支給額の削減に直面します。この問題に政府は労働時間の延長などで対応して欲しいと考えているようですが、実際には働けない人もおり、しわ寄せを受けることは避けられません。
(参照)What the new National Living Wage will mean for you (BBC)
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