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乃木坂46の最新シングルを深掘り分析 “主人公”生駒里奈と“ヒロイン”堀未央奈の現在地とは?

2015年07月23日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

乃木坂46『太陽ノック』

 乃木坂46の12thシングル『太陽ノック』が7月22日に発売された。3月に発売された11thシングル「命は美しい」以来となる今回のシングルは、白石麻衣センターの6thシングル『ガールズルール』、西野七瀬センターの9thシングル『夏のFree&Easy』に続く、乃木坂46にとっての“夏曲”にあたる。先の2つからもわかるように、この時期の曲は乃木坂46“らしくない”、より元気で夏っぽい雰囲気が重視されている。


(関連:乃木坂46深川麻衣と若月佑美が語る、4年半の歴史と成長「グループにいるからこそチャンスを貰える」


 そしてこの曲のセンターを務めるのが、およそ2年ぶりのセンター復帰となる生駒里奈である。1thシングル『ぐるぐるカーテン』から5thシングル『君の名は希望』まで、グループのセンターを務めた彼女の復帰は古くからのファンが待望してきたことであると同時に、それ以降のシングルからのファンにとっては新鮮でもあるだろう。


・「兼任以降」に挑む生駒里奈のセンター復帰作


 「ガールズルール」は女の子の淡い夏の思い出を歌った楽曲で、「夏のFree&Easy」は夏こそ大胆に挑戦してみようという気概応援ソングだった。今回の「太陽ノック」もどちらかというと「夏のFree&Easy」に近いテーマが取り上げられているが、楽曲全体の印象はより爽やかだ。また、ただ夏がテーマというわけではなく、<やがて夏は過ぎ去っていく><秋風が吹いても>とあるように、より去り行く夏も意識しているような歌詞がみられる。


 生駒里奈のセンター復帰作として話題のこの曲を手掛けたのは、1stシングル表題曲「ぐるぐるカーテン」を作曲した黒須克彦氏。全体的に美しく涼しげなピアノがメインに据えられたこの曲のポイントとなるのは、グリッサンド奏法(鍵盤上で隙間なく手を滑らせる音高を上げ下げする演奏技術)だ。楽曲全体に散りばめられたこの流れるような清らかな音が乃木坂46らしさを楽曲全体に与えている。また、歌詞のテーマは「夏のFree&Easy」よりだと前述したが、ダンスは「ガールズルール」により近く、元気に可愛らしく音に乗せて振り付けがパキパキと変わり、ライブでも映えるナンバーになりそうだ。


今回の生駒里奈のセンター復帰はAKB48での兼任を終えた直後というタイミングとなった。彼女が2年間センターを離れた間での成長に加え、AKB48との兼任で得た成果を発揮する場が今回のポジションだったわけだが、結果として堂々とセンターとしての役割を果たしている。彼女が2列目にいた際に「生駒里奈のセンター復帰はあるのか」という議論はたびたびなされており、センターに相応しくないという声が全くなかったかといえば嘘になる。しかし、彼女の凄さは今や誰も文句を言えないほどに、その重い責務を果たしているところにあるだろう。音楽番組での「太陽ノック」のパフォーマンスを見ていても、表現力が増し可愛らしいパフォーマンスが兼任以前に比べて格段に伸びている。このまま近いうちに次の選抜発表がなければ、今回の夏の全国ツアー中のセンターを務めるのも彼女だが、それによってグループ全体がパフォーマンスの面で大きくレベルアップすることが期待できるだろう。


 今回の歌詞の内容は前述の通り“夏の応援ソング”なのだが、「太陽」という言葉に注目するとより深い解釈をすることができる。AKB48と乃木坂46が「太陽と月」というイメージで語られることがよくある。そこで、この曲に出てくる「太陽」というワードをAKB48として捉えてみると、生駒里奈の兼任のストーリーへと繋がってくる。詞のなかでは<未来とは今が入口>と語られ、太陽=AKB48がグループの外の世界へ彼女を誘っている。この1年の兼任で成長を遂げた生駒里奈が<何か始める良いきっかけだ>と新たな挑戦を後押しする曲と捉えることもできそうだ。そして詞の結びで<秋風が吹いても Grab A Chance>と、季節の移ろいで彼女の兼任後の次なる挑戦を表現している。この「太陽ノック」は「兼任以降」という新たなステージへ向かう生駒里奈から、私たちへの熱い思いが込められているのだ。


・多種多様なカップリングがシングルを彩る


 今回のシングルは、通常全タイプのカップリング曲の合計が6曲となるところ、タイアップの関係で7曲といつもより1曲多く収録されている。前作11thシングル「命は美しい」では表題曲以外で選抜メンバー全員が揃って歌っている曲がないという珍しいことが起きていたが、それだけソロ曲やユニット曲に対する需要や重要性が高まっているということだろう。今回のカップリングもソロ曲や異なるタイプのユニット曲が充実している。


 全タイプ共通カップリングとなったのは、西野七瀬のソロ曲「もう少しの夢」。アルバムから数えると自身にとって3作連続3曲目のソロ楽曲となった同曲は、主人公を演じるドラマ「初森ベマーズ」のエンディングテーマとなっている。ソロ楽曲は西野のほか、生駒、生田といったセンター経験者も歌っているものの、2曲以上歌唱しているのは西野七瀬だけだ。彼女の持つ憂いのある歌声が好きだという意見はファンの中でも多く、その歌唱力を活かすべく、西野のソロ曲に重点を置いてきているのだろう。


 これまでの「ひとりよがり」「ごめんね、ずっと…」は恋人との別離と再出発が大きなテーマのとことん切ないバラードといったところだった。今回の「もう少しの夢」は西野七瀬の切なさを楽曲に残しつつ、詞からはドラマの内容を思わせる、諦めずひたむきに挑戦する彼女を想起させる。また映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』で西野についてクローズアップされているのは、上京と家族との別れだ。映画の内容を踏まえて彼女の3曲のソロ曲を聴いてみると、故郷の家族を離れアイドルとして挑戦する彼女の想いを感じとることができるように思う。


 「魚たちのLOVE SONG」は白石麻衣、橋本奈々未、高山一実、深川麻衣の大人メンバー4人によるユニットだ。白石、橋本、松村、高山を中心とした大人メンバーユニットはこれまで、「偶然を言い訳にして」「でこぴん」「その先の出口」「革命の馬」「立ち直り中」とメンバーを増やしたり、減らしたりしながら定期的に組まれてきた。そして今回の「魚たちのLOVE SONG」では「でこぴん」メンバーから松村が抜けた4人、つまり「渋谷ブルース」を演奏する際のWHITE HIGHのメンバーとなっている。クラシックギターが印象的なこの曲はAメロとBメロの明暗の使い分けがクセになる一曲だ。前述の西野七瀬がソロ楽曲に力を入れているのと対照的に、白石麻衣は初期から一貫してユニット曲を歌っており、大人メンバーユニット曲以外にも「せっかちなかたつむり」「コウモリよ」などほぼ毎回自身が加わるユニット曲が収録されており、ここに売り出し方の違いが見られる。


 そして10thシングルのペアPVより登場した生田絵梨花と松村沙友理によるユニット「からあげ姉妹」がついに「無表情」で音源化。普段の2人と一変して無表情かつシュールな世界観で人気を博すこのユニットは、これまでポストロックのような退廃的な雰囲気が漂う「食物連鎖」と、英ロックバンドThe Stone Rosesを思わせる「サイダー」といった、これまでの乃木坂46になかった楽曲をPVにて次々と世に送り出してきた。


 しかしこの「無表情」はそんなファンの期待を、読めない表情の裏側であざ笑うかのような予想外のキラキラした恋愛の曲だった。心躍る8ビートに乗ったベルの音と、生田と松村の歌声のマッチングがなかなか面白い。アニメ声でかわいらしく歌う松村と、ストレートに歌い上げる生田のハーモニーはメロディーにもはまっており、聴けば聴くほどクセになる。秋元康は「この娘にこの曲を歌わせるのか…」というチョイスをあえてやってくるプロデューサーであるが、果たしてこの曲は松村の心境を書いた詞なのか、あるいは真面目で恋愛下手そうな雰囲気の漂う生田のストーリーなのか。


 全7曲のなかで最後に解禁されたのが「制服を脱いでサヨナラを…」である。前作11thシングルに収録された「あらかじめ語られるロマンス」でダブルセンターを務め、ファン人気も高く、コンビで運営から売り出されることの多い“推され組”である星野みなみと齋藤飛鳥による初のユニット曲だ。「私、起きる。」「なぞの落書き」「あらかじめ語られるロマンス」の流れを汲む、この年少ユニットによる楽曲は、高校3年生になり、いつまでも子ども扱いされることに拒否感を示してきた星野みなみと、昔から考え方が同世代とは異なり早く大人になりたいと常々語っている齋藤飛鳥が、若者から大人へのステップを歌った曲となっている。普段から声がかわいいと言われる2人ではあるが、今回は楽曲全編を通して、その声に掛かったエフェクトが目立つ。あえてそのような作りにしているのは、自分たちの可愛さに頼らず成長していくということの表れなのかもしれない。今後も何らかの形で一緒に活動することの多くなるであろうこの2人が、どのように成長するのかワクワクさせてくれる1曲だ。


そして、選抜メンバーが表題曲以外で揃って歌っているのが、セブンイレブン限定verに収録された「羽根の記憶」だ。直前まで明かされなかった本曲の作曲を「制服のマネキン」「君の名は希望」でお馴染みの杉山勝彦氏が、編曲を杉山氏と有木竜郎氏が担当している。そう言われるとピンと来る方もいるかもしれないが、この曲は2人が同一クレジットで手掛けた「君の名は希望」に通ずる部分がいくつか見受けられる。


 まずは楽曲の構成。実はどちらの曲もAメロ→Bメロ→Aメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→Aメロ→サビ→Cメロ→大サビ→Dメロという構成になっている。「君の名は希望」で採用されたこの楽曲構成はJ-POPであまり見られないもので注目されていたことを考えると、今回「羽根の記憶」でここまで同じような構成にしたのは確信的なものではないだろうか。その他にもドラムのリズムパターンやストリングスの使い方、大サビでの盛り上げ方など「君の名は希望」を感じさせる部分は多い。10年後の自分の将来を想像するという内容の詞は、鳥居坂46の始動が発表され、ライバルグループのAKB48が10周年を迎えた今、秋元康と杉山勝彦からメンバーに送るメッセージソングなのかもしれない。


・ヒロイン堀未央奈と、新たなアンダーの物語


 昨年のアンダーライブの大成功により注目度を増したアンダーメンバーだが、それに伴い注目度が高まっているのがアンダー楽曲である。アンダー楽曲はタイアップやマーケット戦略に左右される表題曲に比べ自由度が高く、コアなファンからは今や表題曲よりも期待値が高いという声もある。そして今回の「別れ際、もっと好きになる」も、その期待にそぐわない仕上がりとなっている。乃木坂お得意の美しいピアノのイントロで始まったと思えば、雷が落ちたかのような四つ打ちの電子音、そして切ない歌声で曲は一気にピークを迎える。別れ際に急にヒステリックになってしまう女性の姿を、楽曲がうまく体現し、センターを務める堀未央奈がそれをより引き出しているように思う。生駒里奈を「主人公」と評することは多いが、ならば堀未央奈には「ヒロイン」という言葉が似合う。時にミステリアス、時に透明感が溢れ、また猟奇的で目の離せない彼女の、底知れない魅力が新たな立ち位置でさらに発揮されることを期待してやまない。


 そしてこの「別れ際、もっと好きになる」と「無表情」の作曲を手がけているのがAkira Sunset氏だ。古くは2ndアンダー曲「狼に口笛を」や3rdシングル収録「海竜の島よ」を手がけ、その後は表題曲「気づいたら片想い」やライブを盛り上げる定番ソングとなっている「そんなバカな…」「ダンケシェーン」を生み出してきた同氏は、今作の2曲を含め計9曲をグループに提供するなど、秋元康氏から重宝されている。前回のアンダー楽曲「君は僕と会わないほうがよかったのかな」も手がけた同氏の貢献度を考えると、杉山勝彦氏と並ぶ乃木坂46作曲陣のキーパーソンといって間違いないだろう。


 実は今回のアンダーは何かと新しいことが多い。まずアンダーセンターを務める堀未央奈はグループ初となる表題曲のセンター経験者である。前回センターを務めた中元日芽香は「支えるセンター」を自称していたが、おそらくオンリーワンの存在となる堀は私たちに新たなセンター像を見せてくれるであろう。また、フロントはアンダー楽曲としては8thシングルのカップリング「生まれたままで」以来の5名フロントになっており、センターの左右に中元と2期生・北野日奈子が立ち、大外にはこれまでパフォーマンスの高さでアンダーライブを支えてきた、中田花奈と川村真洋が選ばれている。さらに今回は今まで研究生だった5名の2期生が、正規メンバーとして初めて参加するアンダー曲であり、2期生が増えたことでアンダー内の1期生と2期生が9名ずつとちょうど半分になっている(山崎怜奈は今作休業のため不参加)。今までアンダーの中心としてフロントを多く務めてきた、斉藤優里と井上小百合が選抜に選ばれたこともあり、今回のアンダーは今までのものとは大きく異なる印象が強い。今作のアンダーライブの発表は未だされていないが、メンバーもフォーメーションも一新した新生アンダーメンバーが、大きな武器となるアンダー楽曲を手に躍動する姿を見るのが今から楽しみでならない。


 今年の乃木坂46の夏はとにかく充実している。メンバー主演のドラマ『初森べマーズ』(テレビ東京系)がスタートし、初の映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』も公開された。このシングルがリリースされれば、グループ最大規模の夏の全国ツアーがスタートし、ツアー中には鳥居坂46が誕生する予定だ。個人仕事もドンドン増え、今後の展開が楽しみなメンバーも多い。そのタイミングで“主人公”生駒里奈と“ヒロイン”堀未央奈がそれぞれ選抜とアンダーのセンターに立つのもまた面白い。作曲家陣もおなじみの杉山勝彦氏やAkira Sunset氏がいるなかで、久々の登場となった黒須克彦氏や、初参加の方が複数人いるなど分厚いラインナップだ。質・量ともに充実の新作を手に取れば、きっと「乃木坂46の夏」の訪れを感じることができるだろう。


■ポップス
平成生まれ、音楽業界勤務。Nogizaka Journalにて『乃木坂をよむ!』を寄稿。