2015年7月21日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)は、大手玩具メーカー「タカラトミー」を取り上げた。2006年にタカラとトミーが合併。「トミカ」や「リカちゃん人形」などの人気商品を持ち、合併後は「ベイブレード」が最大のヒット商品だった。
しかしここ数年はヒット商品が生み出せず、2013年には合併後初の赤字を計上。そこで今年5月、創業家3代目社長・富山幹太郎さんは初めて外部の人間に経営を託すことを発表した。6月24日に社長に就任したのはハロルド・メイさん(51歳)だ。
ポストを減らし、管理職を平均5歳若返らせる
オランダ出身のメイさんは、父親の仕事の関係で8歳から14歳まで日本で生活。アメリカの大学を卒業後、日本に戻りハイネケン・ジャパンに入社。その後ユニリーバジャパンやサンスターでマーケティングの専門家として活躍し、2006年からは日本コカ・コーラの副社長も務めた。
実績を買われタカラトミーに引き抜かれたメイさんは、入社してすぐに組織改革を行う。部署の数を62から50に削減し、管理職を平均5歳若返らせた。ヒット商品を生み出すには、若い社員が自由にアイデアを出せる環境が必要だと考えたのだ。
「若い社員はいっぱい良いアイデアを持っているが、いろいろな幹部が自分の意見を言う。せっかくいいアイデアの原石も、上に行くと完全に丸くなってしまい、元のアイデアではなくなるんですよね」
会社での自室のドアは開けたままにして、若い社員でも自由に入ってこられるようにしている。さらに社員へのメッセージは自ら三脚を立てて自分を撮影。月に2回ほど配信し、全社員が好きな時に見られるようにしている。
ユニークなものを見つければ、「皆さんと共有化したい」と映像で紹介するので、商品開発のアイデアになると若手社員に好評だ。「上の立場の方だけどすごく身近に感じられて、いろんなことを言いやすい」という女性社員もいた。
女性社員に熱弁「リカちゃんの魂とはなんぞや」
メイさんは、看板商品であるリカちゃん人形を、新たに大人向けの商品として売り出す戦略に出た。ターゲットは20~30代の女性。若手女性社員によるプロジェクトチームを立ち上げた。
「リカちゃんは、単なる着せ替え人形ではありません」
彼女たちに熱く語り出したメイさん。「今までは彼女の感情的な要素が抜けていた。つまり、リカちゃんの魂とはなんぞやと」と話す表情からは、真剣な熱意が感じられた。
大人向けリカちゃんはボディラインを大幅改良し、ファッションや髪形も大人の女性の流行に合わせた。長年リカちゃん開発に携わってきた社員は「やりたかったことを全部投入してやっていい」と言われ、「こんなに面白いことはない」と嬉々としていた。
宣伝のアイデアを出したのは、入社3年目の望月摩央さん(25歳)だ。ルミネ池袋店と組み、ルミネじゅうをリカちゃん一色にするイベントを企画。客層は、まさにターゲットとする20~30代の女性たちだ。
ファションブランドからカフェまで、至る所におしゃれに着飾ったリカちゃんやポスターなどがディスプレイされていた。さながらリカちゃんのテーマパークのようで、幼いころにリカちゃんで遊んだ女性たちの心をがっちりつかんだ様子。SNSでの拡散も目論見通り活発に行われていた。
若手社員の成功を喜ぶ新社長
この企画は望月さんがメイさんに直接プレゼンし、GOサインを貰ったものだ。イベントにはメイさんも駆け付け、「大人リカちゃんの成功の証がこうしたコラボだと思う。これからもどんどんやってもらいたい」と成果を大きく評価していた。
経営のプロというと、合理的な改革で力強く突き進むイメージしかなかったが、メイさんの場合、タカラトミーに本当に必要な社風を見抜く目もあった。なにより社員がやりたいことを実現し、成功を共に喜ぶ姿に誠意が感じられた。結局それが、人を動かす一番の原動力になるのだろう。(ライター:okei)
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