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Drop's・中野ミホが語る、バンドの“今”とこれから 「いい意味で新しいスタートが切れる」

2015年07月22日 17:10  リアルサウンド

リアルサウンド

Drop's

 60~70年代のロック、ブルースなどをルーツにしたバンドサウンド、繊細に揺れる感情を映し出す歌によって注目を集めるDrop’sが、3rdフルアルバム『WINDOW』を完成させた。前作『HELLO』以降にリリースされた2枚のEP(『さらば青春』『未来』)の表題曲を収録、「楽曲の表情がそれぞれに違っていて、変わっていく窓の景色みたいだなって」(中野ミホ/V&G)という本作は、古き良きロックを愛し、それを現代の音楽として体現し続ける彼女たちの“いま”が色彩豊かに表現された作品となった。(森朋之)


・「いま自分たちが好きなことをそのままやった」


ーー前作『HELLO』は70年代の日本の歌謡曲のテイストを取り入れるなど、歌を強調した作品でしたが、今回の『WINDOW』はDrop’sのルーツを色濃く感じさせるアルバムですね。


中野ミホ(以下、中野):そうですね。いま自分たちが好きなことをそのままやった、という感じがしています。『HELLO』は自分たちなりのポップというか、外に向いたものを作ったので、次はもうちょっとディープなことをやってみようかなって。もちろん歌も大切なんですけど、そればかり考えていてもつまらないし……。最初から意識していたわけではなくて、曲を作っていくうちに、そういう感じになっていたんですけどね。


ーー「さらば青春」「未来」など既にリリースされていた楽曲も含まれていますが、アルバムの収録曲は『HELLO』以降にできたものが多い?


中野:いろいろですね。「ホテル・カウントダウン」は、前のアルバムを作っていた時期には原型っぽいものがあったし、「ビート」のリフも3rd EP『未来』の頃にはあったと思うので。歌詞はぜんぶ今年に入ってから詰めていったものが多いです。いままでは100%自分の経験をもとにしていたんですが、物語性があるものというか、フィクションみたいに書いたりもしましたね。


ーー作風を広げたかった?


中野:それもあるし、一時期に(集中して)歌詞を書いたから、そんなにたくさん歌いたいこともなくて(笑)。「ホテル・カウントダウン」もひとつの物語を音に当てはめていった感じなんです。情景を思い浮かべながら書くというか。「三月のブルー」もそうですね。


ーー「三月のブルー」のアレンジは、ギターではなく、ピアノが中心ですね。


中野:ピアノで作った曲なんですよ。キャロル・キングみたいな感じでやってみたいなと思って、適当にピアノを弾きながら、自分で“気持ちいい”と思うところを探っていって。好きなように転調しているので、途中からコードネームとかもわからないんですけどね(笑)。いままではほとんどギターで作曲してたから、すごく新鮮でした。


ーー確かに70年代のアメリカのポップスの匂いがしますよね、この曲。「ローリン・バンドワゴン」の作曲はギターの荒谷朋美さんとの共作、「moderato」はキーボードの石橋わか乃さんが作曲に参加。中野さん以外のメンバーも曲作りに関わっているのも、ひとつの変化ですよね。


中野:最近少しずつ、他のメンバーが曲を持ってきてくれるようになってるんです。ベースラインとかギターのリフだったりするんですけど、それをもとにして、みんなで構成やアレンジを考えて。私がせっぱつまってると、“こんなのもあるよ”って曲の原型を聴かせてくれたりするんですよね。


ーータイミングを見計らって?


中野:そうかもしれないです(笑)。「moderato」は石橋が歌詞のアイデアも伝えくれたんです。“彼氏とケンカした背の高い女の人が旅に出る”っていう、けっこう具体的なイメージだったんですけど、そういう作り方も楽しかったですね。


・「5人で“いま”の音をうまく形にできた」


ーー「ビート」の「明日 なにを見つめているだろう/絶え間なく 消えて また 生まれる」という歌詞も印象に残りました。


中野:「未来」と同じくらいの時期に書いた歌詞ですね。夜、ひとりで歩いているときにイメージが生まれたんですけど——その頃、インディーズ時代からいっしょにレコーディングしていたエンジニアの方が亡くなったんです。そのことはすごくショックだったし、歌詞の内容も変わったんですよね。


ーーそうだったんですね…。いま中野さんは、バンドや自分の“明日”、つまり将来像をどんなふうに描いていますか?


中野:たとえば「未来」で歌っていることはかなり漠然としていて、“10年後、こうなっていたい”という具体的なことというよりも、ふと“未来はどうなんだろうな”って思ってる感じなんですよ。もちろん、良くなっていてほしいなという願いはありますけど…。“ここからが未来です”って線引きがあるわけではなくて、毎日が続いていって、気が付いたら年を取っていたという感じなのかなって(笑)。もちろん音楽はやり続けたいですけどね。歌を歌うのは好きだし、楽しいから。興味があることはいっぱいあるけど、音楽を離れることはないだろうなって。…まあ、わからないですけどね(笑)。ずっと変わっていくんだろうなとも思うので。


ーー好きな音楽も変わらないでしょ?


中野:そうですね。誰かに“いいよ”って教えてもらったり、気になったものも聴くようにしてるから、ちょっとずつ幅は広がってると思うんですけど、1回好きになるとずっと同じものを聴いちゃうんですよ。“夜だったらコレ”みたいに何となく決まってたり。


ーーちなみに最近、夜はどんな音楽を聴いてるんですか?


中野:トム・ウェイツとか。あとはニール・ヤングとか、ボブ・ディランの新しいアルバムもよく聴いてますね。『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』というタイトルなんですけど、ずっとオフビートな感じで、夜に聴くとすごくいいんですよ。


ーー相変わらず渋いリスナーですね~。そういう音楽からの影響をDrop'sの作品として表現するためのスキルもさらに向上してるんじゃないですか?


中野:古い音楽は好きですけど、真似しても同じにはならないし、“いま”の感じで鳴らしたほうがいいですからね。プロデューサーやギターテックの方、エンジニアの方もやっぱり古い音楽が好きだし、そういう音に近づくこともあるんですけど、ときどきこちらから“ギターはもう少し新しい感じの音でお願いします”みたいなこと言うこともあるんですよ。私もぜんぜん詳しくないから、偉そうなことは言えないんですけどね。でも、今回のアルバムは5人で“いま”の音をうまく形にできたんじゃないかなって。


ーーライブに対するスタンスについてはどうですか?


中野:少しずつ楽しめるようになってきたかもしれないですね。お客さんといっしょにシンガロングできるような曲とかも作って、コール&レスポンスする場面もあったり。


ーー今回のアルバムでいうと1曲目の「NANANA FLAG」がそうですね。


中野:そうですね。いっしょに歌えたりするとお客さんも楽しそうだし、そうするとこっちも上がるし。あんまり煽ったりはしないんですけどね、私は。


ーーあえて煽らないんですか?


中野:苦手っていうのもありますね。やれば盛り上がるんだろうけど、そういうことをやる気にならない(笑)。まずは自分らが好き勝手に楽しんで、それを見て楽しんでもらえるのがいちばんいいかなって。もちろん、メンバー各々“魅せる演奏”というのも考えているんですけど、淡々と演奏するだけっていうのもカッコいいかなって。


・「基本的には自分たちがいちばん楽しんでる」


ーーDrop'sにはそういうスタイルが似合うかもしれないですね。アルバムの最後に収録されている「ベリーグッドモーニング」についても聞かせてください。すごく開放的なバイブレーションを感じさせる曲ですよね。


中野:鼻歌のメロディから作った曲なんですけど、最初から能天気というか、明るい雰囲気があったんですよね。これをバンドでやったら、カラッと風通しがいい、気持ちいい曲になるだろうなって。歌詞は、散歩したり、車で走ってるときに見える景色だったり、1日が始まる感じを想像しながら書きました。


ーー「輝く東京」というフレーズもありますが、東京という街に対してはどんな印象を持ってるんですか?


中野:すごい好きですね。降りる駅によってぜんぜん印象が違うし、そこにいる人も違うじゃないですか。昼と夜で表情が違ったりもするし、ぜんぜん飽きないです。まだまだ知らない景色が詰まってるんだろうなって。


ーー特に好きな街は?


中野:古い喫茶店が好きだから、神保町とか。この前、初めてひとりで銀座に行ったんですけど、感動しましたね。


ーー昔ながらの喫茶店が残ってますからね。


中野:そうなんですよね。パイプ吸ってるおじさんとかがいて、“こういう街があるんだな”って。


ーー音楽もそうですけど、“古き良きもの”に興味があるんでしょうね。


中野:うん、そういうものには惹かれますね。古着も好きだし、レコードも好きだし。そういうところはずっと変わらないですね。


ーー最後にこの後の展望について。アルバムを3枚作ったことで、ひと区切りついた感じもあると思うのですが、次の作品のビジョンは持ってますか?


中野:いや、あんまりないですね。これまでも“こういう作品を作ろう”と思って作り始めたことはないし、それは今回の『WINDOW』も同じなんですよ。自然にできた曲を集めて、アルバムにして……というのが続いていくんじゃないかなって。ただ、ひと区切り感は確かにあるんですよ。『WINDOW』を作ったことで、とりあえず出し尽くしたところもあるし、いい意味で新しいスタートが切れるんじゃないかなって。アコギを使ったり、フォークっぽい曲もやってみたいし。“こういう曲をやってみたいんだけど”ってメンバーに話して、それをみんなで形にして“いいじゃん!”って言って。そういうことが楽しんですよね、やっぱり。


ーー純粋に音楽とバンドが好きなんですね、ホントに。


中野:そうですね。基本的には自分たちがいちばん楽しんでるというか(笑)。これからも無理せず——まあ、少しは無理したほうがいいのかもしれないけど——続けていきたいと思います。


(取材・文=森朋之)