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DJ HAZIME×元ニトロメンバー座談会 DABO「時代や世代によってラップすべきことは違う」

2015年07月22日 11:20  リアルサウンド

リアルサウンド

『TOKYO 25:00』

 DJ HAZIMEの指揮のもとに始動したプロジェクト、東京弐拾伍時。DABO、SUIKEN、MACKA-CHIN、S-WORDと聞けば誰もが伝説の ヒップホップ・ユニット、NITRO MICHROPHONE UNDERGROUNDの存在を思い出すのではないだろうか。ニトロとして経験を積んだ彼らが2015年に発しようとするステイトメント、そして彼らが見る現在のヒップホップ・シーンとは?


参考:「DJという職種は遊びの延長じゃない」 DJ HAZIMEが9年ぶりのアルバムで問いかけるもの


■MACKA-CHIN「結果的に東京弐拾伍時は、HAZIMEの言った通りにやったら、とてもきれいにまとまった」


――今回の東京弐拾伍時のプロジェクトは、もともとDJ HAZIMEさんが昨年発表したミックスCD『Manhattan Records "The Exclusives" Japanese HipHop Hits Vol.4』に起因するものですよね?


DJ HAZIME(以下、HAZIME):例年発表しているミックスCDシリーズなんですが、昨年のリリースの際に「今年はどういう人たちと曲をやったら面白いかな?」とスタッフと話していたら、DABO/SUIKEN/MACKA-CHIN/S-WORDの名前が挙がったんです。彼らと付き合いはあるものの、長い間一緒に曲を作ることはなかったので、このプロジェクトに関して「どうかな?」と直接電話して反応を窺って。そうしたら各々が「お、面白そうだね」というリアクションだったので、一曲作るところからスタートしました。


――そこで、ミックスCDに収録したエクスクルーシブ・トラック「東京弐拾伍時」が誕生したわけですね。


HAZIME:みんなで集まって、1日かけてレコーディングしました。


DABO:いやー、楽しかったねえ。


S-WORD:このメンバーでのレコーディングは、かなり久しぶりだったけど、そんな感覚もあまり沸かなかったですね。


――その時点では、こうしてミニ・アルバムにまで発展する構想はなかったのでしょうか?


HAZIME:うん、当初は一曲だけの企画だった。でも、ありがたいことに「東京弐拾伍時」の反応が結構あったんで、昨年末に「来年あたり、ミニ・アルバム作ってみようか?」とスタッフと話し合って。じゃあ、もう一回みんなに電話してみようと。


DABO:HAZIMEとスタッフは確実に味をしめたんでしょうね。「評判いいんで次もやりません?」なんていう、とってもストレートなオファーをされましたよ。とはいえ俺らも「イエーイ」みたいなリアクションでしたけどね。もともとDJ HAZIMEの企画ものとして始まったから、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのときや自分のソロ・プロジェクトとは違う楽しさもあったんで。


MACKA-CHIN:だね。懐かしいメンバーではあったけど、新鮮に感じたし。責任とってくれる人もいたんで、気持ちも軽やかでしたから。


――今回、HAZIMEさんは〈A&R兼プロデューサー〉としてクレジットされていますね。


HAZIME:A&Rというよりか、レーベルのスタッフと東京弐拾伍時のメンバーをつなぐ役として動いたという感じかな。しかもね、レーベルのスタッフさんがみなさんの機嫌を損ねる発言を多々するわけですよ。いろんなエピソードがありますが、細かすぎて時間がかかるので、ここではとりあえず割愛しときます(笑)。


MACKA-CHIN:今回はディレクションもHAZIMEがやってくれたんですよ。例えば、レコーディングではメンバーそれぞれが書いたリリックをHAZIMEがチェックする。いざレコーディング・ブースに入って録音すると、HAZIMEが向こう側で「ここ、ズレてる。一箇所だけ気になる」って指摘を入れてくる。しかも、俺としてもちょっと気になってるところを的確に突かれたもんだから、いつの間にかHAZIMEは潮を吹かせるのが上手になったなー、と感じましたよ。結果的に、HAZIMEの言った通りにやったら、とてもきれいにまとまったっていうね。


――ゲストに迎えているアーティストも、AKLOとMURO、そしてPUSHIMとミニマムに抑えられている感じがしました。しかも、過去から現在に向けてそれぞれの世代を代表するアクトですよね。


DABO:当初はゲストはいなくてもいいかな、なんて話してたんですよ。


S-WORD:でも、レコーディングの流れで、フィーチャリングが必要であれば、その都度みんなで話し合って決めようと。


DABO:AKLOをフィーチャーした「Lucifer's Out」は制作段階ではなかなかサビが完成しなくって、そしたらレーベルのスタッフが「こういう感じはどうですか?」って、AKLOにサビを歌わせた音源を録ってきてくれたんだよね。そうした思いがけない形での共演も面白かったね。


■DABO「時代や世代によってラップすべきことは違うと思うんだ」


HAZIME:「時間ヨ止マレ」に参加してもらったMUROくんに関しては、当初BACH LOGICとの共同プロデュースをお願いしていたんですよ。でも途中で「『時間ヨ止マレ』はこういう曲にしたいね」とみんなで話したときに、ここ数年の間でマキくん(キエるマキュウのMAKI THE MAGIC)が亡くなり、ヒロシちゃん(DJ HIROnyc)や、マンハッタンレコードの創業者である平川(雅夫)さんも亡くなって……「時間ヨ止マレ」は追悼の意を込めた曲にしたいということをMUROくんに伝えて。


 そうしたらMUROくんもラッパーとして曲に参加することになって、そのさなかにDEV LARGEが亡くなってしまって。MUROくんがスタジオに入るまで、どんなリリックになっているかわからなかったけど、レコーディングが始まったらDEV LARGEに対するヴァースになっていたんですよ。


――「時間ヨ止マレ」こそ、今のみなさんだからこそラップできる内容になっていると感じました。一緒にシーンで切磋琢磨してきた先輩や仲間が逝去するという出来事も増えてきたと思うのですが。各々どんな思いでこの曲を?


S-WORD:年を重ねるに連れて、こういう出来事に直面することも増えてきてるのは確かだよね。亡くなった人たちが作り上げてきたものは、僕らのなかではすごく熱いものとして残っているけど、世の中にその事実に触れていない人たちもたくさんいる。それは、残っている人間ができる限り伝えていかなきゃっいけないし、それが生きている間にしかできないことだと思う。


MACKA-CHIN:トラックを聴いてインスピレーションを頼りにペンを進ませるというスタイルとは違い、事前にテーマが決まっていて、すごく大切に言葉を磨いて作る曲だったから、すごく難しかった。
 音楽、特にヒップホップは生モノだと思っていて、等身大の今現在の自分を落とし込む音楽だと思うんですよ。俺たちはもうリアルに40歳だし、その40の人間が思う等身大のカテゴリのひとつとして〈生と死〉が存在する。長く生きている人たちにとっては、自然と出てくるトピックになったのかもしれませんね。


SUIKEN:僕の場合、東日本大震災が起こって、その後すぐに嫁の妊娠がわかった。世の中不安だらけの中、子供は無事に産まれてきてくれた。そんな喜んでいる時に母親が亡くなってね。しかも嫁が産後に心不全で危ない状況で入院したり、もういろいろありすぎてね。人の生死に関して。


MACKA-CHIN:ちなみにこの曲のMUROさんの「天まで飛ばそう、そう、そう……」ってリリックは、BUDDHA BRAND「人間発電所」のDEV LARGEの“人力ディレイ”のオマージュで、HAZIMEがMUROくんに「そこも再現しましょう」ってお願いしたエピソードもあります。


――なるほど。それぞれ、NITRO MICHROPHONE UNDERGROUNDとしてデビューしたのが1998年で、当時から17年が経過しているわけですが、「時間ヨ止マレ」然り、かつてニトロとしてラップしてきた内容と今作とでは、全体の質感がまったく異なると感じました。いうなれば、大人の男性のラップがこれなのか、と。そういう世代感は意識されましたか?


DABO:基本的に今回のアルバムはそんな感じかな。でも、それは4人とも無意識に出ちゃったんだと思う。今回の企画に関して、HAZIMEは本当に何も考えてないらしいの。だから、作品に伴う意味付けは俺たちが勝手に付けていった感じとも言える。


S-WORD:ようやく日本語ラップの歴史に厚みが出てきて、上は50歳くらいの人たちも現役で残っている。サウンド面に関しても、昔の焼き直しをしても、当時を知っている人がいれば、昔を知らずに今、初めて知るリスナーもいるし、日本語ラップもやっとここまでたどり着いたのかなって思いますね。


DABO:「この気持ちを曲にしたことないな」という作品が録れた、という感覚はある。3.11の震災時には、「エンジョイしようぜ!」みたいなラップには気持ちが着いていけなかった。考えることも増え、楽しんでいるだけじゃダメなんだと思うこともあって、「今、聴きたいのはこういうんじゃないんだよな」みたいな。そういう心境の変化もあるよね。つまり、時代や世代によってラップすべきことは違うと思うんだ。


――逆に、世代ということでいえば、東京弐拾伍時の皆さんが今の日本のヒップホップ・シーンを見たときに、足りないと思うものはありますか?


S-WORD: 感覚的に、10年くらい前から先に進んでいないような気はしなくもない。作品としてのクオリティは上がっているんだけど、なんだろう……みんながひとつのものに向かっている一体感が不足しているような感じもする。


MACKA-CHIN:なんだろうね、オリジナリティかな。いまだにアメリカの追っかけをしている感じはしますけどね。せっかく日本語で日本人にしかわからない言葉でやってるわけだから、そこはしっかり追求していきたいなとは思う。


DABO:マクロな視点でヒップホップ・シーンを見ていると、日本のシーンにもいろんな村があるわけじゃない。アメリカの真似をしたい子たちの村と、そうじゃないっていう子たちの村。渋谷『HARLEM』でライブする子もいれば、同じく渋谷『Family』でライブする子がいたり、池袋『bed』でライブする子もいる。男2×女1のポップなヒップホップ・グループを組む子もいれば、MCバトルのシーンでがんばってる子もいる。
「昔はさ……」って思っちゃいがちだけど、それってすごく贅沢な悩みなのかなって思うこともあるんだ。昔は村に分かれるほどの人口も存在しなかったわけだから。そういった意味では、ヒップホップ・シーン自体はすごく成熟しているんじゃないかな。


SUIKEN:真顔でカメラ目線で「世界を変える」って言っちゃえるDEV LARGEのようなカリスマがいない。カリスマっぽい人はたくさんいるけど、ヒップホップ・シーンを牽引していくアツい人が存在がいないのかな。


DABO:がむしゃらな人がいないんだよね。俺たちの先輩は革命家みたいな気持ちでヒップホップと向き合ってた人が多かったからさ。今は体温が低めというか、ちょっと内容も冷めているのかなって。別に、それはそれでクールだと思うけどね。


――ニトロは渋谷のカルチャーに根ざしたアティチュードでしたし、当時は渋谷・宇田川町をレペゼンする熱いMCがたくさんいて、ひとつの世界を形成していましたよね。今はあえて自分のテリトリーをレペゼンするMCが減ってきているのかな、と。一方では、KOHHのように地元を語り継いでいく若手もいる。こうした多様性が、ひとつの熱量を分散させているのかなと感じることもあります。もちろん、どちらがいい、悪い、という話ではないのですが。


DABO:「俺たち渋谷だぜ!」っていうラッパーは少なくなったよね。


HAZIME:宇田川町に限って言えば、不足しているのはヒップホップ・カルチャーに根ざしたお店でしょ。


SU:昔はいっぱいあったからね。


HAZIME:今だと『Manhattan Records』や『Grow Around』くらいかな。そういうお店がないと人も集まらない。サッカーでたとえるなら、“10番”的な人がいないんだろうね。たくさんのメディアに露出するZeebraをディスる人もいるけど、彼はそれを承知でメディアでヒップホップの浸透を願っている。じゃあ、「世間一般でいう日本のヒップホップ・アーティストといえば?」となったら、ZeebraやRHYMESTERになってしまうわけで、その象徴は一昔前からずっと変わっていないのも問題なんですよ。サッカーではメッシやクリスティアーノ・ロナウドが活躍しているのが普通なのに、日本のヒップホップはいまだに「ペレ! マラドーナ!」で止まっている感じかな。DJカルチャーに関してもそう。「俺は10番じゃなく、6番くらいで大丈夫っす」みたいな弱腰が増えたと思う。


――そうしたシーンの在り方も含めて、今作はどういった世代に聴いてほしい、という思いはありますか?


DABO:30歳前後の世代に聴いてほしいな。なぜなら、彼らは最後のニトロ世代だと思うから。それに音楽に対するアンテナも高かっただろうから、昔の音楽も掘り下げて聴いているだろうしね。特にヒップホップが好きな人って、雑食性の高い音楽のグルメな人たちだと思ってるから。


S-WORD:僕らの作品は「今、みんなが聴いてるから聴かなきゃ!」っていうサウンドではない。この作品にピンときた人は、なにかしら共通するものを持っている人たちだと思う。そういった人が東京弐拾伍時を広めてくれたらうれしいですね。(取材・文=渡辺志保 (BlackRiverMobb) 写真=cherry chill will ※ライブ写真のみ)