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高橋優が5年間の活動を振り返る「ずっと“笑う約束”をいろんな人たちと交わそうとしてきた」

2015年07月21日 12:41  リアルサウンド

リアルサウンド

高橋優(写真=竹内洋平)

 『高橋優 BEST 2009-2015『笑う約束』』は、デビュー以降の全シングルに加え、インディーズ時代の代表曲、アルバムやライブの人気曲、さらに新曲も加えた2枚組30曲のビッグサイズ。新しいファンの入口として入りやすく、熱心なファンが彼の軌跡を辿りなおすにも十分な深みを持つ作品だ。シンガーソングライターとして、今ここにある切実な思いを歌い続けて来た彼の歌が、どんな感情曲線を描いて今に至り、これからどこへ向かうのか。注目すべき新曲を中心に、じっくりと話を訊いた。


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■「約束って、大人になればなるほど、義務的な言葉になってくる」


--30曲を選ぶのはなかなか大変だったと思うんですけど、選曲はどんなふうに?


高橋優(以下、高橋):シングルは全部入れないと、ベスト・アルバムという表記にできないと思うんですよね。なのでシングルは全部入れましたが、僕が思ったのは、出す以上は自分らしく、高橋優らしい総決算のものを出すのがいいかなと思って、タイトルをまず最初に考えたんですよ。


--選曲の前に?


高橋:そうです。それで『笑う約束』という言葉が出てきて、それに添った楽曲選びをしました。


--なぜ『笑う約束』だったんですか。


高橋:僕がこの5年間で作ってきた楽曲もそうだし、ライブのMCでも言ってきたんですけど、「いつか笑えたらいいね」ということがあって。「こどものうた」の中でも“「生まれて良かった」って笑える日まで/絶望の平成にこどものうた”と歌ってるし、ライブの中では“今日を一緒に笑おうぜ”と言って歌いだして、ライブの最後のほうでは「また会えた時には一緒に笑い合おうね」ということをよく僕は言っていて。端的に言えば僕はずっと“笑う約束”をいろんな人たちと交わそうとしてきたのかな?と。


--ああ、なるほど。


高橋:約束って、大人になればなるほど、義務的な言葉になってくるじゃないですか。「何時にどこで会う約束になってます」みたいな、そういうことが僕の周りでも増えてる気がして、淋しかったのもあって。「次に会ったら笑おうね」という約束はなかなか、言葉にすると気持ち悪いから僕も普段は言わないですけど、でもこの5年間、僕が音楽でやろうとしてきたことというのは、「いつか一緒に笑い合おう」ということだったので。だから『笑う約束』にしました。


--そのテーマに沿った曲を、インディーズ時代も含めて各時代まんべんなく集めた30曲と。


高橋:そうですね。


--その中でも特に気になる、このアルバムで初登場の新曲について、聞いていいですか。


高橋:もちろん。


■「“夢はかなう”と心から信じている人の夢は、きっとかなえられると思う」


--まずは新曲というか、ニューシングルですね。6月に出た「明日はきっといい日になる」。これは高橋優史上、最も明るいメッセージソングじゃないか?と。


高橋:「明日はきっといい日になる」というのは、僕の中でずっと大事にしてきた言葉なんですよね。この曲を書き始めた時にまず僕の中に入って来た情報は、外国で起きたテロのニュースで、総理大臣が「テロには屈しません」と言っている。あれを見た時に、明日から戦争が始まるんじゃないか?というような不安感を、いろんな人たちが煽っているのが目に見えてわかったんですよ。「明日は絶望に満ちてますよ」みたいな、そういう雰囲気に対して反発したい気持ちもあったし。あとは、言霊(ことだま)ですよね。僕はあんまり神様とか宗教とか、そういったものを強く信じるほうではないんですけど、「明日はきっといい日になる」って、一緒に言ってみない?と。それを言い続ければ、「明日はきっと駄目になる」と言ってる人よりは、いいことが訪れやすくなる気がするんですよね。


--ですね。そう思います。


高橋:「絶対大丈夫」と思っている人のところに、大丈夫なことが訪れると思うし、「夢はかなう」と心から信じている人の夢は、きっとかなえられると思うんですね。だから「明日はきっといい日になる」という言葉をいろんな人が口ずさんでくれたらいいという願いを込めて、この曲を書きました。


--それを5年たった今歌えるのが、いいと思います。今だから歌える曲。


高橋:そうです。


--これをライブの最後に歌えば、それまでにどんなに暗い曲を歌ったとしても、全部吹っ飛ばすパワーがあるなと思います。


高橋:今、実際にライブの最後で歌ってたりもしますね。


--あ、本当に? やっぱり。


高橋:さっきまで札幌にいたんですけど、昨日とおととい、ファンクラブイベントをやらせてもらって、アコースティック・ギターの弾き語りで2時間くらい歌ったんですけど、本編の終わりで「明日はきっといい日になる」を歌わせてもらって。おっしゃる通りで、どんな曲を歌っても、その日がどんなふうに終わっても、♪明日はきっといい日になるって口ずさみながら終わるのは、ありなんじゃないかな?と思います。


--そして「今を駆け抜けて」。これは?


高橋:これも「今を駆け抜けて」という言葉を口ずさんでもらえたらいいなと思って書きました(笑)。


--おんなじですね(笑)。


高橋:歌詞の内容として、言わんとしていることはあるんですけど。「今を駆け抜けて/今を愛して」という言葉がサビで何回も繰り返される、そこを口ずさんでもらいたいんですよ。北海道の『アルキタ』というアルバイト情報誌のテーマソングを依頼されて、書かせていただいた曲なんですけど、「その一瞬が、一生を変える」というコンセプトがあって、そのテーマは僕がずっと言わんとしてきたことと類似していたので、曲はスルッとできたんですけど。明日ばかり意識したり、昨日のことを後悔したり、そういうことは多いですけど、今が一番何かをやるべき瞬間だという、ただそれだけのことを歌にしました。あとは、ライブでみんなで歌いたいということですね。


■「“これぐらいでいいんだよ”と言ってるところに甘んじてしまうのが、一番恐ろしい世界」


--DISC2に移って、1曲目が「未だ見ぬ星座」。これは横浜DeNAベイスターズ公式ドキュメンタリー『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』の主題歌になってます。


高橋:これも、野球というところからきっかけをいただいて書いてはいるんですけど。『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』というドキュメンタリー・フィルムを見させてもらって、正直に感じたことは、言い知れぬ危機感だったんですよね。


--危機感というのは?


高橋:プロ野球をやってる方々って、いつ二軍に落とされるかわからない危機感と戦いながら、ファンから罵声を浴びながら、一生懸命頑張って、それでも渾身の一振りで空振りしたりもする。150キロの球が飛んできたら、0.4秒の戦いなんですって。0.4秒で自分の人生が決められちゃう。その瞬間のために何か月も体を作って、それはもう自分との戦いじゃないですか。それがあとで結果となって、数字になって、誰かと比べられたりする。でも恐ろしいのは、数字で比べられるよりも、まあなんとなくの中ぐらいのぬるま湯で、「これぐらいでいいんだよ」と言ってるところに甘んじてしまうのが、一番恐ろしい世界だと思ったんですね。僕は昔、アルバイト時代に経験したことがあるんですけど、お仕事って、「ま、これぐらいでいいっしょ」で終われるんですよ。それでもほめられたりするんですよ。「このぐらいやっとけばいいんだよね。ちょろいもんだよ」って。でもそれで終われる人生って、超怖いと思ったんですよ。


--わかります。


高橋:僕も、好きで音楽業界に入って来たくせに、「この程度の曲でいいでしょ」とか思ってたら、万死に値するということを、『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』を見て思って、何回も泣いたんですよ。5回は泣きました。僕、野球のルールもあまり知らないんですけど、それに命をかけてやっている男の人たちの生き様に、人として学ぶ部分がすごくたくさんあったんですよ。音楽をやる人も、スポーツ選手、次の時代を牽引していくつもりでやらなきゃいけない。そのために責任を伴うし、膨大な努力が必要だし、「無理に決まってるじゃん」とあざ笑われることを覚悟の上でやらなきゃいけない。


--ですね。


高橋:今ある星座をなぞることは誰にでもできる。でも満天の星空の中に新しい星座をみつけて、それに自分の名前をつけるようなことを、僕らはやろうとしてる。まだ誰も見たことのない景色を、自分の理想をかなえることで、誰かに見せてあげたいと思っている人たちが、努力してるんじゃないかと思ったんですよ。それは音楽とかスポーツの垣根を超えてるなと思ったし、僕自身も「高橋優には無理でしょ」と思われてるかもしれないけど、今はまだない新しいスタンダードを自分が作れる日が来るかもしれない。それを信じて歩みたいという決意の歌です。


--「リーマンズロック」は、ライブではやっていて、今回CD初収録の楽曲ですけども。「未だ見ぬ星座」のテーマに通じるところがありますよね。働きながら夢を追う人を励ます曲なので。


高橋:「リーマンズロック」のほうが、弱気ですよね。これはもうちょっと、くじけそうな人のための歌だと思ってます。僕、上京して最初の頃に、少しお世話になっていたある会社のスタッフの方が仕事を辞めるという状況になったことがあって。その辞めぎわに、僕のことを呼び出して、仕事論みたいなことを語られたんですよ。何を語るかと思ったら、社会人の辛さとか、お金を稼ぐことの苦しさで。「アーティストの前でこういう話をしていいかどうかわかんないけどね」って。絶対駄目だろって思いましたけど(笑)。


--笑っちゃいけないけど(笑)。絶対駄目ですよ。


高橋:僕はそれに対して何かしなきゃいけない。アドバイスはできるはずがないから、歌うしかない。「俺みたいな奴がゴマンといることを優くん、忘れないでね」と最後に言われた時に、この曲を書こうと思ったんですよ。


--その話を聞くと、全然聴こえ方が変わりました。この曲の。


高橋:「やりたいことができてる人間がすべてじゃないんだよ」とか言われましたけど、でもそういう人たちの人生が失敗か?というと、僕はそうじゃないと思う。成功か失敗かは自分で決めることができるはずだと思って、その人は今もどこかで頑張ってるはずだし、俺みたいな奴はゴマンといるといった人たちも、それぞれに今の思いがあって、やってるんだとしたら、それはそれでいい人生かもしれないじゃないですか。思い描いたものではないかもしれないけど、喰えて、寝る場所があって、生きてるんだとしたら、それでもいいじゃないか。その上で「いつかかなえたい夢の話をしようよ」って。きれいごとと取られるかもしれないけど、僕はそう歌いたかったんですよ。


--はい。


高橋:「未だ見ぬ星座」は、もっと純粋に夢を描いてるんですけど、「リーマンズロック」はもっと、崖っぷちみたいなところがあるんですよ。作った自分としては。


■「社会的な服を脱ぐタイミングでこの曲を聴いてほしい」


--そしてDISC2のラストに収めた新曲「おかえり」。これは本当にいい曲。大好きです。


高橋:ありがとうございます。これもドラマ(『明日もきっと、おいしいご飯~銀のスプーン~』)の台本をいただいて、書かせていただいた曲ではあるんですけど。僕は最近、「旅人」とかいろんな曲で歌わんとしていたことの一つに、“帰る場所”というテーマがあって。僕の偏った考え方ですけど、人はなぜ学校に入り、就職し、働いてお金を稼ぎ、恋愛して結婚して子供を育てることを、なぜこれほどまでに頑張ってやっているのか?と考えた時に、もしかしたら、誰かにとっての帰る場所を築こうとしてるのかな?と思った時があるんですよ。


--帰る場所、ですか。


高橋:お父さんとお母さんは、自分にとっての帰る場所じゃないですか。そのお父さんとお母さんも、最初からお父さんお母さんだったわけじゃなくて、結婚して自分を生んで、帰る場所になってくれたわけじゃないですか。今を生きている僕らも、やがて誰かにとっての帰る場所になっていくんじゃないか?と。それがこの曲のヒントになったのと、あと一つは、東京の街を歩いていて、たとえば渋谷の人混みの中で、小学校5~6年生ぐらいの男の子たちが、コンビニのサンドイッチやおにぎりを食べながら、笑って話してるのを見たんですよ。その景色自体は微笑ましいんですけど、田舎育ちの自分からすると、「家に帰ってメシ食わないの?」って思うんですよ。


--ですよね。


高橋:なんでそこで晩メシ食ってるの?って、すごい違和感を感じる。親は何してるの?って聞きたくなるんですよ。この子たち、ちゃんと「おかえり」って言ってもらえてるのかな、「ただいま」と言える場所があるのかなって、聞きたくなった時があって。あると信じたいですけどね。ちょっと反抗期で、家でメシ食いたくないとか、それならいいんですけど、ふと不安になるんですよ。この子たちに、「おかえり」と言ってくれる場所がないのなら、なんて孤独な時代なんだろうと。僕の思い込みですけどね。その時に、すごい埃をかぶってるありきたりな言葉だけど、「おかえり」という言葉の尊さ、「ただいま」と言える幸せを歌にしても、何かしらの価値が生まれるんじゃないかな?と思って書いた曲です。


--もう一つ言うと、すでに高橋優の歌を、帰る場所のように感じているリスナーがいると思うんですよ。そういうことも含まれているのかなと思います。


高橋:そう言ってもらえるとうれしいですね。社会的な服を脱ぐタイミングでこの曲を聴いてほしいという願望が、個人的にはあります。みんな、何かしらの服をまとっていて、仕事着や作業着、モード系やストリート系、でも身にまとってるものを脱いだ時、人間である以上だいたい同じ体じゃないですか。


--ですね。


高橋:寝る前とかに、「ああ、今日も楽しかった」なのか「今日も大変だった」なのか、それはわからないけど、戦闘服を脱いでありのままの姿になった時に、「おかえり」という言葉をかけてあげられればいいなという、僕の勝手な理想があって。そういう瞬間にこの曲が奏でられていたらいいなという想像をしながら書きました。


■「高橋優の存在を面白がってもらいたい。そのためには、どんな形であれ、歌い続ける」


--今の話を聴いていて、新曲はもちろんですけど、過去の曲も、聴き方が変わるような気がしましたね。しかも優さん、今すごくいい顔してるなあと思います。


高橋:マジですか?


--ずっと見ていて、あまりいい顔をしてない時期も、正直あった気がするので。メジャーデビューして1~2年たった頃、「周りの状況に流されているような気がする」っていう話をしれくれたこと、ありましたよね。


高橋:ああ、そうですね。2013年あたりで吹っ切れたんですけど、2012年の頃ですよね。あの頃は確かに、いろんなことに葛藤しながらやってましたね。


--タイアップをもらうのはうれしいけど、そういうことに慣れてしまうのが怖い、とか。


高橋:怖かったですね。


--そういうことを、さっき「未だ見ぬ星座」の話をしてる時に、思い出しました。でも今はもう、その時期は乗り越えたんだなと。


高橋:そこはたぶん、バランスだと思うんですよ。例えばタイアップのお話だって、いただけることはすごく幸せな、ありがたいことだと思うんですよ。自分の楽曲をいろんなシチュエーションで聴いてもらえるわけですから。ただその機会をいただくということは、先方のリクエストとか、何かしらの限定条件が来るわけで。俺はそんな限定条件なんて受け入れねえよというシンガーになろうと思えば、それがカッコいいととらえれば、それはそれでいいのかもしれないけど、僕が抱こうとしてるプライドの位置は、そこにはないんですよ。


--はい。


高橋:最終的に、音楽を楽しんでもらいたい。高橋優の存在を面白がってもらいたい。そのためには、どんな形であれ、歌い続けること。それをやらせてもらっている以上は、それ以上の何かを今の僕は言うべきじゃないと思ってます。やりたいと思ったことは言いますし、疑問を感じたら「なぜやるのか」を聞いて、お互いに納得するようにしますし。頭ごなしに「俺はやらない」も違うし、「俺をわかってくれ」も違うし、「そうか、わかった、じゃあどうしていこうか」という、ちょうど間を見つけていくということをやっていくのが、自分一人だけじゃなく、みんなで協力して進歩していく上ですごい大事なことだと思うんですね。だからデビューして2年目あたりは、自分のことをわかってほしくてしょうがなかったんでしょうね。我慢しすぎてて。


--そうだったと思います。


高橋:今はそんなに我慢しなくても、高橋優が何を考えているか、スタッフが聞いてくれるし、リスナーのみなさんも、以前よりも高橋優のことを面白がってくれてるような気がするんですよね。今思うと、ああいう経験をさせてもらったのは、すごくありがたかったと思うし、今とてもいい環境でやらせてもらってることに感謝してます。(宮本英夫)