2015年07月20日 14:01 弁護士ドットコム
サッポロビールのヒット商品「極ZERO(ゴクゼロ)」の酒税をめぐる問題は、まだまだ騒動が終わる気配がない。サッポロビールは国税当局に対して、いったん納めた酒税を返還するよう異議申し立てをおこなった。
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極ZEROは2013年に「第3のビール」として発売されて大ヒットしたが、国税当局から「第3のビールにあたらない可能性がある」という指摘を受け、販売をいったん中止。「発泡酒」として再発売した。そして、第3のビールとして販売した分について、追加の酒税115億円と延滞税1億円を自主的に納めていた。
その後、社内の独自調査にもとづいて「極ZEROが第3のビールである」と判断し、今年1月に、酒税の返還を求めていたが、国税当局は4月下旬、サッポロに対して「返還しない」という内容の通知をおこなっていた。
今回の異議申し立てが認められる可能性はあるのだろうか。行政訴訟に詳しい湯川二朗弁護士に聞いた。
「今回の異議申し立ては、次のような流れの中で行われました。
(1)極ZEROは発泡酒にあたるとして、差額の酒税を納付した
(2)サッポロの調査の結果、極ZEROは第3のビール(リキュール)にあたることが分かったとして、差額分の還付を申請した
(3)税務署長から差額分は還付しないとの通知を受けた
(4)その通知に対して、国税通則法に基づいて異議申し立てをした」
湯川弁護士はこのように述べる。
「通常は、行政の決定に不服があるときは、行政不服審査法に基づく異議申し立てまたは審査請求をします。
原則として、処分庁の上級庁がないときは異議申し立てをして、処分庁に上級庁があるときは審査請求をします。
処分庁と上級庁というのは、簡単に言えば、行政の決定をした機関とその上の機関のことです。
地方裁判所に対して処分取消訴訟を提起することもできます。不服申し立てと裁判、どちらをしてもよいことになっています。
しかし、今回のように国税の場合には、税務署長の処分に対して異議申立てをして、その決定に不服があるときは、さらに国税不服審判所長に対して審査請求をし、さらにそれに不服があるときに限って訴訟を提起することができます」
異議申立てとは、どのような仕組みなのか。
「異議申立ては、簡易迅速な権利救済を図る制度です。書面審理で行われ、90%以上の事件が3か月以内に終了し、納税者の請求が認められる割合は10%弱です。
ちなみに、審査請求で納税者の請求が認められた割合は、ここ最近は8%前後で、訴訟になると7%前後です。
異議申立ては、審査請求や訴訟に比べると、まだ少しは納税者の権利救済に役立っているということができるかもしれませんが、納税者の実感に照らすと、救済率は低いと言わざるを得ません。
では、今回も認められる可能性は低いのか。
「今回の極ZEROのケースについても、異議申立てが認められるハードルは低くないことが想定されます。しかし、いったん自主納付したうえで、社内で十分に検証して証拠資料を整えて異議申立てに及んでいることからすると、異議申立てやその後の審査請求で、第3のビールにあたると判断されることも、十分あり得るのではないかと思われます」
現状では使いやすい制度になっているのか。
「異議申立てと審査請求の2段階の手続きを経なければならないのは、納税者の利便性を損ないますので、行政不服審査法が改正され、審査請求に一元化されることになりました。
もっとも、納税者はこれまでの異議申立てと同じく、元の処分庁に対して再調査の請求を求めることができるとされています。ただし、審査請求を経た後でないと、訴訟が提起できないことには変わりはありません。この新しい制度は来年度から施行されることになるでしょう」
湯川弁護士はこのように述べていた。
【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。
事務所名:湯川法律事務所
事務所URL:http://www.bengo4.com/kyoto/a_26100/g_26104/l_123648/
(弁護士ドットコムニュース)