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MINMIが最新リミックス盤で提示した“遊び”としての音楽とは? 磯部涼が楽曲解説&テーマ分析

2015年07月20日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

MINMI

 リミックス、リエディット、リコンストラクト……ポップ・ミュージックにおいて、オリジナルの音源を改変したり、素材として使用することで、もともと持っていたポテンシャルを引き出す、もしくは、まったく違ったものをつくりあげる手法は様々な呼ばれ方をしている。そして、この『新MINMI☆FRIENDS~“BAD”“MINMI”というネタをラッパー、トラックメーカーがどう料理したのか~』で行われていることは、例えば〝リプレイ〟と名付けるとしっくりくるのではないだろうか。何故なら、文字通り〝リプレイ=再演〟という意味でもあるが、〝リプレイ〟に含まれている〝プレイ(遊び)〟という単語のニュアンスが本作を象徴しているように思えるからだ。


 MINMIの近作『I LOVE』(2013年7月)から2曲、『BAD』(2014年9月)から11曲を選んで、トラックメーカーやディージェイ、ラッパーなど多種多様なアーティストたちに託した『新MINMI☆FRIENDS』は、そう言いたくなるぐらい遊び心に満ちているし、そもそも、このアルバムに収められた多くのトラックが志向しているダンス・ミュージックは〝遊び〟のための音楽である。ただし、それは、チャラいとかいうことではなく、古来、日本で〝遊び〟という言葉が音楽を楽しむことを指していたように、〝遊び〟こそは音楽の本質なのだ。また、本作は、ダンス・ミュージックの盛り上がりによって、さながら、世界がひとつのプレイグラウンド(遊び場)になったかのような現在の音楽の状況をコンパイルしたアルバムだとも言える。では、具体的に各楽曲を解説しながら、そういった全体的なテーマについて考えて行こう。


 『新MINMI☆FRIENDS』は、イントロに続いて、アルバム『BAD』でも1曲目に据えられていたタイトル・トラックを、同曲のトラックメイカーであるRED SPIDERが、同じリディムを使ったBES「解き放て」、KENTY GROSS 「かも知らん?!」とミックスした、いわゆるワン・ウェイもので幕を開ける。RED SPIDERは言うまでもなくMINMIとは大阪時代からの長い付き合いであり、「BAD」は原点回帰を感じさせるようなダンスホール・チューンでもあるけれど、キャバレー風のイントロに続いて打ち鳴らされるビートは、ステッパーズをミニマル・ダブにリミックスしたようだし、だからこそ、ワン・ウェイがまるでテクノのDJ・ミックスのように聴こえる辺り、同曲がダンスホール・レゲエをアップ・トゥ・デイトし、クロスオーヴァーを試みていることが改めて分かる。


 続く「EZ」(トラック02)はダンスホールから一転してのラップ・チューン。オリジナルは、00年代以降の日本のラップ・ミュージックにおける最重要プロデューサーであるBACH LOGICが手掛けた、Snoop Dogg「Drop It Like It's Hot」をハードにしたようなビートに乗って、MINMIがやはりハードだが何処かキュートなラップを聴かせる楽曲だったが、本作収録のリミックスでは、彼女に代わってBACH LOGIC主宰のレーベル<ONE YEAR WAR MUSIC>(O.Y.W.M.)に所属するラッパー=AKLOがまさに遊び心に満ちた洒脱なワード・プレイを聴かせる。


 そのAKLOを始め、『新MINMI☆FRIENDS』の特徴のひとつは多くの個性的なラッパーが起用されていることで、例えば、「イチャイチャ」をデレデレなオリジナルからツンデレな楽曲へと生まれ変わらせたのは、癖のある声とメロディアスなフロウが持ち味である、やはり、<O.Y.W.M.>所属のSALU(トラック11)。ちなみに、新たなヴァージョンのトラックを手掛けているのは、BACH LOGICと共に同レーベルを立ち上げたJIGGだ。また、「スマホ(SeasonⅡ)」(トラック12)は、MINMIが、関西弁のフロウを生かすことに関しては右に出るものはいないラッパー=SHINGO★西成と2人で不器用な恋愛を歌った「スマホ」の後日談。過激な表現が話題になったセクシーなダンスホール・チューン「#ヤッチャイタイ」は、韓国のラッパー=Keith Apeにフィーチャーされた「It G Ma」が世界中でバズを巻き起こしている、いま日本のラッパーで最も勢いがあると言っても過言ではないKOHHによって、さらに過激な……と思わせておいて、迷えるキッズの背中を押すメッセージ・ソング「#ヤッチャッタ」(トラック05)へと生まれ変わっている。こちらのトラックを手掛けているのはKOHHの相棒的存在の理貴。


 そして、『新MINMI☆FRIENDS』のもうひとつの目立った特徴は、ダンスホール・レゲエやラップ・ミュージックと、ベース・ミュージックをクロスオーヴァーさせるような試みが随所で行われていることである。「TONITE」(トラック04)で起用されているのは、MINIMIや湘南乃風のバック・セレクターとしてもお馴染みのThe BK Soundと、ラップのトラックにエレクトロニック・ミュージックのモードを持ち込むセンスに長けているSONPUBからなる、日本のMajor Lazorとでも言うべきプロデューサー・ユニット=Monster Rion。BPM150のEDM・ミーツ・ソカなトラックに余裕で食い付いていくJ-REXXXも素晴らしい。一方、先述のKOHH&理貴とはまた違ったベクトルで「#ヤッチャイタイ」をアッパーなダンス・チューン「#ヤッチャイナ」(トラック06)にリモデリングしたのは、ベース・ミュージックの様々なサブ・ジャンルをミックスするスタイルで注目されているDJ/プロデューサー・ユニット=HyperJuice。彼らはMINTやJinmenusagiといったラッパーとの絡みも多いが、今回、フィーチャーされているのは、女子ラップ・デュオ=MaryJane。ちなみに、片割れのTSUGUMIは、DJ SOULJAH feat. KOHH & MARIA「aaight」がヒットしたことが記憶に新しい<illxxx Records>主催のKENSHUによる「Walk-in closet」のリミックス(トラック14)でもラップを聴かせてくれる。


 さて、引き続き、ダンスホール/ラップとベース・ミュージックのクロス・オーヴァーという観点からアルバムを解説すると、このアプローチにおける先駆者とも言えるDJ/プロデューサー・ユニットのHABANERO POSSEは、サンバをベースにしたエモーショナルな「ラララ~愛のうた~」を、ドープなトラップからアッパーなゲットー・テックへとスウィッチするトラックに、Jazee Minorの素晴らしく下世話なラップをフィーチャーすることで、愛というよりは〝性のうた〟に転換している(トラック08)。また、2010年に音楽制作を始めたばかりであるものの、今や日本におけるEDMの新世代を担う存在になっているbanvoxは、乙女・EDMと言いたくなるようなキュートな「jealous」を、アーメン・ブレイクとワブル・ベースを効かせ、フロア向けにリビルドしているが、そこにラップを乗せているのが95年発表の日本語ラップ・クラシックであるキングギドラ『空からの力』の20周年記念盤もリリースされたばかりのベテラン=K DUB SHINEだという組み合わせの妙も面白い(トラック07)。


 他にも、banvoxと同じく、ネット・レーベル<Maltine Records>からリリースし、今年、Seihoとのユニット=Sugar’s Campaignでメジャー・デビューも果たしたAVEC AVECは、京都のシンガー=粧(Mei)をフィーチャー。先述のMonster Rionによるスカ・チューン「MONSTER SUMMER」を、彼らしいバブルガムなベース・ミュージックに一変させている(トラック10)。CUBISMO GRAFICOの松田〝CHABE〟岳士が、「いていたいよ」の壮大なムードはそのままに、リズムをより細かく刻み、PANORAMA FAMILYのセンチメンタルなラップを乗せることで、原曲とはまた違ったニュアンスを生んでいるのも見事な仕事だ(トラック13)。そして、アルバムの中でも最も悪ノリと言っていいくらい遊びまくっているのがアイドル・グループ=Especiaのプロデュース・ワークで知られるSchtein&Longerこと横山佑輝による「サタデー・ナイト」で、一応はMINMIの「パラレル・ワールド」をネタにしているらしいが、そもそも、タイトルさえまったく違うものになっているし、ヴェイパー・ウェイヴ風のイントロから、突然、エレクトロ・ブギーにスウィッチする楽曲は、Especiaをフィーチャー……というよりは、完全に彼女たちのオリジナル。こういったアプローチさえも許してしまうのが『新MINMI☆FRIENDS』の懐の深さと言ったところだろうか。


 このように、『新MINMI☆FRIENDS』は、EDMがグローバルなポピュラー・ミュージックとなり、ベース・ミュージックがアンダーグラウンドなネットワークを広げていく中で、ジャンルの壁が壊れたというよりは、むしろ、新たに多くのサブ・ジャンルが生まれ、日々、それらが様々な組み合わせによって盛んに交配を行っている、現在のダンス・ミュージックのダイナミズムに対する日本からの回答とでも言うような性格を持っている。ところで、アルバムの幕を閉じるのは、「BAD」(トラック02)でもリミックスを手掛けたRED SPIDERのプロデュースのもと、ハードな4つ打ちの上でKENTY GROSS、BES、APOLLOといった大阪のディージェイたちがマイクを回す「さくら」の新たなヴァージョンだ(トラック15)。この楽曲で歌われているメッセージは言わばジェネレーション・ギャップを越えようということだが、『BAD』のリリース時に、MINMIは同アルバムのコンセプトについてもこう語っていた。


 「『I LOVE』のツアーが終わったときに、次の大きな挑戦としては、母親であることとか、女性であることとか、年齢に縛られない自分を表現していきたいって思って」。また、そう思わせてくれたのは他でもないダンス・ミュージックだったという。「この7年間くらい子育て中心の生活で、ダンスミュージックを聴いたり、クラブに行くこともなかったんです。でも、子どもも大きくなって、そういう自分の時間を持てるようになって、母親っていうのとは違う世界がまた見えるようになってきて」。そして、MINMIは〝遊び〟を通して改めてアイデンティティに自覚的になっていった。「何歳なのに結婚してないとか、何歳なのに子供がいないとか、そういうのなんて統計でしかないんだし、勝ち組・負け組みたいな境界線は誰かが決めたものなんだから、自分が一番やりたいタイミングでやりたいことをやることに勇気を持ってね、みたいな。そういうことを感じ取ってもらえるアルバムであって欲しい」(引用はhttp://www.universal-music.co.jp/minmi/news/20140821 より)。あるいは、『新MINMI☆FRIENDS』という、様々な個性が自由に遊ぶプレイグラウンドも、そんな彼女の思いを発展させたものだとは言えないだろうか。このアルバムをリプレイ(再生)する度に、あなたもまた自由になっていくだろう。


(文=磯部涼)