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ケミカル、T・ラングレン、DJ NOBU、VILOD……今聴くべきテクノ~エレクトロニカ系新作は?

2015年07月19日 14:10  リアルサウンド

リアルサウンド

DJ Nobu『Nuit Noire』(BITTA)

 今回から不定期連載で内外の新譜を紹介することになりました。ストリーミング型音楽配信時代の到来でキュレーションやリコメンドの重要性が再認識されているわけですが、膨大な量の音源がメジャー/インディ、有料/無料問わずあふれかえっている状況で、情報の渦に埋もれてしまいがちなちょいマイナーなものを中心にご案内したいと思います。邦洋ジャンル国内盤輸入盤は問いません。ここ2ヶ月ぐらいの間に新譜としてリリースされたものを紹介しますが、場合によっては再発盤も扱うかも。基本的にレコード店やネットショップなどで誰にでも買えるものを選びます。第一回の今回はテクノ~エレクトロニカ系から。すべて発売済です。


 6~7月のテクノ系新譜ではベックやセント・ヴィンセントが参加し、最高傑作と断言したいほど密度の濃いザ・ケミカル・ブラザーズの新作『ボーン・イン・ザ・エコーズ』が超目玉ですが、この欄でまずおすすめしたいのは、DJ NOBUのミックスCD『Nuit Noire』(BITTA / OCTAVE-LAB/ Ultra-Vive)です。千葉県出身のテクノDJ、これが2年ぶり3枚目のミックスCDです。ネット上に有名/無名DJ問わずフリーのミックス音源が溢れかえっている現在、あえて有料のミックスCDを出すのは大きな意味があります。ひとつひとつをとってみれば「部品」に過ぎない楽曲がDJ NOBUの手によって自在にミックスされ血が通い、80分弱の深遠にして壮大なストーリーをもった音世界として再構成される。ディープでサイケデリックな<電子音楽をめぐる壮大な物語>を紡いでいた前作に対して、今回はダンス・フロアよりにシフトした作りになっていますが、日常からかけ離れた別世界に飛ばされる感覚は変わりません。ハードでダークな音ですが、集中して聴くうちに脳内に妄想が広がって止まらない感じ。圧倒的な空間構成力、そして緩急起伏に富んだ物語を語り尽くすストーリーテリングの力。おそるべき技術と作家的腕力です。間違いなくテクノDJミックスの世界最高水準でしょう。


 海外に目を向けてみましょう。チリ出身のミニマル・テクノの第一人者リカルド・ヴィラロボスと、元サン・エレクトリック~モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオのマックス・ローダバウアーのデュオ、VILODのファースト・アルバム『Safe in Harbour』(PERLON / Disc Union)です。シンプルな四つ打ちのトラックはほとんどなく、シンコペイトする変則リズムを中心としたエクスペリメンタルなミニマル・テクノ~エレクトロニカです。アブストラクトでありながらプリミティヴなグルーヴと亜熱帯の熱を感じさせる「テン年代のジャズ」としても聴ける傑作と言えるでしょう。起伏に富んだ繊細で官能的なアレンジと音色が、聴けば聴くほど味わい深い。このへん、できるだけいいオーディオ装置で、大きな音で体感したいところ。


 オランダのDJ/プロデューサーのボビー・ビューニックことCONFORCEの『Presentism』(Delsin)。いわゆるミニマル・ダブと言われるタイプですが、今作はメロディアスで繊細な歌心を感じさせるアトモスフェリックでムーディーなアンビエント・ハウスとしても聴ける仕上がりになっています。深夜に酒でも飲みながらぼんやり聴いていると、とても気持ちがいい。Apple Musicを始め各種ストリーミング配信サイトでも配信されているので、まずはお使いのサービスで聴いてみてください。


 2年前のファースト・アルバム『レガシー』が衝撃的だったシカゴ・ゲットー発のジューク/フットワークの第一人者RP ブーの新作『フィンガーズ、バンク・パッズ、シュー・プリンツ』(melting bot / Planet Mu)。ファーストも凄かったですが今回も凄い。エキセントリックで変態的なポリリズムと、発狂したとしか思えない素っ頓狂なサンプリング、徹底的に無機質で乾いたグルーヴが、シンプルにしてフィジカルなパワーを生む、まさしくゲットー・ファンクの真髄です。お上品さのカケラもない真性ストリート・ミュージックですが、同時にダンス・ミュージックの最先端でもあります。途方もない活力に溢れた大傑作です。Apple Musicで配信されています。


 最後に。フジロックの出演も決定しているトッド・ラングレンの『ランダンス』です。トッドは先日『グローバル』というEDM仕様の新作ソロを発表、日本盤にはYMO「テクノポリス」の、いろんな意味でヤバいカヴァーをボーナス収録して話題を呼びましたが、これは北欧ノルウエーのNu Disco系の旗手リンドストロームのハンス・ピーター・リンドストロームと、ノルウエーのシューゲイザー・バンド、セレナ・マニッシュのエミール・ニコライセンとの共作。内容はといえば、ずばり、トッドの中期ソロ『未来神(Initiation)』(1975年)を彷彿とさせるコズミックでスペイシーでアンビエントでサイケデリックなテクノ~エレクトロの一大絵巻です。トッドが率いていたユートピアの初期作品のようなプログレの要素もあります。リンドストロームらしいバレアリック・ディスコのリズム、シューゲイズ風味も加えた、徹底してドラッギーで甘美で浮遊感漂うサウンドは、もはやこの世のものとは思えない気持ち良さ。トッドと言えばポップな歌ものばかりが評価され、『未来神』やユートピアの初期作品のようなアバンギャルドなプログレ的側面は徹底的に無視されていますが、『未来神』のリリースから40年、改めてあの時代のトッドの先進性は評価されるべきでしょう。しかも本作『ランダンス』は、トッドらしい朗々と歌い上げる幻想的な歌ものもフィーチュアされ一粒で2度美味しい。大きな声では言えませんが、『グローバル』の1万倍は素晴らしい大傑作。フジロックは全曲本作の再現でやってもらいたいぐらいです。
 
 ご紹介すべき新譜はまだまだありますが、今回はこのへんで。次回をお楽しみに。(小野島大)