年間の利用客数が11億1600万人と私鉄1位を誇る「東急」、東京急行電鉄。関連会社にレジャーから警備、介護、不動産など220社を抱える巨大グループ企業で、売上高2兆円、従業員2万人にものぼる。
この6月からは二子玉川駅近くに建設した巨大オフィスビルに、楽天本社の従業員1万人の職場が移転し始めている。7月9日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、東急電鉄の野本弘文社長をゲストに招き、人口減少にも揺るがない攻めの経営戦略を聞いた。
鉄道の収益を支える「沿線の街の魅力」
関東には私鉄が8社あり、東急は渋谷を起点に東京南部や神奈川県に路線を伸ばしている。沿線には高級住宅街の「田園調布」や、ファッションの街「代官山」、スイーツの激戦区「自由が丘」など、全国的にも有名な人気の駅が連なる。
1922年に目黒蒲田電鉄として開業した東急電鉄は、野原を拓いて沿線に宅地を造成。「住みたくなる街づくり」を行いながら、鉄道を延伸していった会社と野本社長は振り返る。
「いかにお客が便利になるか、そして鉄道を利用してもらうか、沿線の人口をいかに増やすかということで安定的な収益源をつくった」
1966年、田園都市線とともに「たまプラーザ」を開発。駅周辺に商業施設を配し、住宅地には店を置かず静かな街づくりを実現。歩道を広く設計するなど、暮らしやすい工夫で人気となった。
そんなニュータウンも開発から30年経ち、丘陵地を切り開いて作った坂道の多い街は高齢者が住みにくい土地に。そこで東急は駅前に高齢者向けのマンションを建設し、坂が多い地域の一戸建てに暮らしていた高齢者の住み替えを促進した。
世代が循環しながら成長し続ける街を目指す
新しいマンションはバリアフリー構造で駅に直結し、買い物代行をはじめとする43種類のサービスが備わっている。空いた一軒家は子育てファミリー向けにリフォームし、若い世代を呼び込んだ。野本社長はこう語る。
「街自体が住民の年齢と共に歳をとるのではなく、いろいろな世代が循環をしながら成長し続けることが大事です」
東急は沿線の人口は2020年をピークに減少すると予測しており、打ち出した新たな戦略は「街そのものの魅力をあげる」ことだ。今年4月には渋谷から6つめの二子玉川駅前に、商業施設「ライズ」や蔦屋家電1号店をオープン。いずれもここにしかない店で付加価値を高めている。
さらに、これまで「住む・ショッピング」というイメージだった二子玉川を、「住んでよし・働いてよし・訪れてよし、の三拍子揃った街」にするため、巨大なオフィスビルを建設した。
ここには楽天本社の移転が決まっているが、東急の目的は「職住近接」。働く人に沿線に引っ越してもらうのが狙いだ。すでに「職住近接」を実現しているデザイナーの磯村さんは、二子玉川のシェアオフィスで働き、自宅までは自転車で10分ほどだ。
教養に支えられた戦略的な洞察力を感じる
磯村さんは以前通勤に1時間ほどかけていたが、これがほぼなくなった。「1日の時間を有効に使えるのがポイント」と語る。2歳の娘さんと接する時間が増え、保育園に送るのが楽しみな日課だ。
地域の交流から、地元の仕事も依頼されるようになった。磯村さんは「暮らしがその地域にあると、仕事上のネットワークにも非常に有効で、『暮らし』と『働く』が一緒になったメリットがある」と語る。
番組では、東急が仕掛ける100年に一度という渋谷の大規模再開発も紹介。箱ものだけでなく渋谷をITの街にしようと、ITベンチャー・クリエーター交流会を開催するなど、街の魅力や価値を高める戦略を続けている。
かつて渋谷や池袋の街を活性化した西武百貨店の堤清二氏は、小説家や詩人としても有名で文化の理解者だった。東急の野本社長の戦略的な洞察力も、人間社会というものがどういうものであるかという深い教養のようなものに支えられている気がした。(ライター:okei)
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