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「フェードアウト」は非常識?「バイトを辞めたい」女子高生がとるべき対応とは・・・

2015年07月19日 09:51  弁護士ドットコム

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アルバイトを辞めたいと店長に相談したところ、「何言ってんだ」「無理だからな」と言われた――。インターネットのQ&Aサイト「OKWave」に、18歳の女子高生という相談者から投稿があった。


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相談者は飲食店チェーンでアルバイトをしている。肉体的・精神的にきつい仕事で、しかもセクハラやパワハラを繰り返す店長が人間的に嫌いだという。先日、「夏ごろにはバイトを辞めたい」と店長に申し出たところ、相談者が体調不良で休んだことやレジを打ち間違えたことを大目に見ていたとして、「恩を仇で返すな」「とにかく無理だからな」と言われたそうだ。



相談者は免許合宿のための長期休暇をもらっており、「そのままフェードアウトしようか」「この辞め方は非常識なのか」と悩んでいる。はたして、女子高生は、どのようにアルバイトを辞めればいいのだろうか。労働問題にくわしい古金千明弁護士に聞いた。



●「フェードアウトを法的に正当化することは難しい」


「会社と合意できない場合でも、フェードアウト、つまり、無断欠勤したまま辞めていくという方法はおすすすめできません」



古金弁護士はこのように述べる。どうして、そういえるのだろうか。



「アルバイト契約は、法的には『労働契約』(雇用契約)に分類されます。一方的にフェードアウトしてしまうと、従業員の『契約不履行』となり、あとから損害賠償を請求されるリスクが残ってしまうからです。



たしかに、フェードアウトをしても、現実的には、会社が『不問』にしてくれることがあるでしょう。しかし、そうでない場合は、フェードアウトを法的に正当化することは難しいため、問題がさらに拡大するリスクがあります」



●アルバイト契約に「期間の定め」がない場合


では、アルバイトを辞めたいとき、どうすればいいのだろうか。



「会社と従業員の間で、退職について合意できなかった場合、従業員から退職する場合の手続きは民法に定められています。



まず、アルバイト契約に『期間の定め』がなかった場合、会社に対して退職する旨を申し出れば、退職することができます。理由は必要ありません。申し出から『2週間』が経過した時点で、原則として、退職の効力が生じます(民法627条1項)。



ただし、月給制など、期間で賃金が決まっている場合は、退職の申し出の効力は次期以降に対してのみすることができ、かつ、当期の給与計算期間の前半にする必要があります(民法627条2項)。



たとえば賃金が月給制で給与計算期間が毎月末締めの場合、7月末に退職をしたい場合は、7月15日までに退職の意思表示をする必要があります。しかし、7月16日以降に退職の意思表示をすると、8月末にならないと退職の効力が生じません。



なお、退職の申し出は、口頭でもできますが、その日付を明らかにするためにも、退職届を郵送するか、メールで送ったほうがよいでしょう」



●アルバイト契約に「期間の定め」がある場合


では、契約期間3カ月など、アルバイト契約に「期間の定め」がある場合はどうなるのか。



「その場合でも、『やむを得ない事由』があれば、契約期間内でも労働契約を解除して、退職することができます(民法628条)。



今回のケースでは、店長がセクハラやパワハラを繰り返していたようです。あくまで、その事実関係しだいですが、その内容が『違法である』と評価されるほど『ひどい』場合は、『やむを得ない事由』に該当する可能性があります。



ただし、セクハラやパワハラの事実の有無については、証拠がなければ、会社が事実を認めないこともあります。



ICレコーダー等で録音したり、具体的な事実関係をノートに手書きでその都度記録したりして、事前に証拠化しておくとよいでしょう。



また、『やむを得ない事由』がなくても退職できる場合が2パターンあります。



1つめは、契約期間が2年など、アルバイト契約に1年を超える『期間の定め』がある場合です。この場合は、1年が経過した後は、いつでも退職をすることができます(労働基準法137条)。



2つめは、アルバイト契約の契約期間が満了した後も勤務を続け、会社が異議を述べずに契約が黙示的に更新されている場合です。この場合は、『期間の定め』がない場合と同様の手続で、民法627条に従って退職することができます(民法629条1項)」



●未成年の場合のルールは?


今回は、18歳女子高生という未成年のケースだ。特別なルールはあるのだろうか



「未成年者の場合、アルバイトを始める際に、法定代理人である親権者(父母)が同意する必要があります。そうでなければ、アルバイト契約を取り消すことで、未成年者は退職することができます(民法5条2項)。



また、親権者が同意をしていた場合でも、アルバイト契約の内容が未成年者にとって不利益なものだったとしたら、親権者がアルバイト契約を解除することで、退職することができます(労働基準法58条2項)。



アルバイト契約の内容が、未成年者にとって著しく過酷な条件である場合は、この規定により退職することができる可能性があるでしょう」



このように述べたうえで、古金弁護士は次のようにアドバイスしていた。



「店長がアルバイトを辞めさせてくれない場合、これまで述べたような法律的な知識で『理論武装』し、セクハラ・パワハラの事実を『証拠化』したうえで、会社の人事部や社長に対して、書面で退職の手続きをする手段があります。



退職の申し出を書面で送付したあとも、会社が退職を認めないと『強硬』に主張する場合は、労働基準監督署に相談して、会社を指導してもらうことも効果的です」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
天水綜合法律事務所・代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所