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SCREEN modeが新作で見せた曲作りの美学「スコアリングが良くないと音楽に魂が宿らない」

2015年07月17日 18:10  リアルサウンド

リアルサウンド

SCREEN mode

 デビューシングル「月光STORY」から最新シングル「アンビバレンス」まで、全シングルに加えてミニアルバムのリード曲、さらに新曲を加えたSCREEN modeの1stフルアルバム『Discovery Collection』がついに完成した。稀代のメロディメイカー&優れたサウンドメイカーである太田雅友の生み出す楽曲は、素晴らしいメロディと様々なジャンルが刺激的に溶け合い、ヴォーカリストとして急激な成長をとげる勇-YOU-の歌声が、その広い世界観を完璧に表現する。J-POPやアニメファンを超えて多くのリスナーに届きうる本作は、いかにして作り上げられたのか。ふたりのホームグラウンドである都内のスタジオで行われた、フォト・セッションとインタビューをお届けする。(宮本英夫)


・「集大成ではなくて、ようやくスタート地点に立った」(雅友)


ーーいつもこのスタジオ、使ってるんですか。


雅友:そうですね。


勇-YOU-:歌はいつもここです。


ーードラムとか、バックの演奏も?


雅友:ドラムも録ります。弦楽四重奏や管楽器も、4人までならここでいけます。もう一人増えると、ヘッドホンが足りないとか、椅子が足りないとか、いろんな問題が生じるので(笑)。そういう時は大きいスタジオでやっちゃいます。


ーースタジオの中はどんな雰囲気で、実際何をやってるのか。興味ある人もきっと多いと思います。けっこうピリピリすることもあるんですか。


雅友:SCREEN modeのレコーディングは、ミュージシャンがいつも同じで、ドラムが吉田太郎さん、ベースは山口寛雄さん、すごく信頼してる人とやってるんで、和気藹々とやってますね。ただ弦楽器や管楽器は、スコア通りに弾いてもらってもちょっと違和感がある時に、その場の判断でスコアを直して進行しなきゃいけないので。そういう時はものすごい集中力になりますね。だから時間がかかることもあって、たとえば弦カル(弦カルテット=弦楽四重奏)は4人だけだから、全員音楽大学の主席みたいな人が来るんですよ。大編成だといろんな人がいるけど、弦カルはすごい人たちしか来ない。簡単に言うと、怖い人が多いんですよ(笑)。


勇-YOU-:(笑)。


雅友:普通にソリストでコンサートを開くような人が来るから、みんなガンガン言ってくる。「この音はこれで合ってるんですか?」とか。で、微妙な時ってあるんですよ。音楽理論的にはいいんだけど、わざとなのか、間違ってるのか、こっちも曖昧なところがあって、そういうところに限って必ず聞いてくる(笑)。一流の人たちだから。その時にパッと応えられないと、気持ち良く演奏できないんですよ。


ーーそうですよね。


雅友:プレイヤーが不安になるような状況を作っちゃいけない。だから常に頭の中は、エンジンを吹かしてる感じで、何か言われたらすぐにギアをガチャンと入れる。すごい緊張感がありますね、弦楽器と管楽器の場合は。プレイヤー同士で、ぶつかることもあって、そこをコントロールして進行しなきゃいけないんで、4人ぐらいを相手にいつも張り詰めてます。ヴィオラの人がまた怖いんですよ。


ーーなぜヴィオラ?


雅友:ヴィオラの人の人間性が怖いわけじゃなくて(笑)。ヴィオラだけスコアが違うんですよ。アルト記号という譜面になってて、時間があれば読めるんですけど、パッと見で「あそこの音が……」とか言われると、「あ、ヤバイ」って焦るみたいな、緊張感がハンパないですよ。今はさすがに慣れましたけど、駆け出しの頃はビビりましたね。……ごめんなさい、アルバムの話と全然違ってて(笑)。


ーーいえいえ。そういう話をスタジオで聞くと、すごいリアリティがあります(笑)。そしてついに完成した1stフルアルバム『Discovery Collection』は、この2年間の軌跡と言うか、「月光STORY」とか、すでになつかしい感じもしますし。


雅友:そうなんですよね~。「月光STORY」だけ少し音質が違っていたりして、やっぱり2年って長いんだなと思いますね。マスタリングで調整してるんで、聴き分けられないとは思いますけど。


勇-YOU-:長いようで短いというか、あっという間に駆け抜けた感じですね。僕の中では。


ーー本当にいいアルバムです。今までもシングルで、特にカップリングとかでいろんな面を見せてくれましたけど、初登場の新曲も新しい発見が多かったですし。


雅友:ありがとうございます。


ーーそもそも1stフルアルバムとして、どんなものにしようというイメージがあったんですか。


雅友:大きい枠としては、“集大成に見せたくない”というのがあったんですよ。僕のイメージとしては、シングルは一個一個の点なんですよね。それがアルバムにコンパイルされることによって、点と点がつながって面になるというイメージがありました。それによって、ようやくSCREEN modeの姿が見えてくるという感じで。だから集大成ではなくて、ようやくスタート地点に立ったという感覚は最初からありました。


・「いろんな発見や出会いの積み重ねで、今のSCREEN modeがある」(勇-YOU-)


ーーアルバムで初登場した新曲は4曲。シングルと違って自由な曲作りができたと思うんですけど、この新曲に関しては?


雅友:1曲目の「Brand-new land」は新作ゲーム作品の主題歌なんですけど(*スマホ連動TCG『銀鍵のアルカディアトライブ』主題歌)、ゲームのチームがすごく信頼してくださって、僕らの考えるカッコいい曲を作ってくださいということだったので。前に進んで行く強さみたいな、幕開けにふさわしいものを出したいなと思って書きました。


勇-YOU-:このアルバムを集約するリード・トラックです。『Discovery Collection』=発見の収集というタイトルの中で、そのイメージを一番強く打ち出してるのがこの曲だなと思います。これまでシングルを何枚か出させてもらって、いろんな発見や出会いの積み重ねで、今のSCREEN modeがあると思うんですよ。過去の僕たちの歩みを踏まえて、雅友さんが言ったみたいに、前に進んで行く強さや力強さとか、疾走感を前面に出したのがこの「Brand-new land」ですね。


ーーライブ感、ばっちりあります。


勇-YOU-:ライブでも何回か歌わせてもらって、この間もカードゲームのイベントで歌ったんですけど、オーディエンスの反応も非常によかったので。これからライブで歌うのが楽しみな1曲ですね。


ーーそして3曲目に入ってる「LOVE and FAKE」。これはブラス・セクションをフィーチャーした、ソウル/ファンク系の曲です。


雅友:タワー・オブ・パワーみたいな。


ーーそっち系ですよね。こういう曲調をSCREEN modeがやるとは思ってなかったんですけど、めちゃカッコいいです。


雅友:何というのか、僕にとっては意外なんですよ。今回の取材を受けていて「ジャンルの幅が広いですね」と言われることが多くて、正直、「そうか?」と思うというか。


ーーというと?


雅友:僕としては、「やるよ、ファンクぐらい」という感じなので。僕の中ではそんなに振り幅を持たせた感覚はなくて、いくつかの選択肢の中から「こういうのがあったら面白い」という気持ちで書いたので。何て言うのかな……たとえば「LOVE and FAKE」はファンクですけど、「アメイジング ザ ワールド」の間奏にもハネた要素があったりとか、音楽っていろんな要素があるので、必ずしも今までのSCREEN modeの楽曲がロック一色だったか?というと、決してそうではないので。


ーーですね。それは確かに。


雅友:意外とつながってる感じはあるんですよ。だからこそ、やるんだったら徹底的にはっきりしたもの、「LOVE and FAKE」みたいに誰が聴いてもファンクだと思うという振り切り方は、あったほうがいいなとは思ってました。これはアニメソングだから、ここまでやっちゃうとお客さんがついて来れないんじゃない?みたいなものは、僕はやりたくなくて。「LOVE and FAKE」は、演奏してくれたミュージシャンも「すごいねこれ、カッコいいじゃん」ってみんな言ってくれて、「久しぶりにここまで熱くなって演奏したよ」って。


勇-YOU-:うれしいですね。


雅友:やる以上はそういうものを、ファンのみなさんにも聴いてもらいたいし。そういう意味での振り幅はあると思います。熱量という意味では。


ーー振り切り方の問題ですよね。ジャンルの種類というよりは。


雅友:僕は何でも好きなんで。民族音楽も聴くし、前衛的なものも聴くので、そういう意味ではまだ全然はみ出してないですよ。「これぐらいの振り幅は楽勝であるよ」ということは、ファンのみなさんにも提示していきたいですね。そんなに簡単には退屈させないぞと。


ーーこの「LOVE and FAKE」は歌詞も振り切ってますね。セクシーな方向に(笑)。


勇-YOU-:「ワナガナCHANGE!」という曲があって、それも女性を誘惑して罠にかけるという歌詞だったんですけど。それよりももっとはみ出した楽曲で、攻めた単語を使うのはどうかな?と思っていた時に、こういうファンクの曲に合うんじゃないかな?と。


雅友:吐息を入れたりね。


ーーあそこ、ヘッドホンで聴いててドキッとしました(笑)。


勇-YOU-:男性が聴くとね(笑)。そこは無心で聴いていただければ(笑)。


雅友:無にならなきゃいけないんだ(笑)。あれはデモを作る時に「あったら面白いかな」と思って勇-YOU-に言ったら、賛成してくれて。でもいざレコーディングになったら恥ずかしくなったみたいで、なんか「オーイエー」とか無くてもいい台詞まで(笑)。


勇-YOU-:中途半端にね(笑)。


雅友:映画の吹き替えのベッドシーンみたいになっちゃって(笑)。「そういえばこの人、映画の世界の人だった」と思って(笑)。


勇-YOU-:声優としてのクセみたいな。吹き替えでも「オーイエー」は言わないけど(笑)。


雅友:何回かやり直してもらって。すごく面白かった。そういうことも含めて、やりたいことを一番詰め込めた楽曲ですね。「LOVE and FAKE」は。


ーーそしてアルバムの真ん中、8曲目に入ってるのが「ハジマルメロディ」。裏打ちのリズムの曲で、これもすごく新鮮に感じましたね。


勇-YOU-:レゲエですね。


雅友:僕がやりたかったのは、レゲエというジャンルというよりも、チルアウトなもので一息入れるという曲をやりたかったんですよ。このアルバムにはシングルのリード曲が多いので、圧の強い曲の連続になるから、途中で引き算の曲があるといいのかな?と。だからこの曲は、レゲエだとエレキギターが入るのが普通ですけど、あえて入れずにガットギターにして、リズムもチャカポコした可愛い感じにして。勇-YOU-にも「耳元で歌って聴かせるような優しい感じで歌ってみて」って、いろいろ試してもらって。そういう世界を作りたいというのが最初のイメージでしたね。勇-YOU-の歌声を聴いて、みんな昼寝しちゃうみたいな。


ーーアルバムのこの位置にあるのがまた、絶妙なんですよ。


勇-YOU-:ひとつ前の「月光STORY」はバラードだけど、その前の「marionette」「Bloody Rain」は押せ押せだから。そのあとに「ハジマルメロディ」が効くんですよね。


ーーそういう曲ですけど、歌詞はかなりシリアスなメッセージ性もありますよね。


勇-YOU-:そうですね。好きな人の耳元で囁くような歌ですけど、僕なりの世界平和のメッセージというか、大きな世界を書きたいという気持ちがありました。笑顔になればみんな幸せになるよ、みたいなのは、きれいごとに聴こえるかもしれないけど。人間は汚いこと、辛いこと、悲しいこと、いろんなことがある中でも、笑顔をつないでいけば、希望の光を感じられるようになるんじゃないか?と思うので。それを優しく訴えかける曲になりましたね。2番の歌詞の“絶えない悲しいNewsに怒り…”のところに、特に思いが詰まっています。


ーーそして4つめの新曲が12曲目の「フラクタル」。これは6月7日の代官山UNITのライブで聴かせてもらいましたけど、シングル「アンビバレンス」と対になる曲ですか。


雅友:組曲みたいな感じですね。今は配信が主流になって、1曲ごとに評価されることが普通になったので、組曲を作る機会が減ってしまったんですよ。でも今回たまたま、「アンビバレンス」とつながる曲があったら面白いんじゃない?ということをみんなで話していて、導かれるように書いた曲なんですよね。「アンビバレンス」はめっちゃ時間がかかったんですけど、「フラクタル」は自然にできました。


ーーまったく違う曲ですけど、おもざしが似ているというか。


雅友:たぶんメロディの断片が似てるんですね。「アンビバレンス」とつながる曲だということを、どこかで匂わせたいなと思っていたので。


ーー歌詞も「アンビバレンス」を意識して?


勇-YOU-:そうです。お互いにいる場所が離れているけど、同じ空の下でつながっていて、それぞれの方向に向かって歩いて行けばまた出会うこともあるだろうというような歌なので。テーマは同じですね。


雅友:シングルでは書けないタイプの曲なのは、トップノート(最高音)が曲の最後まで出てこないんですよ。全体的に音域が低くて、行きそうで行けない、押さえつけられた思いのまま、歌も演奏も少しずつビルドアップしていって、最後の最後でバーンと感情のピークを迎える。そういう構成ってシングルではできないんですよ。アルバムじゃないとできない曲なので、そこをぜひ聴いて感じてほしいです。


勇-YOU-:結果、アルバムに新録の曲は、シングルとはまた違う曲ばかりになりましたね。


雅友:それは非常に意識しました。


ーー途中と、最後に入ってるインストもそうですよね。アルバムならではの。


雅友:そうです。最後に入ってる「~postlude~」は、1曲目「Brand-new land」のメロディを発展させて作ったものなんですけど、メロディを途中で断ち切るような構成にわざとなっていて。それは「まだ続きがあるよ」ということで、このアルバムは集大成ではなくスタート地点だから、あえて終わらせないという形にしたんですね。


ーーああ。なるほど。


雅友:インストだと、それが表現しやすいんですよね。


・「時代の空気感に頼らずに、メロディと歌、演奏で勝負する」(雅友)


ーーという、全14曲を収めた1stフルアルバム。勇-YOU-さん、あらためて、どんな作品になったと思いますか。


勇-YOU-:本当にボリュームのあるアルバムだなと思ってます。過去も未来も全部詰め込んだものになっていて、新録音の楽曲にはいろんな可能性を感じられるし、SCREEN modeのCDとして初めてこのアルバムを手に取る人も多いと思うんですけど、誰が聴いても絶対に刺さる曲があると思うぐらい、いろんな色がある1枚だなと思います。


ーーこの2年間の成長として、何か自覚していることはあります?


勇-YOU-:最初は一生懸命で、右も左もわからなかったんですけど、レコーディングに対してもライブに対しても、非常に進化してるなという気持ちはあります。とにかく思いを伝えるためには、レコーディングでもきれいにまとまりすぎないように、ライブだと思って歌うことが大事だったりとか。ライブに来てくれるお客さんに心から楽しい気持ちになってもらいたいという意識は、すごく強くなったと思います。


ーー雅友さんに言いたいのは、これは質問でも何でもないですけど、メロディが本当にいいです。「メロディの復権」ということを、最初のインタビューの時からずっと言ってましたけど、まさにそうだなと。


雅友:ありがとうございます。


ーー日本のポップスとして、ハイ・クオリティなものだと思います。


雅友:SCREEN modeの音楽って、たとえば派手な効果音とか、シンセとかはあんまり入ってないんですよ。そういうものをサビの頭にドン!と入れると派手になるし、「STAR PARK」には入れましたけど、あんまりそこには頼らずに、スコアリング(*譜面を書くこと)で勝負するのが僕の美学としてあるんですよね。今の世の中にあるものは、たとえば海外でこういうものが流行っているからこういうシンセを入れようか、とか、そういう発想に行きがちだと思うんですけど。それもいいと思うし、分析的に考えれば時代の空気感は必要なんですけど、そこに頼らずに、メロディと歌、演奏で勝負するというのが美学なんですよね。いい悪いじゃなくて、美学。


ーーわかります。


雅友:スコアリングが良くないと、どんなにいいマイクで録ってもいい音にならないんですよ。出るところがはっきり出て、引っ込むところは引っ込むスコアリングになってないと、ぶつかり合っちゃって、それをエフェクターを使ってつじつまを合わせようとすると、音が濁っていくんですよね。オーケストラのように、全員がバン!と音を出して、バランスが合っているのが、本来の美しい状態なんです。スコアがちゃんと書けていれば、自動的にそうなるはずなんですけど、クラシックみたいに理論化されていないことなので、本を読んで勉強できることじゃないんですよ。それは自分なりの感性とノウハウでやるしかない。歴史を振り返れば、音楽家の全員が管弦楽法の本を読んで勉強したかというと、そうじゃないと思うんですよ。そこはみんな独自な方法で、後付けで理論化されてるだけだと思うんですよね。だから高音質にすることもスコアが大切だし、ミュージシャンにいい演奏をしてもらうこともスコアが大切だし、ライブでそれを演奏した時にPAの外音がきれいに聴こえるかどうかもそこにつながってくるんですよ。


ーーはい。なるほど。


雅友:すべての基本がスコアリングなんですよ。そこが考えられていないアレンジだと、音楽に魂が宿らないんですよ。最近はハイレゾが流行ってますけど、それが僕の考える本当のハイレゾですね。


ーーそれ、最高のフレーズだと思います。そんなアルバムを引っ提げて、夏はイベント、そして11月にはツアーが決まりました。勇-YOU-さん、今後のライブにはどんな思いで臨みますか。


勇-YOU-:8月29日の“アニサマ”でも、新しいSCREEN modeを見せられると思うんですけど、何といっても一番期待して欲しいのはワンマンライブツアーですね。初めてのツアーということで、シングルはもちろん、「フラクタル」「ハジマルメロディ」とか、しっとりとした楽曲も楽しんでもらいつつ、今までを超えたワンマンにしたいと思います。いろんな色をもっと出したいし、いろんな角度から楽しんでもらいたいので、これから一生懸命考えていきたいと思います。ぜひ来てください。


(取材・文=宮本英夫/写真=下屋敷和文)