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Juice=Juiceの過去・現在・未来が凝縮! 初アルバム『First Squeeze!』をピロスエが徹底レビュー

2015年07月17日 07:10  リアルサウンド

リアルサウンド

Juice=Juice『First Squeeze!』

 2013年2月のグループ結成から2年5ヵ月、ついにJuice=Juice待望の1stアルバム『First Squeeze!』がリリースされた。「一番搾り」というタイトルが冠せられたこの傑出した作品について、本稿では徹底的にレビューしていく。


(関連:「うたちゃん」に始まり「うたちゃん」に終わる――2015年上半期ハロプロ重大ニュースを振り返る


 まずはアルバムの仕様を確認。基本的にはCD2枚組であり、これまでの全シングルをリリース順に収録した「The Best Juice」と、アルバム用新曲を多数収録した「The Brand-New Juice」で構成されている。


 この2枚組をベースとして、初回生産限定盤A・同B・通常盤の3種類それぞれで付属特典内容が異なる。初回Aには全シングルのミュージックビデオを収録したBlu-ray Disc、初回Bには「Juice=Juice ファーストライブツアー2014~2015 News=News ~各地よりお届けします!~」最終日、2015年4月25日の札幌ペニーレーン公演を全編収録したライブDVDが付属されている。


 そして通常盤には、他グループのハロプロ楽曲をJ=JがカバーしたCD「The Cover Juice」が付属。つまり通常盤では実質CD3枚組となる。以下、その3つのディスクについてそれぞれ見ていこう。


<Disc 1:The Best Juice>


01. 天まで登れ!
02. ロマンスの途中
03. 私が言う前に抱きしめなきゃね (MEMORIAL EDIT)
04. 五月雨美女がさ乱れる (MEMORIAL EDIT)
05. イジワルしないで 抱きしめてよ
06. 初めてを経験中
07. 裸の裸の裸のKISS
08. アレコレしたい!
09. ブラックバタフライ
10. 風に吹かれて
11. 背伸び
12. 伊達じゃないよ うちの人生は


 基本的には全シングルの収録だが、厳密には少々異なる。まず、インディーズ時代に1st・2ndシングルとしてリリースされた「私が言う前に抱きしめなきゃね」「五月雨美女がさ乱れる」は、メジャーデビュー直前に脱退した大塚愛菜も参加の6人時代の音源ということもあり、本アルバムには未収録。5人で再録音しアレンジも手直ししての、当時「ロマンスの途中」とのトリプルA面としてリリースされた「MEMORIAL EDIT」バージョンでの収録となっている。


 「天まで登れ!」はインディーズ3rdシングルとしてリリースされた曲で、ハロプロ研修生 feat. Juice=Juiceとして歌ったものと、当時のメンバー6人のみで歌ったものと2種類のバージョンがあり、本アルバムに収録されたのは後者。


 また、本ディスクにはメジャー5thシングル「背伸び / 伊達じゃないよ うちの人生は」までの収録で、最新6thシングル「Wonderful World / Ça va ? Ça va ? (サヴァサヴァ)」は次の「The Brand-New Juice」への収録となっている。6thシングルからが今年2015年作なので、その前までの2013~2014年作と分けたという見方もできるが、もうひとつの見方もあるのがポイントである。


 J=Jの楽曲は他のハロプログループ同様、つんく♂が全曲の作詞作曲を手がけてきた。しかし近年は本人の病状のこともあり、他の作家による楽曲が増えてきていて、ハロプロ自体が変質の季節を迎えている。このディスクでいえば収録12曲は全曲つんく♂作だが、その次のシングルからは別作家の作品となっている。つまり、本ディスクはJ=Jのシングルヒストリーであると同時に、つんく♂制作曲時代の記録集という性質も帯びている。


 「ロマンスの途中」「イジワルしないで 抱きしめてよ」に代表されるディスコ/ファンク路線の輝きはもちろん、それに加え「裸の裸の裸のKISS」のラテン、「ブラックバタフライ」のタンゴ、「風に吹かれて」のケルト、「背伸び」のムード歌謡といった音楽性の彩りは、こうして1枚のディスクとして連続で聴くことでその面白さを再確認できる。


<Disc 2:The Brand-New Juice>


01. Wonderful World
02. CHOICE & CHANCE
03. 愛・愛・傘
04. 生まれたてのBaby Love
05. 選ばれし私達
06. サヴァサヴァ?
07. GIRLS BE AMBITIOUS
08. 愛のダイビング
09. チクタク 私の旬
10. 未来へ、さあ走り出せ!
11. 続いていくSTORY


 いわゆるオリジナルアルバム部分に相当するのがこのディスク。オリコン週間チャート1位を獲得したことでもおなじみのシングル「Wonderful World」「サヴァサヴァ?」の2曲をのぞいた9曲がアルバム用新曲。それらは主要作家によって大まかに5つのタイプに分類することができる。


タイプ1:つんく♂


05. 選ばれし私達[作詞・作曲:つんく 編曲:山崎淳]


 この「選ばれし私達」は、ファンに披露された順番としては9曲のなかで一番古い。ツアー「News=News」21公演目、2014年9月21日の静岡・Live House浜松窓枠にて、ライブ用の新曲として初披露された。「伊達じゃないよ うちの人生は」も、元々はライブ用新曲としてツアー初日から披露されていたものが後日CD化したという経緯があり、本曲も今回のアルバムでようやく音源化された。


 この頃はまだつんく♂の作詞作曲が当たり前の状況だったが、結果的にこの曲がJ=Jにとって現時点で最後のつんく♂提供曲となっている。


 アレンジ担当の山崎淳はハロプロ楽曲のレギュラー編曲家のひとり。ロック調の楽曲アレンジを手がけることが多く、モーニング娘。「悲しみトワイライト」、美勇伝「恋するエンジェルハート」、Berryz工房「サヨナラ 激しき恋」、℃-ute「JUMP」、スマイレージ「同じ時給で働く友達の美人ママ」など多数。


 そしてこの曲もヘヴィなギターが鳴り響く歌謡ロック。ワイルドさという点からいえば、後述の「CHOICE & CHANCE」と一二を争う一曲だ。J=Jの置かれた状況を暗喩しているかのような歌詞も面白い。


Juice=Juice「選ばれし私達」(40:20~)


タイプ2:近藤薫


11. 続いていくSTORY[作詞・作曲:近藤薫 編曲:近藤薫、HASSE]


 この曲は、ツアー「News=News」の後に行われた東阪ホールライブ「Juice=Juice ファーストライブツアー2015 特別編!! ~Special Juice~」の初日、5月2日の中野サンプラザにて後述の「チクタク 私の旬」と共に初披露された一曲。J=Jにとって初のスローバラード曲で、彼女たちのこれまでの活動とこれからの決意が投影された歌詞も相まって、ファンの心に深く響いた。今後も大切な一曲となっていくだろう。


 作詞・作曲を担当した近藤薫は、愛知県出身の男性シンガーソングライター。シングル「ハロー&グッバイ」が『テニスの王子様』OVA版の主題歌としてヒット。楽曲提供もV6「HONEY BEAT」「ジャスミン」(共に作詞・作曲)、東方神起「Hide & Seek」(作曲)、柏木由紀「Birthday wedding」(作曲)など多数あり。また、名古屋のグループアイドル・deraについてはシングル4枚を始めとしたほぼ全曲の作詞作曲を手がけている。


 編曲に連名でクレジットされているHASSEは、近藤とのタッグも数多いコンポーザー。主な担当楽器はキーボードやピアノで、本曲ではプログラミングを担当している。


 なお、この曲と後述の「CHOICE & CHANCE」の2曲にはMVが制作されている。アルバムの特典Blu-ray Discには未収録だが、テレビやウェブ上などでプロモーションの一環として現在オンエア中。


Juice=Juice「続いていくSTORY」



タイプ3:星部ショウ


09. チクタク 私の旬[作詞:児玉雨子 作曲:星部ショウ 編曲:CMJK]


 中野でこの曲が初披露されたとき、快哉を叫んだファンも多かったのではないだろうか。J=Jのレパートリー内にはそれまであまりなかった可愛くポップでキュートな曲調。軽快なビートや目覚まし時計のSEなどは、ピチカート・ファイヴに代表される渋谷系サウンドを連想してしまう。それでいて、歌詞をよくチェックしてみると女の子の旬について言及されたシビアな内容でもあり、そのギャップも魅力の一端である。


 ライブ披露時には作家クレジットが不明だったが、のちに判明する。作詞の児玉雨子と編曲のCMJKはすでに他のハロプロ楽曲に参加しておりプロフィールもよく知られているが、いまハロプロファンの間でもっとも注目されているコンポーザーが、作曲の星部ショウである。


 星部氏の名前が最初に出てきたのは、アンジュルムの7月22日発売予定の新曲「七転び八起き」「臥薪嘗胆」それぞれの作曲者として。ライブ初披露は5月26日の武道館だったのだが、その良曲を作曲した氏のキャリアが、調べてもまったく出てこないのだ。そしてJ=Jの本アルバムでも4曲に参加しており、いずれもかなりの良曲率となっている。さらにまだ曲自体は公開されていないが、9月2日発売予定のこぶしファクトリー「ドスコイ! ケンキョにダイタン」の作詞作曲まで担当していることから、氏の正体について「誰かの変名では?」「(アップフロントレーベルマネージャー)橋本慎の変名では?」「複数人の共同ペンネームでは?」など様々な憶測が飛んでいる。


 7月7日にハロー!プロジェクトオフィシャルショップ東京秋葉原店で行われた宮本佳林トークイベントにて、「スタッフさんに「星部ショウさんって誰ですか?」と訊いたら「会ったことあるよ」と言われた」という逸話が飛び出したり、7月9日の同所でのアンジュルム福田花音のトークイベントでは、司会のアップフロント西口氏から「橋本さんではない」という発言が出たりしている。


02. CHOICE & CHANCE[作詞・作曲:星部ショウ 編曲:平田祥一郎]


 これ以降の6曲は、現在展開中のツアー「Juice=Juice LIVE MISSION 220 ~Code1→Begin to Run~」の初日、6月21日の横浜Bay Hallにて初披露されたもの。


 「CHOICE & CHANCE」はマイナーコードのアッパー曲。デジタルロック的な曲調で、ケミカル・ブラザーズなどを彷彿させるサウンド。過去のハロプロ楽曲だと℃-ute「ひとり占めしたかっただけなのに」などを連想した。こういった曲調もこれまでのJ=Jにはあまりなかったもので、曲の激しさと共にダンスの激しさも特徴だ。次々と入れ替わる歌パートも性急さを演出している。


 編曲の平田祥一郎は、ハロプロ楽曲ではおなじみのメインアレンジャー。J=J曲を手がけることが多く、ディスク1収録のシングル12曲のうち7曲が氏の担当。


Juice=Juice「CHOICE & CHANCE」(40:55~)



08. 愛のダイビング[作詞・作曲:星部ショウ 編曲:土肥真生]


 ファンキーなサウンドは従来のJ=Jの路線からの連続性も感じさせつつ、さらにフュージョン・タッチのビートが新鮮さをもたらしている。フュージョン的なビートの導入という点では℃-ute「愛ってもっと斬新」を連想したりもするが、こちらはより爽やかな印象。流れるようなビートと歌ラインのシンクロが聴いていて胸躍る。曲終盤にはドラムやベースのソロフレーズまである。


 編曲の土肥真生は過去のハロプロ楽曲のいくつかに参加しているが、モーニング娘。「林檎殺人事件」などのカバー曲を担当することが多い。他にはBuono!「JUICY HE@RT」など。


04. 生まれたてのBaby Love[作詞:星部ショウ 作曲:masaaki asada 編曲:松井寛]


 こちらもファンキーながら、よりソウル・ミュージック寄りのサウンドに仕上がっている。それもそのはず、編曲は東京女子流などでおなじみの松井寛が担当。是永巧一のギター・プレイも効いている。作曲のmasaaki asadaこと浅田将明は株式会社ファイブエイス所属の音楽プロデューサー(同社には前山田健一や板垣祐介、藤澤慶昌らも名を連ねている)。EXILE、HOME MADE 家族、AZUなどへの提供楽曲多数で、女性アイドルではアイドリング!!!「オレオレGO!!」、S★スパイシー「SGC★スパイシー」(どちらも作曲・編曲)など。


 本曲は高木紗友希のソウルフルな歌唱がより活かされた、陽光を感じさせるライト・タッチな一曲だ。曲終盤のメンバー一人一人によるフェイク回しは、なんと高木の考案したフレーズによるものだという。また、間奏ではメンバーのアドリブによる振り付け誘導が行われるのが定番となっており、参加した観客をより楽しい雰囲気へ誘うこと間違いなし。この曲の振り付け練習の様子は、ウェブ番組「GREEN ROOM」にてオンエアされている。


Juice=Juice LIVE MISSION 220 ~Code1→Begin to Run~リハーサル編(18:20~)


タイプ4:中島卓偉


03. 愛・愛・傘[作詞・作曲:中島卓偉 編曲:大久保薫]


 今年に入ってからアンジュルム「大器晩成」、℃-ute「次の角を曲がれ」とハロプログループへの楽曲提供が相次いでいる中島卓偉。LoVendoЯ「いいんじゃない?」に続き、J=Jへも2曲の楽曲を提供している。


 こちらの「愛・愛・傘」はスウェディッシュ・ポップ調の、しっとりと落ち着きつつもビート感は保ったナンバー。2番冒頭などではボサノバ風な展開も見られる。ライブではスタンドマイクで歌われ、両手を使った振り付けがチャームポイント。


 編曲の大久保薫は、先述の平田祥一郎と同じくハロプロ楽曲のメインアレンジャーのひとり。J=J曲を手がけるのは「イジワルしないで 抱きしめてよ」以来2回目となる。


uice=Juice「愛・愛・傘」(43:12~)



07. GIRLS BE AMBITIOUS[作詞・作曲:中島卓偉 編曲:中島卓偉、宮永治郎]


 もう一方の「GIRLS BE AMBITIOUS」は、中島の本流ともいえるロックンロール曲。跳ねるビートは否が応でも盛り上がる。歌詞はパッと聴く分には女の子の様々な心情を綴ったあるあるネタだが、実はよく聴くとJ=Jメンバー5人それぞれのパーソナリティを入れ込んだ当て書きにもなっている。「あざかわ(あざとい+可愛い)」「色気」「ショートカット」「天然」「ダイエット」など、ファンが聴けばすぐに合点がゆくはずだ。これはJ=Jスタッフからの情報を元に中島が書き上げたもの、とのこと。


 編曲で共同でクレジットされている宮永治郎は、過去のハロプロ楽曲でいうとメロン記念日「お願い魅惑のターゲット」、Buono!「初恋サイダー」どちらも編曲を手がけていたり、最近ではLoVendoЯのほぼ全曲のアレンジに関わっている人物。ロックチューンである本曲にはぴったりの人選だろう。ここではギター、ベース、プログラミングを担当。


 コーラスは中島本人が担当しているのだが、そのレコーディングの模様はウェブ番組「MUSIC+」でオンエアされている。同番組では、今年1月からアンジュルム「大器晩成」のレコーディングやトラックダウンなどのメイキング映像を放送し始めて、好評を得て現在までコーナーが続いている。「GREEN ROOM」も同様だが、楽曲制作やライブ制作の裏側を積極的に見せていく手法は現在のハロプロの特徴のひとつ。


Juice=Juice「GIRLS BE AMBITIOUS」レコーディング映像#01(中島卓偉コーラス編)(34:03~)



タイプ5:角田崇徳/KOJI oba


10. 未来へ、さあ走り出せ![作詞:角田崇徳 作曲・編曲:KOJI oba]


 「続いていくSTORY」と共にアルバム終盤を飾るこの曲は、オーガニックな響きとエレクトロなビートが融合したポジティブなサウンド。そして現在展開中のツアーのタイトル「Begin to Run」ともリンクした曲名通りの、グループの未来を指し示した希望あふれるリリックが耳に心に眩しい。サビのフレーズには「次の時代が始まる 行くぜ!私たちの未来! Juice=Juice!!!」とグループ名が入れ込まれていることもあり、これも今後の代表曲になっていくのではないだろうか。


 (グループ名が歌詞に入っているハロプロ楽曲といえば、モーニング娘。「本気で熱いテーマソング」、Berryz工房「Berryz工房行進曲」、℃-ute「JUMP」などが思い出されるが、それらの系譜に連なる一曲ともいえる)


 作詞の角田崇徳は、ピーベリー「キャベツ白書」、ジュリン「ほたる祭りの日」、チャオ ベッラ チンクエッティ「二子玉川」(いずれも作詞・作曲)などを過去に担当。いずれも情緒ある曲ばかりだ。作曲・編曲のKOJI oba(大場康司)は、HANGRY & ANGRY-f「レコンキスタ」(作曲)でアップフロントとの関わりは以前からあるが、ももいろクローバー「走れ!」(michitomoと共同作曲)、RYUTist「ラリリレル」(作曲・編曲)といった楽曲が有名だろう。


 以上9曲に既発表シングル2曲を加えた全11曲。楽曲そのものの良さもさることながら、その良さを実現させているのはもちろんJuice=Juiceのメンバー5人の力である。歌唱力という面から見れば高木紗友希が突出しているが、J=Jが恐ろしいのは、他のメンバーも成長著しいところにある。


 デビュー当初は宮本佳林と高木の2トップ、金澤朋子の艶っぽく魅力ある歌声、そして宮崎由加と植村あかりがそれに続くという体制だったが、ライブハウスツアーをやり通しての研鑽、ミュージカル『恋するハローキティ』での経験、ボイストレーナー菅井英斗先生によるボイトレなどを経て、5人全員が歌えるボーカルグループになりつつあるのが現在のJuice=Juiceである。アルバム新曲はその証左にもなっている。


 個人的にお勧め曲を挙げると、全部粒ぞろいなのだが、強いていえば「チクタク 私の旬」「愛のダイビング」「生まれたてのBaby Love」「愛・愛・傘」で、さらに一曲に絞ると「生まれたてのBaby Love」だろうか。


<Disc 3:The Cover Juice>


01. Magic of Love (J=J 2015 Ver.)[作詞・作曲:つんく 編曲:村山晋一郎]
02. 香水 (J=J 2015 Ver.)[作詞・作曲:つんく 編曲:平田祥一郎]
03. 鳴り始めた恋のBELL[作詞・作曲:つんく 編曲:松井寛]
04. スクランブル[作詞・作曲:つんく 編曲:鈴木Daichi秀行]
05. BABY! 恋にKNOCK OUT!/宮崎由加&金澤朋子&植村あかり[作詞・作曲:つんく 編曲:小西貴雄]
06. ラストキッス/高木紗友希&宮本佳林[作詞・作曲:つんく 編曲:小西貴雄]


 ハロプロの先輩グループの楽曲をカバーした6曲が収録されているのがこのディスクで、ボーナストラック的なものに見えるかもしれないが、これがなかなかあなどれない。以下は元曲の歌手情報を加えてオリジナルリリース順に並べ替えたもの。


・1998.11.18「ラストキッス」タンポポ(1stシングル)
・1999.09.29「Magic of Love」太陽とシスコムーン(5thシングル)
・2001.02.28「BABY! 恋にKNOCK OUT!」プッチモニ(3rdシングル)
・2002.10.23「香水」メロン記念日(7thシングル)
・2003.06.18「スクランブル」後藤真希(7thシングル)
・2007.09.12「鳴り始めた恋のBELL」音楽ガッタス(1stシングル)


 「スクランブル」以外の5曲は、ツアー「News=News」でも歌われてきた。ただし「Magic of Love」「香水」の2曲はJ=J 2015 Ver.として元曲の方向性は保ちつつリアレンジされて、そのバージョンでの初披露は「Special Juice」5月2日の中野サンプラザだった。


 特筆したいのは「Magic of Love」。やはり楽曲とグループの相性というのはあるもので、この曲が持つファンキー・ソウルな面とJ=Jの個性が上手く合致し、名カバーが誕生した。特に間奏での高木のフェイクで盛り上げながら落ちサビへ突入していく高揚感は、凄まじい魅力にあふれている。ツアーでの評判はもちろん、他アイドルグループとの競演ライブイベントでもこの曲が歌われることが多く、J=J随一のキラーチューンとして知られている。


 「スクランブル」は現在のツアー「LIVE MISSION 220 ~Code1→Begin to Run~」で初セットリスト入りしたもので、間奏やアウトロでの植村あかりのフェイクの輝きが早くも評判を呼んでいる。


 過去の楽曲をライブなどで歌い継いでいくのはハロプロの特徴のひとつだが、こうしてレコーディングされて音源リリースされるのはなかなか珍しい。モーニング娘。『The Best! ~Updated モーニング娘。~』や℃-ute『℃-ute神聖なるベストアルバム』もあったが、それらは自グループ楽曲のみ対象のリアレンジベストだし、「ハロカバ」シリーズは配信限定で選抜メンバーが同一曲を歌い比べるという企画色の強いものだった。そういう意味ではBerryz工房『夏夏ミニベリーズ』のケースが近い。


 また、「BABY! 恋にKNOCK OUT!」「ラストキッス」で3人・2人に別れてユニット歌唱しているのも見逃せない。こうした少人数のユニット曲やソロ曲をオリジナルでも聴きたいところだが、それは次作以降のお楽しみだろう。



<本盤に濃縮された過去・現在・未来>


 ディスク1「The Best Juice」とディスク2「The Brand-New Juice」は、「2012~2014年までのつんく♂曲」と「2015年以降の複数作家混成」という対比の図式になっており、それはJuice=Juiceの現状であると同時にハロプロの現在を象徴したものにもなっている。つんく♂の作家性が色濃くそれゆえに一本筋が通っていたこれまでと、複数の制作陣による多様性の開花、どちらが上下という話ではないが、現在そして未来のハロプロを検討する上でのマテリアルとして本アルバムを位置付けることも可能だろう。


 ディスク3「The Cover Juice」では、単に過去のハロプロ楽曲回顧にとどまらず、昇華されて現在および未来へと繋がっている。特に「Magic of Love」に顕著であり、極論すればこれもJ=Jのオリジナル曲といっていい。ハロプロ外へ目を向ければ、アイドルネッサンスやハコイリムスメといったカバー主体でオリジナル偏重から自由なグループが近年の一潮流であり、それらとの同時代性も認められるのではないだろうか。


 こうした解釈が可能なのも、作品の強度があってこそのもの。端的にいって、アルバム『First Squeeze!』は良曲の集合体である。ここにはJuice=Juiceの過去・現在・未来すべてがある。



■ピロスエ
編集およびライター業。企画・編集・選盤した書籍「アイドル楽曲ディスクガイド」(アスペクト)発売中。ファンイベント「ハロプロ楽曲大賞」「アイドル楽曲大賞」も主催。