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「ここから先は音楽を作る人が客を選ぶべき」 Base Ball Bear小出祐介×玉井健二が語る、シーンと作り手の変化

2015年07月16日 23:30  リアルサウンド

リアルサウンド

Base Ball Bear小出祐介×agehasprings玉井健二

 ニューシングル「それって、for 誰?」 part.1をリリースしたBase Ball Bear小出祐介、そしてそのプロデュースを手掛けたagehasprings代表・玉井健二による対談。二人の出会いから今回の楽曲制作の裏側までを語ってもらった前編に続き、後編では二人が見る今の音楽シーンについて、語ってもらった。


(関連:Base Ball Bear小出祐介×agehasprings玉井健二対談【前編】“師弟”が再びタッグを組んだ理由は?


 3ヶ月連続でリリースされるCD+CD=2Discの“エクストリーム・シングル”第一弾として発売された本作。公式サイトの告知には「音楽をストリーミングで聴くのが当たり前の時代がくるかもしれない現在…CDシングルは、ついにここまできた!」という告知もある。


 音楽の聴かれ方が大きく変わりゆく現状を、二人は作り手としてどう捉えているのか。非常に興味深い話を聞くことができた。


「みんながスマホに映える音楽を作るようになるんじゃないか」(小出)


――お二人にはこの先の音楽シーン、ロックやJ-POPのカルチャーがどう変わっていくかということについてのお話も聞きたいと思っています。特に今はApple MusicやLINE MUSICやAWAが始まって、日本でもストリーミング配信で音楽が聴かれるような時代になっていくと言われている。作り手として、お二人はどう感じてらっしゃるんでしょうか。


小出:まず僕としては、ユーザーがどういう風に音楽を聴くかっていうのは、利便性の問題だと思うんですよ。それに、お客さんがどういうデバイスでどう聴くかというのは、こちらから啓蒙していくのも何か違うと思うし、それはどうこうできるものではないと思っているんですけど、ただ、作り手としては一つ危惧していることがあって。


――どういう危惧でしょう?


小出:今はCDがあるので、PCに取り込んだりして、家ではスピーカーで聴くのが一般的だと思うんです。でも、音楽ストリーミングが普及して、お気に入りのプレイリストがスマホの中に入っていたりして、「スマホでいいや」と、いよいよスマホで聴くのがメインになっちゃった場合、そこに合わせた音楽作りが盛んになっちゃうんじゃないかと思っているんです。例えば、YouTubeが出てきたときに、YouTube映えするPVをみんなが作ったように、スマホに映える音楽を作るようになるんじゃないか、という。


――スマホに映える音楽というと?


小出:もしも、ロックバンドがスマホのスピーカーに合わせた音作りをするとしたら、バンドらしさ、人間がやっている生々しさからは、どうしても離れていくと思うんですよ。今回も、レコーディングの時にギターのチューニングにすごく気をつかったんですね。コード感にシビアになって、何回もリテイクしてやり直したりした。そもそもギターの弦の音程をぴったり合わせたとしても、指で押さえた瞬間、微妙にピッチは狂うものなんですね。しかもそれが2人いて、ベースもドラムもいる。そういう曖昧な音が固まっているのがロックバンドの生サウンドなんですよ。一方、例えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんのように、基本的に打ち込みで作られてるポップスは、全部の楽器の音を完璧に揃った音程で鳴らすことができるわけなんです。


――シンセやコンピュータを使えばそうなりますよね。ぴったり音程が揃う。


小出:そういう音が塊になったときのほうが圧倒的に強いんです。束感がまとまってる。だから、聴き比べた時に、バンドサウンドは音が散漫だなぁとか感じたりしてしまう。そういう意味で、スマホのスピーカーで音楽を聴くことが一般的になったら、生バンドにとっては不利だと思うんです。で、そこに対応するためにみんなが聴こえやすく音を処理していったら、いよいよ無個性になる。みんな同じようになって面白くなくなっていってしまうと思うんですよ。

――なるほど。音質の面での不安がある。


小出:あとは、CDすらも買わなくなって、みんながApple MusicとかLINE MUSICとかで聴いていった場合、月額っていう括りだけで幅広く聴けるようになるわけですよね。そうすると、自分のプレイリストが自分の持ってる音楽体系になっていっちゃう。今はCDラックにCDを持ってるわけだけれど、今後、アルバムの枠も、シングルの枠も、アーティストの枠ですら取り払われて、プレイリストだけになった時に、果たして人は何に心酔していくのかなって思ったりしますね。そうなると、逆説的かもしれないですが、アーティストが何を思ってどういう表現に至ったのかが重要になっていくんじゃないかなとも思います。その人でしか得られないものが欲しい、と。今は過渡期だから、みんな同じような作り方をして、同じようなサウンドになっちゃうかもしれない。でも、その先にはその人のやっていることがどういう意味や大義を持っているのかというところに、人は心酔していくんじゃないかと。だから言葉もすごく重要になると思います。


「本質的に変わらないのは『2、3秒でモテるかどうか』が大事ということ」(玉井)


――玉井さんはどういう風に思っていますか?


玉井:本質なところは変わらないと思いますね。それと同時に、めちゃめちゃ変わるなと思う部分もある。


――変わらない部分というのはどういうところなんでしょう?


玉井:本質的に変わらないと思うのは、「2、3秒でモテるかどうか」が大事だということ。結局、ここなんですよね。2、3秒で「この人素敵」って思わせられるかどうか。何事もそうなんです。料理もそうだし、建築物もそう。出会った時にパッといいものだと思わせられるものが大事だし、そしてそこに掘りたくなるものがあるかどうかもすごく重要ですよね。


――掘りたくなるもの?


玉井:例えば4億再生のPVがあっても、4億人が1回だけ再生している場合もあれば、何回も何回も観たくなるものもありますよね。やっぱり何回も観たくなるもののほうがいい。曲の中、音楽の中にもそういうものが詰まっているかどうかが大事なんですよね。詰まっていれば掘りたくなるし、掘っていくと「他の人はどう思っているんだろう」ってことが知りたくなる。そうすると、誰が何を言っているかっていうのが重要になってくる。音楽評論家の◯◯さんが褒めてたっていうところに価値も出てくるだろうし。そういう基本的な構造は変わらないと思いますね。


――なるほど。変わるところについてはどうでしょう?


玉井:音楽をどう届けるか、ということですね。音楽を作ってる方の感覚で言うと、これまではレコードメーカーがCDを作るというのが前提だった。そのレコードメーカーが営業して、音楽メディアに乗せることでいろんな人に知ってもらえて、CDがたくさん売れる。CDを買ってもらうことでアーティストがよりよい環境を得て、よりよい音楽を作って、またいろんな人に聴いてもらう。それがここ数十年の循環だったんですよね。もちろんその仕組みは今もあるし、これからも残るんですけど、そうじゃない仕組みもたくさん生まれている。そういうことを前提に考えると、ここから先は音楽を作る人が客を選ぶべきだと思うんですよ。


――客を選ぶべき、というと?


玉井:こういう人に聴いてほしい、こういう人に届けるっていうのを、作り手の側が決めてしまえばいいんですよね。誰と共有するのかを最初に決めてしまう。そしたら、共有された先の人は「こういうヤバい曲がある」って、自分が信頼する人に教えたくなりますよね。そういう風に信頼と信頼の連鎖で繋がっていって、最終的にその人の曲を聴きたい人がたくさんいる状況が生まれる。それに応えてアーティストがまた音楽を作っていくという循環の仕組みになる。


――なるほど。10人に深く刺されば、その10人の周りにいる100人に波紋が広がるわけですよね。


玉井:例えば、自分が1ユーザーだとして、本当に好きなアーティストがいたら、今はその人とつながることもできる時代になってますよね。こいちゃんが誰かの質問に何気なく答えたというのも、その人からしたら「こいちゃんから返事来たよ」ってなる。そういうことが日常に行われている。その感じに近いんですよね。今まではメジャーレーベルから音楽を発信しているアーティストは客を選ばなかったわけですけど、この先は、アーティストが客を選ぶというくらいのことを、心のどこかで決めたほうがいいと思うんです。そうしないと、相対性でしか物事が考えられなくなってくる。


――相対性でしか物事が考えられないというと?


玉井:たとえば、今の若い男の子のロックバンドって、みんな声のキーが高いですよね。それはいいとか悪いとかではなくて、必然的にそうなると思うんですよ。あの環境でみんながメジャーデビューして、大きなフェスに出て、そこで尖ろうとすればそうなっていく。そこで争って得たいものがあるからそうするんだろうし。


――一つの枠組みの中で評価を得るための競争が生まれるわけですね。


小出:今って、いろんな音楽が多岐に渡ってあるわけじゃないですか。そういう時にメディア側は何をするのかっていうと、悪い言い方をすればレッテルを貼るというか、枠で囲ってプールを作ることだと思うんですよ。それが、玉井さんが言ったような、アーティスト側との相互関係を生む。それの最たるものが夏フェスだと思うんです。


「それでもまだ何かできるんじゃないかって、ずっと思っている。だから意地になってバンドをやってる」(小出)


――フェスが確かにそういう枠組みの象徴だと思います。


小出:あれは夏フェスっていうでっかいプールなんですよ。そこに行けばなんかあるってみんな思ってるし、メディアもそう思わせてる。「あそこに行けばなんかあるぞ!」って。そうなると、アーティスト側も、その場所で持て囃されるものを作ろうという考え方になる。みんなそうなるのはわかるんです。だから、今は大小様々なプール屋さんが増えてるんだと思うんですよね。フェスだけじゃなく、また新しいプールも作られている。それが「ネオシティポップ」というものだったり。


――そう形容されるバンドやシーンは増えましたね。


小出:厳密に言えば、全然シティポップじゃないと思うんですけどね。そこに誰かが「ネオシティポップ」っていうレッテルを貼った。そうしたら「あそこはオシャレらしいぞ!」っていろんな人が群がるようになった。そういう商売がこれからどんどん増えていくと思うんですよ。それが生むビジネス的な利点もあるのはわかっているけれど、音楽そのものという視点で見れば、「わかりやすい」が「いい」になる時代になってしまうかもしれない。


――多様性が失われてしまう、という危機感がある?


小出:いろんな感性があって、いろんなやり方があって、いろんな音楽があるはずなのに、結局人が「いい」と思うものにパターンがないからそれらがまとまってしまう。そうしたら、似たものしか並んでないから、結局横並びになる。もし、逆算的な物作りが蔓延してしまったら、そうなるもしれないという危惧はすごくありますね。で、それに対してうちのバンドはどういうスタンスで行こうかを考えているんです。僕としては、そういうことに対して「それでもやっぱりさぁ!」って思い続けたい。それでもまだ何かあるんじゃないかって、それでもまだ何かできるんじゃないかって、ずっと思っている。だから意地になってバンドをやってるんじゃないかなって思いますね。


(取材・文=柴 那典/写真=下屋敷和文)


■玉井健二


音楽プロデューサー・agehasprings代表。 アーティスト活動、作詞・作曲・編曲家などを経て、1999年ソニー・ミュージックEpic Records Japan入社。制作部プロデューサーとして多種多様の企画・制作に携わる。2004年退社しクリエイターズ・ラボagehaspringsを設立。YUKI、中島美嘉、JUJU、Base Ball Bear、flumpoolなど数々のアーティストのヒットを創出する。同時に会社代表として蔦谷好位置、田中ユウスケ、田中隼人、百田留衣をはじめとする多くのクリエイターを世に輩出し、Aimer、GOOD ON THE REELなどのアーティストのマネジメント&プロデュースも手掛けるなど、新たな才能の発掘・育成にも定評がある。また、自身のユニット元気ロケッツは国内外のクラブ・シーンを中心に、音と映像のみに拠る表現形態でホログラム映像や3Dを駆使したLIVEパフォーマンスが欧米でも話題を席巻するなど活躍は多岐に渡る。