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戦争体験した93歳弁護士が「安保法案」を批判「法律家として誰も納得できない」

2015年07月15日 17:41  弁護士ドットコム

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衆議院の特別委員会で7月15日、安保法案が採決され、自民・公明両党の賛成多数で可決されたことを受けて、東京弁護士会は同日午後、緊急の記者会見を開いた。


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会見には、東京弁護士会の歴代の12人の会長が参加し、安保法案の撤回と廃案を求める声明を発表した。声明には、存命中の歴代会長24人全員が名を連ねた。歴代の会長が集まって、連名の会長声明を発表するのは初めてだという。



現会長の伊藤茂昭弁護士は「戦後70年に及ぶ平和な日本の礎を破壊する法案だ。法律家として絶対に譲れない一線を越えた」と与党が強行採決に踏み切ったことを批判した。



会見に参加した歴代会長の中で最高齢の安原正之弁護士(93)は、戦前、大学在学中に明治憲法を学び、戦後、日本国憲法の下で司法試験に合格した。安原弁護士は戦時中の体験について「大学2年のときに学徒動員で入隊した。その後、初年兵から士官学校に入った」と説明。「戦局が厳しくなり、卒業を待たずにほとんどの部隊がフィリピンに行ったが、ほとんどが戦病死した。残った私たちは申し訳ないという気持ちで戦後を過ごした」と強い口調で語った。



今回の安保法案について「法律家として誰も納得できるものではない」としたうえで、「日本は、70年間戦争されることも、することもなく、ここまできた。若い世代が、そうした世の中をつなげていくことを望んでいる」と述べた。



歴代東京弁護士会会長全員による「共同声明」の全文は以下の通り。



●私たちは、安全保障関連法案の撤回・廃案を強く求めます!


「二度と戦争をしない」と誓った日本国憲法の恒久平和主義が、今最大の危機を迎えている。



現在、国会は政府の提出した「安全保障関連法案」を審議中であるが、会期を異例の95日という長期間延長し、本日、衆議院の特別委員会での採決を強行した。政府与党は、引き続き、本国会での成立を辞さないとの構えを見せ、日々緊迫の度を増している。



安全保障関連法案は、昨年7月1日の集団的自衛権行使の容認等憲法解釈変更の閣議決定を立法化し、世界中のどの地域でも自衛隊の武力行使(後方支援)を可能とするものである。「厳格な要件を課した」と称する存立危機事態・重要影響事態等の発動の基準は極めて不明確で、時の政府の恣意的な判断で集団的自衛権が行使され、自衛隊の海外軍事行動が行われる危険性が高く、憲法9条の戦争放棄・恒久平和主義に明らかに反するものである。



また憲法改正手続きに則って国民の承認を得ることなく、憲法を解釈変更し、これに基づく法律制定をもってなし崩し的に憲法を改変しようとすることは、立憲主義および国民主権を真っ向から否定するものである。



衆議院憲法審査会に与野党から参考人として招じられた3名の憲法学者がそろって「安全保障関連法案は憲法違反」と断じ、大多数の憲法学者も違憲と指摘している。これまでの歴代政府も一貫して、集団的自衛権行使や自衛隊の海外軍事活動は憲法9条に違反するとの見解を踏襲してきたのである。



然るに、政府は「日本をめぐる安全保障環境が大きく変わり、国民の安全を守るためには集団的自衛権が必要」と主張し、武力による抑止力をことさらに喧伝しているが、そのような立法事実が実証できるかは甚だ疑問である。また、政府は唐突にも、1959年(昭和34年)12月の砂川事件最高裁判決を本法案の合憲性の根拠として持ち出しているが、同判決は、個別的自衛権のあり方や米軍の国内駐留について述べたものであって、集団的自衛権を認めたものではないことは定説である。



われわれ国民は、日本国憲法の恒久平和主義という究極の価値観のもと、様々な考えや国際情勢の中で平和と武力の矛盾に揺れながらも、戦後70年間軍事行動をしなかったという、世界に誇れる平和国家を創り上げてきたのである。政府は「国民の安全を守るのは政治家である」として、かかる歴史と矜持を、強引に踏みにじろうとしている。



私たちは、憲法とともに歩みこれを支えてきた在野法曹の一員として、憲法の基本理念である恒久平和主義が、時の一政府の発案によって壊されようとしている現状を深く憂い、ここに安全保障関連法案の違憲性とその危険性を強く国民の皆さんに訴えるとともに、同法案の撤回あるいは廃案を求める。


(弁護士ドットコムニュース)