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Base Ball Bear小出祐介×agehasprings玉井健二対談【前編】 “師弟”が再びタッグを組んだ理由は?

2015年07月15日 15:41  リアルサウンド

リアルサウンド

agehasprings・玉井健二(左)とBase Ball Bear・小出祐介(右)。(写真=下屋敷和文)

 Base Ball Bearが2015年第一弾シングル『「それって、for 誰?」 part.1』を完成させた。ディスコティックな曲調と毒を込めた歌詞の言葉が印象的なこの曲を皮切りに、彼らは3カ月連続でシングルをリリース。現在次なるアルバムも制作中だという。


 今回はバンドの司令塔である小出祐介(Vo/G)、そして今作のプロデュースを手掛けたagehasprings代表・玉井健二による対談を行った。小出が自らの「師匠」と位置づける玉井との関係性、新曲の狙いからBase Ball Bearというバンドの価値観まで、語り合ってもらった。(柴 那典)


・「会った時のこいちゃんは、素手でキャンプに来てる人みたいな感じ(笑)」(玉井)


――Base Ball Bearは2ndアルバム『十七歳』の時に玉井健二さんのプロデュースで楽曲を制作していますよね。


小出:1stアルバムが完成したのが2006年の夏のことだったんですけれど、そのすぐ後に「次作のプロデューサーはこの人がいいんじゃないか」ということで、マネージャーの紹介でお会いしたんです。で、最初に玉井さんと作った『抱きしめたい』が出たのが2007年の4月なんですけれど、その前の2006年の夏から年明けくらいまでの半年間は、玉井さんに徹底的に「曲作りとは」ということを教わっていた。今思うと、めちゃめちゃ贅沢な時間でした。


――どんな感じでやっていたんですか?


小出:半日ぐらいスタジオに入って鍵盤で曲作りのコツを教わったり、玉井さんに課題を出されてたくさんアイディアを考えたりしてました。当時使っていたMDレコーダーで何百トラックも録音して、それを全部聴いてもらって「どれがよかった」「これをふくらませてみよう」という話をして。僕はそれまで、なんとなくの感覚で曲を作っていたんです。そこに理屈をはめ込んでくれた。本当に重要な時間だったと思います。そこで知ったこと、吸収したことが今のバンドの土台になっている。


――玉井さんは小出祐介という作り手をどう見ていましたか?


玉井:まず、持って生まれたものがあるっていうことはすぐにわかりましたね。話しているうちに「この人はおかしな人だ」ってことがわかってきた。つまり、それはすごく才能があるということなんです。たとえばタイトルの言葉の選び方が面白かったり、メロディやフレーズにしても「そこをそうするんだ!?」みたいなセンスがあったりする。でも、その反面「こんなに便利なものがあるのに知らないんだ」みたいな状態でもあったんですね。素手でキャンプに来てる人みたいな感じ(笑)。「いきなり木を切り倒すところから始めるんだ」みたいな。そういうところに僕はキャンプ用品を持ってきて「そこは固形燃料を使えばいいよ」みたいなことをひたすらやっていた(笑)。


小出:本当に感覚で全部やっていたんです。それまでは完全に自給自足だった。俺が気持ちいいと思うのはこっちだ、だから「たぶんこうなんだろう」って判断していたという。その場で木を倒して、それでいかだ作ったり、やぐら組んでみたりして、どうにか魚を釣って焼いて調理するようなことをやってたんで。便利な道具がなかったんですよね。でも「こういうものがあるんだ」ってわかってから、倒した木を削って彫刻を彫ったり、いろんなことができるようになった。そういう風に武器や道具の使い方を覚えていったのが、玉井さんとの時間だったと思いますね。


――かなり濃密に曲作りについて教わった2年間だったんですね。


小出:玉井さんのボーカルディレクションも相当すごかったんです。特に「ドラマチック」と「抱きしめたい」をレコーディングしている時は、ほとんどボイトレの延長だった。「歌とは?」みたいなことを実戦で教わりながら、パーツを作っていくみたいな歌録りだった。練習しながら本番になっていくみたいな感じだったんで、僕としてはかなり辛かったですね。


――ボーカルのレコーディングはどんな感じだったんですか?


小出:その場で玉井さんに指示されたことが、もともと僕の歌い方や発声になくて、初めて知ることだったんで、とにかくやってみないとわかんなかったんですよね。だから、がむしゃらに「こういう風に歌ってみて」「はい!」みたいにするしかない。歌録りが異常に長かった。


玉井:長かったね。


――玉井さんとしてはどんな歌のディレクションをしたんですか?


玉井:当時僕の中で一貫して考えていたことは、やっぱりBase Ball Bearは長く世に愛されるバンドであるべきだっていうことなんです。そう考えた時に、やっぱり軸になるのは歌だろうと思った。なので、言葉でいろんな表現をできているように、曲を書いたりギターを弾いたりしてることと同じ、もしくはそれ以上のレベルで歌を操れるようになってほしかった。そしてそのためには構造をわかってもらうっていうのがいいんじゃないかなって思った。


――構造をわかってもらうというと?


玉井:よくあるボイトレの「遠くに届くように歌って」とか「目を見開いて歌ってみて」みたいな、そういう精神論みたいなことより「歌とはこういうもの」という構造を教えるのが、こいちゃんにとっては一番いいと思ったんです。感覚的でありつつも、いろんなことを構築しながら作っていく人だから。構造を理解したらそれを勝手に活かしてくれるだろうなと思って。


小出:それと、玉井さんに紹介されたボイトレの先生が、まさに「声を出すっていうことは物理的にどういうことなのか」という理屈を授けてくれる人だったんです。声というのは声帯に息があたって振動することによって出ているんだよ、ということを最初に言われて。歌ってみたら「お前は首のこの辺が全然鳴ってない」とか言われて。身体がこういう動きをすればこういう発声になるとか、こういうブレスの仕方をすればこれくらいの声量が出るとか、理屈を身体で覚えて体得していくような感じだった。


――なるほど。歌うということの構造を教えてもらった。


小出:歌だけじゃなくて、僕は玉井さんに楽曲の構造の話を教えてもらったと思います。ポップスの構造はこうなってる、ブラックミュージックだったらこういう構造になってるとか。そういう構造の話を断片的に聞いて、そこから自分なりにいろんな音楽の構造を分析して理解するっていうことを始めた。それが、 今の僕のベースになっている。音楽だけじゃなく、映画を観るにしても小説を読むにしても、構造自体に目がいくようになっちゃって。


――音楽以外にも広がっていったんだ。


小出:最近も朝井リョウさんの『武道館』という小説について、自分の連載で対談したんです。それにあたって、小説を読みながら「ここはこういう場面」というのを全部シーンで区切ってプロットを書き出して。それをもとに「なるほど、こういう話なんだ」って思って朝井さんと話したら「初めてこんなに理解している人に会いました」みたいに言われたりして。そんな風に、小説にしても映画にしても、その構造がすごく気になる。完全に構造フェチになっちゃいました(笑)。


――単にプロデューサーとアーティストというだけでなく、深いレベルで価値観を共有した関係だったんですね。


小出:僕は玉井さんのことを師匠だと思ってますからね。他の人とはなかなかこういう関係性になることもないと思います。玉井さんの師匠は木崎賢治さんというBUMP OF CHICKENやTRICERATOPSのプロデュースをされた方ですけど、玉井さんが木崎さんに師事したように、プロデューサー同士での師匠と弟子みたいな関係性は他にもあるかもしれない。けれど、アーティストとプロデューサーでこういう関係性になるのはあんまりないと思う。


玉井:それは小出祐介という人がとてつもなく特殊な人だということなんですよね。表に出る人なのに、裏側のマインドも持ってる。構造フェチというのも、もともとそういう資質を持ってたんだろうと思います。ただ、裏側のマインド持ってる人って、僕がそうだったみたいに、大抵売れないんですよね。でもBase Ball Bearにはちゃんとファンがいて、支持してくれる人がたくさんいる。そういう人は、他にはほとんどいないんじゃないかな。


・「バンドっぽいことはできるけれど、これをポップな方に引き延ばしてくれる人が今は必要なんだって思った」(小出)


――新作の『「それって、for 誰?」 part.1』は久しぶりに玉井さんのプロデュースになっています。これはどういう理由だったんでしょうか。


小出:去年の秋に『二十九歳』というアルバムを出して、その後に「次は何やろうか?」というのを探るために、スタジオに集まったんですね。僕はその時点で、なるべく早く出したいって思ってたんですよ。前作が3年も間隔をあけたアルバムだったんで、次の年には出そうと思った。『二十九歳』で自分達が持ってるものはわかったし、プレイヤーとしての幅も圧倒的に広がったと思ったんですね。で、これをさらに引き延ばしてくれる人がいた方がいいと思って、最初からプロデューサーを入れようと思っていたんです。でも最初は別の人をイメージしていたんですよ。


――それは何故?


小出:最初、自分たちはポップなことはできるから、その代わり、バンド感やオルタナティブな部分をより引き延ばしてくれるプロデューサーの方と一緒にやろうと思ったんですよ。でも、スタジオに入って、2、3回セッションをやったら「ちょっと待て、逆だった!」と。むしろバンドっぽいことはできるけれど、これをポップな方に引き延ばしてくれる人が今は必要なんだって思った。真逆だったんですよね。そういうことをちゃんと理解してくれて、やってくれるのは、やっぱり玉井さんだった。「もう一回やりましょうよ」ってお声がけさせてもらった感じです。


――最初の時点で、次のBase Ball Bearはどういう方向に進むべきかという話し合いもありました?


小出:しましたよね。


玉井:広尾でお茶をしたね。


小出:その時点で考えていたのが、自分たちにとってポップな面が必要だというのがまず一つ。それと両立したかったのが、僕らがロックバンドであるということなんです。生々しさを持ったバンドである、ということ。つまり僕らは同期も打ち込みも入れないことを唯一のルールとしてやってきている。ギターとベースとドラムでどこまでポップなものをやれるかという発想なんです。で、現時点で「バンドらしさ」みたいなことは十分持ってる。あとはこれをどれだけポップにできるかというところで、玉井さんにアドバイスをもらいたいという。


――玉井さんとしては、Base Ball Bearの現状と小出さんの目指す方向性を受けて、どういうポイントがよりポップになるためのキーになると思いましたか?


玉井:今の時代のいろんなバンドがいる中でBase Ball Bearを改めて見ると、本人はどう思ってるか分からないけれど、十二分にキャラが立ったバンドだと思うんです。かつ、能力を備えている。決定的に大きかったのは、10年を経てパフォーマンス力が非常に高いバンドになっていたということ。だから「芸をひけらかそう」という言い方をしましたね。いろんな設定を考えて、人がやっていない台本を眉間にしわよせて書くことも大事なんだけど、そんなことよりも一流の芸人としてまず芸をひけらかそう、と。小出祐介という人が持っているもの、今まで培ってきたもの、それ自体にものすごく価値があると客観的に思ったので、まずそれをちゃんと見せようという。


小出:で、最初5、6曲をバンドで作って、玉井さんにそれを聴いてもらって。その時の曲の中に、もうこの『「それって、for 誰?」 part.1』はありましたね。


――この曲はどんな風にできていったんですか?


玉井:最初、キャッチコピーみたいな言葉をいっぱいもらったんですよ。


小出:これは岡村靖幸さんと「愛はおしゃれじゃない」を作った時の手法と同じで。あの時もたくさんのキャッチコピーを作って岡村さんに「どれがいいですか?」って選んでもらったんですけれど、それと同じようにたくさんの言葉を書いて玉井さんに聞いたら“「それって、for 誰?」”ってやばいね!」って。


玉井:この言葉はこの数年聞いた中で一番のコピーだ、と。「間違いない、この時点で勝った」という話をして。僕からすると、小出祐介、Base Ball Bearが言う「それって、for 誰?」がいいと思ったんですよね。その時点で素晴らしかった。とはいえ、えぐるからにはちゃんと練られたものがあったほうがいい。


――この曲は、相当、批評性の高い歌詞ですよね。


小出:最初のデモ段階の『「それって、for 誰?」 part.1』は、本当にただの悪口だったんですよ。最初は単なるSNSに対しての愚痴みたいなもんだったんですよ。なんで炎上するようなことを言うのか、なんで炎上させるのか、とか。でも、「それって、for 誰?」っていうワードを玉井さんが面白いって言ってくれたのがきっかけで、そのことに対しての自分のムカつきをちゃんと分析していったんです。そこから「じゃあなんで俺はこれを言いたいんだろう」ということを考えていった。SNSもそうだし、自分が音楽をやってることもそうだし、そもそも表現って「for 誰?」なんだろうって思ったんです。「そもそもなんで僕らは表現するのだろう?」っていう。


――<体操着みたいなEvery one><ドッチータッチーな状況>とか、なかなかポップスの歌詞には使われない言葉を使っていますよね。


小出:そこが最初のAメロで、そこからBメロ、サビ、1番、2番とトスを上げていって、最後にちゃんとスパイクを決めるような歌詞にしようと思ったんですよ。そのためのフレーズが必要で、そこに悩んでいて。でも最後のサビ前の<垢がうんとついてる僕たちのうっせぇ!しかない日々こそ>という一行が書けたことが決め手になった。ここはダブルミーニングになってるんですけれど。


――どういうダブルミーニングなんですか?


小出:その前で、手の平の上のSNS上の世界と、今目の前にある現実と、どっちが本当の世界なんだと思います?っていうことを歌ってるわけなんですよ。この過渡期の中で感じている違和感を歌にしたいという曲なんで。で<垢がうんとついてる>っていうのは、手垢にまみれた僕らの泥臭い毎日というのと、アカウントがついてるSNS上の世界という、その両方があるという。そういうダブルミーニングになっているんですね。


――なるほど。相当に構造フェチだ(笑)。


小出:サビの最後では<こういうこと言っちゃってるこの曲こそfor誰?>って言ってますしね。完全にメタ視線なんですけれど。


・「わかりやすくディスコっぽいグルーヴをどう作るかって言うと、休符の問題なんです」(玉井)


――そして曲調は、黒人音楽的な、ディスコっぽいグルーヴのある方向性になっている。これは?


小出:「ドッチータッチー」っていうのを揶揄してる段階で、単なる四つ打ちの曲だったらサムいわけですよね。だから、ちゃんとグルーヴで引っ張れる曲にしたかったんです。それに、ここ1年くらい「バンドのグルーヴをもっと強化するにはどうしたらいいか」ということをやってきた中で、関根のベースがすごくよくなってきたんですよ。以前は2本のギターが引っ張っていくサウンドだったのが、今回はドラムとベースが引っ張るようになっている。


玉井:演奏を観たら、リズム隊がバージョンアップしたのがすぐにわかるんです。特に(関根)史織ちゃんのグレードが上がってたのが一番驚きましたね。で、こいちゃんはもともとギター上手かったんで。で、(湯浅)将平は喋んなかった。


小出:引き続き喋んなかった(笑)。


――バンドのグルーヴ感が増してたわけですね。


玉井:そうなると、どこにでも行けるんですね。そこがちゃんと芸になっているので、その「持ってる芸をひけらかす」ということができるようになる。仕上げ方もそれがちゃんと見えるようにした、というだけなんです。


――どういう仕上げ方にしたんでしょうか。


玉井:わかりやすくディスコっぽいグルーヴをどう作るかって言うと、休符の問題なんです。弾いてない場所の“間”で決まる。そこを見せるようにした。つまり知性と芸をひけらかすっていう作り方ですね。


――演奏技術、バンドの基礎体力の部分がすごく上がっていたわけですね。そうなると、歌えることの幅も広がってくる。Base Ball Bearというバンドは、そういうバンドに成長してきたということですね。


玉井:そういうことですね。いろんなことをごまかしたり、お化粧したり、そんなことを考えなくていい。喩えるなら、演技もしっかりできる正統派の美人女優だったら、ワンカットで15秒のCMを作れる。あとは、小さじ一杯ぶん可愛いければいい。そういう話ですね。


後編に続く


(取材・文=柴 那典)