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Flower、7人全員が主役級ゆえの「懐の深さ」 単独ツアーで描いた濃密な物語とは?

2015年07月15日 08:10  リアルサウンド

リアルサウンド

『Flower LIVE TOUR 2015“花時計”』より。

 Flower初の単独ツアー『Flower LIVE TOUR 2015“花時計”』が、7月10日の名古屋公演でファイナルを迎えた。全国5都市のZeppを巡るこのツアーでFlowerが描こうとしたのは、「劇場」の中で展開するひとつの箱庭的な世界だった。


 そのシンボルが、プロセニアムアーチ上方に掲げられた「Flower Theater」という言葉だ。左右にも白い柱を配してこのステージがひとつの額縁舞台であることを強調したセットは、Flowerがこれから「Theater」で物語を紡いでいくことを告げるものになっている。スクリーンに浮かんだ時計が開演時刻を知らせると、影絵を用いながら少女が夢の中をさまようようなコンセプトのストーリーがつづられ、1曲目の「さよなら、アリス」からライブはスタートする。この段階ではまだステージとフロアを隔てたままになっている紗幕に図案が投影され、その背景でFlowerの7人のパフォーマンスが展開していく。同曲終盤では7人のとるフォーメーションの位置に7つの花が投影される。投影された位置とメンバーのポジションが心地よくぴたりと合い、メンバーとスタッフとの間にステージ作りのための細やかな協同作業があることをうかがわせる。プロジェクションマッピングがジャンルを問わず各所のステージで活用される今日にあって、全体としてこのツアーでのプロジェクションは繊細さを感じさせながらも、デコラティブに振り切ったものではない。けれども、バラードを主体としたFlowerのカラーに今回の映像の方向性はとても似つかわしいものになっていた。


 ヴォーカルと同等にパフォーマーが強い存在感を放つことで作られるステージは、FlowerのみならずLDHの各グループが確立してきた巨大な武器である。その特質は、楽曲とダンスパフォーマンスに映像や照明を連携させ、演出に趣向を凝らすことのできるワンマンライブの中でこそ、より洗練された世界を生み出す。たとえば序盤、「青いトライアングル」でその特質を印象的にうかがうことができた。同曲全編の振り付けを担当した中島美央のダンスから始まるこの曲は、鷲尾伶菜と市來杏香の二人のヴォーカルが背中合わせに並べられた椅子に座って歌唱することで、矛盾する心情を歌う詞を視覚的に浮かび上がらせる。そして終盤はその椅子を用いてパフォーマーたちが歪んだ三角関係を表現、ラストはそのトライアングルを前にがんじがらめになるようなさまを、照明とパフォーマーのコンビネーションであらわした。パフォーマンスの重点が歌唱ばかりに収斂しない複合的なものであることを、LDHという組織はこれまで繰り返し体現してきた。その志向は決して、多人数によるパーティー的な楽曲のみで発揮されるものではない。よりタイトな編成のシリアスな楽曲でも、その武器は存分に発揮されてこのグループの懐の深さを見せる。もちろんそれは、中島はもちろん藤井萩花、重留真波、佐藤晴美、坂東希らパフォーマーの一人一人に、主役になれるレベルのスキルと存在感の強さが備わっているから可能になることだ。


 今回のライブでとりわけ印象深いもののひとつに、ZONEのカバー「secret base~君がくれたもの~」がある。鷲尾と市來の二人のみでのパフォーマンスとなった同曲だが、互いの存在を確認しあうように歌われるなかで、この耳馴染みのある楽曲が一対一の関係をつづったものであることがこれまでになく鮮明に突きつけられてくる。これは現在のこの二人だからこそ表現しえたバランスなのだろう。今回のFlowerのカバー曲として、この作品が選ばれたことの意義が強く感じ取れた。


 E-girlsにおいてもそうだが、Flowerにとって過去の名曲のカバーは、広い聴取層に開かれた回路をつくるためのものとして効果的に機能している。ライブ後半では鷲尾による「SWEET MEMORIES」や以前からのレパートリーとしてある「恋人がサンタクロース」、映画『ANNIE/アニー』の日本語吹替版テーマソング「TOMORROW~しあわせの法則~」といったカバー曲の割合が多くなる。それは幅広い観衆に対して開かれると同時に、「Flower Theater」の閉じた物語世界からもやや開かれ、ステージとオーディエンスとの仕切りを取り払うような流れでもあった。序盤の「花時計~Party’s on!~」からシングル曲が連なっていく展開の中にみられた、額縁舞台の内側の物語を色濃く描くようなあり方よりも、一段「ライブ」として開かれた瞬間だったといえるだろう。これは、Flowerの単独ライブが描く世界が、箱庭的な物語世界とライブ感を強めた開かれた世界、どちらの顔も見せることができるという可能性を示唆するものだ。


 そしてアンコールはさらに彼女たちの等身大のキャリアを見せるように、初期楽曲を連ねてパフォーマンスする。そして、Flowerの歌詞世界を担う重要人物・小竹正人が現行7人体制になった今の彼女たちに向けて書いた「七色キャンドル」で、デビューからこのツアーまでの歴史をつなぎ、公演を締めくくった。Flower初の単独ツアーは、彼女たちが物語を紡ぐ「Flower Theater」の第一歩である。箱庭的な物語の強度をさらに高めていくのか、額縁を外して「ライブ」としての側面を強調するのか、あるいはそれらをゆるやかにつないでいくのか。いずれの方向を目指すにしても、彼女たちの「劇場」がさらに精緻なものになっていくのを楽しみにしたい。(香月孝史)