ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催されたベライゾン・インディカー・シリーズ第12戦。伝統の一戦“ミルウォーキーマイル”をセバスチャン・ブルデー(KVレーシング)が制した。佐藤琢磨(AJフォイト)は、スピードが伸びず14位でレースを終えた。
予選と同日に決勝レースを行う新しいスケジュールは、実に慌ただしかった。
夕方4時30分過ぎ、24台のインディカーは快晴の下でレースのスタートを切った。予定周回数は250周だ。
エアロキット装着による初めてのショートオーバルレース、スタートからポールシッターのジョセフ・ニューガーデン(CFHレーシング)が圧倒的な速さでトップを疾走。これに対抗できたのは予選2番手のライアン・ブリスコ(シュミット・ピーターソン)だけだったが、彼はタイヤ交換、燃料補給と2回続けてピットストップで大幅なタイムロスを喫し、最後は単独スピンでウィル・パワー(チーム・ペンスキー)を巻き添えにレースを終えた。
レース中盤に2回続けて出されたフルコースコーションが明暗を分けた。ジェイムズ・ジェイクス(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)のエンジンブローと、ブリスコとパワーのアクシデントによるコーションだ。ここでピットストップを行わないのが結果的に正解となった。セバスチャン・ブルデーだけが4回のピットストップで250周を走り切ったのだ。
多くの周回遅れが間に挟まれた結果、トップに立ったブルデーだけが実力をフルに発揮し、速いペースで走り続けることが可能となった。それによって彼は2位以下との差を一気に広げたのだった。一時的に、ブルデーは2位以下全員を周回遅れにするほど大きなリードを手にしていた。最後のピットストップをグリーン下で行っても、ブルデーはトップを保ったままレースに復帰した。
「今日の僕らのマシンは本当に速かった。ミルウォーキーのようなコースでは時としてマシンが本当に素晴らしいものに仕上がることがあるが、今日がまさにそれだった。一度は自分たちの作戦が裏目に出たと思ったが、コース上のスピードで自分たちの有利にひっくり返すことができた」とブルデーは大喜びだった。
ブルデーにとって唯一の試練は、最後の最後にやって来た。ゴール目前の222周目にジャスティン・ウィルソン(アンドレッティ・オートスポート)がエンジンブローでストップ。3回目のイエローが出された。ピットインしたばかりだったブルデーは、8周しか走っていないタイヤを装着していたが、残り周回での大逆転に向けて多くのチームがフレッシュ・タイヤへの交換を決意したのだ。
ブルデーはコース上にステイアウトしてトップをキープ。残り18周でライバル勢を凌ぎ切れるかに注目が集まった。
リスタートが切られると、クリーンエアを武器にブルデーはダッシュ。オールドタイヤで戦うファン・パブロ・モントーヤ(チーム・ペンスキー)とエド・カーペンター(CFHレーシング)は2、3番手のポジションを諦めるしかなかった。フレッシュタイヤを武器にエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)、グラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン)は彼らをパスし、トップをいくブルデーを追った。
しかし、ブルデーのスピードが衰えることはなく、2秒以上の差をもって彼は悠々とゴールラインを横切った。チャンプカーとインディカーが合併して以来、ブルデーはついに初めてのオーバル優勝を飾った。デトロイトでのレース2(シリーズ第8戦)に続く今シーズン2勝目でもあった。
最後尾スタートながら2位フィニッシュしたカストロネベスの戦いぶりも賞賛に値する。マシンが良く、ピットストップの短さなど、チーム力を味方につけてのパフォーマンスだった。レイホールの3位フィニッシュもまた素晴らしい結果だ。今シーズン5回目の表彰台というのだから驚きですらある。彼らは1台体制のチームなのだ。
この3位フィニッシュによってレイホールはランキングをひとつ上げ、ポイントランキング3位となった。カストロネベスと同ポイントだが、レイホールは1勝しているため、ランキングは彼より上となる。
ランキング2位だったパワーは今日のクラッシュで5位まで一気に後退。今日、ランキング2位に浮上したのはスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だが、レイホールとの差は15点しかない。レイホールはトップのモントーヤとの差も69点となっている。
「チームが本当に頑張ってくれている。持てる力のすべてを出し切る戦いが今日もできていた。最後のピットストップで3つもポジションを稼ぎ、リスタートの後に2つ更にポジションアップ。本当はエリオ(カストロネベス)を抜いて、更に上位とのポイント差を縮めたかったが、それは叶わなかった。残るレースでも僕らは思い切りプッシュをし続ける。ホンダの先頭を切って戦っていることも誇りに感じている」とレイホールはコメントした。
佐藤琢磨はスタート直後のスピードの無さが最後まで響いた。1周遅れを最後の最後で挽回し、最後のピットストップに10番手で入った琢磨だったが、右リヤタイヤ・チェンジャーがミス。大きくタイムをロスして15番手まで後退し、リスタート後にはカルロス・ムニョス(アンドレッティ・オートスポート)1台だけしかパスできなかった。結果は14位。
「長く、厳しいレースとなってしまった。1ラップ遅れを取り戻すのに時間がかかり過ぎた。展開が味方してくれなかった。ようやくトップと同一ラップに戻った時には、もうレースは残り20周を切っていた」と琢磨は描いていた通りの戦いが出来ずに悔しがっていた。