トップへ

バンドじゃないもん!が内包する強烈なスリルとは? Zeppワンマン徹底レポート

2015年07月13日 07:10  リアルサウンド

リアルサウンド

『バンドじゃないもん! ワンマンライブ Vol.4「カサナルイズム!カナデルリズム!~君の笑顔で世界がやばい編~」』の様子。

 バンドじゃないもん!は、成り行きで現在の変則的な編成になったグループではあるが、それゆえに完全にワン・アンド・オンリーのアイドルグループとしてZepp DiverCity Tokyoでのワンマンライブを成功させた。2015年7月4日に開催された『バンドじゃないもん! ワンマンライブ Vol.4「カサナルイズム!カナデルリズム!~君の笑顔で世界がやばい編~」』は、感無量にさせられたライブだった。


 Zepp DiverCity Tokyoのキャパシティは約2,500人。新宿BLAZE(2015年2月7日)でのワンマンライブをソールドアウトさせたとはいえ、その次に用意されたあまりにも大きいワンマンライブの会場に、誰よりも危機感を持っていたのはメンバーだったはずだ。チラシ配りをするにもゲリラ的な手法はリスキーであるため、他のアイドルのライブ会場で許可を取ってチラシをまくなど、かなり困難な状況を突き進むことにもなった。メンバーによるツイキャス配信や、YouTubeへの動画のアップロードなど、地道な広報活動も。さらに驚いたのは、警察に許可を取って駅前で宣伝活動をしたもんスター(バンドじゃないもん!ファンの総称)までいたことだ。ワンマンライブ直前は、まさにメンバーとスタッフともんスターの総力戦の様相を呈していた。


 そしてライブ当日、Zepp DiverCity Tokyoの2階から下のフロアを見た。ソールドアウトこそしなかったものの、満員と言っていい人の入り具合で、後ろまでびっしりとサイリウムの輝きが見える。ステージからは、横幅の広い花道が突き出していた(細い花道ではない点は後の演出の重要な伏線となっていた)。


 その光景を見て、私はふと2012年2月18日に新代田FEVERで開催された「跳ぶんzzz 1m」というイベントのことを思い出していた。あの頃、バンドじゃないもん!をいつも見に来て最前列にいたのは基本的に3人。後に「僕も後ろにいました」という人が現れたので、いつも現場にいたのは合計4人だ。新代田FEVERでのライブも、当時のメンバー2人にファン4人という状況だったが、当時はそれが普通だったし、バンドじゃないもん!の2人によるうまい棒の早食い競争に笑っていた記憶がある。牧歌的な時代だ。Zepp DiverCity Tokyoでのワンマンライブなど、当時は想像すらしていなかった。


 バンドじゃないもん!は、神聖かまってちゃんのドラムとしても活躍するみさこがリーダーを務める6人組のアイドルグループだ。2011年の結成当初は4人組の普通の「バンド」であったが、後にみさこと「かっちゃん」こと金子沙織によるツインドラムの形式になった。そのツインドラム編成のお披露目は、2011年5月7日に原宿アストロホールで開催された「ASTRO HALL 11th anniversary『PRIVATE LESSON』」であり、でんぱ組.incとのツーマンライブ。バンドじゃないもん!の出番のとき、でんぱ組.incのファンの皆さんに最前列を譲ってもらったものの、そこに行ったのは自分も含め5人だった思い出がある。


 「ツインドラムあいどる」としてメジャー・デビューし、さらにメンバー(恋汐りんご・七星ぐみ・水玉らむね)を追加してアイドル色を強めたものの、かっちゃんの脱退で一時は楽器演奏ができるメンバーはみさこのみの状態に。その後、ベースを弾ける望月みゆが加入。水玉らむね脱退後に、「ちゃんもも◎」こと天照大桃子と、キーボードの甘夏ゆずを加えたのが、現在のバンドじゃないもん!だ。紆余曲折のあったグループだが、そのぶん現在のバンドじゃないもん!はメンバーの個性の豊かさとグループとしての「強さ」をあわせもっている。


 開演を告げるメンバーのアナウンスがあり、ステージのスクリーンにオープニング映像が流れる。そしてステージの幕が上がると、そこには2階建ての洋風建築の回廊のような舞台装置が設置されていた。こんな大がかりな舞台装置がバンドじゃないもん!のライブに用意されたのは初めのことだ。さらに、みさこのドラムも台に乗っていて、いつもより一段高い。ステージを見ただけで、今日のライブへの意気込みが一目でわかる光景だった。


 1曲目の「お姫様ごっこ」から、みさこが前で踊ったり、ドラムセットに戻って立って叩いたりと忙しい。これに先立つ2015年6月21日、私は「YATSUI FESTIVAL! 2015」で1年以上ぶりに最前列でバンドじゃないもん!のライブを見たのだが、フィジカルにして非常に情報量が多い現在のバンドじゃないもん!の姿を目の前で見るのは鮮烈だった。それはZepp DiverCity Tokyoの2階席から見ても変わらない。


 元般若のDJ BAKUが作曲した「RAVE RAVE RAVE」では、レイヴな楽曲にあわせて扇子も使い、Zepp DiverCity Tokyoが一気にジュリアナ東京に変貌した。「イヌイットディスコ」では照明とのシンクロが見事。「バンもん!のテーマ」は初期から演奏されている楽曲だが、現在はみさこ・望月みゆ・甘夏ゆずによる生演奏のパートが追加されている。


 バンドじゃないもん!のメンバーは、苦しさも葛藤も基本的には表に出さない。彼女たちはお涙頂戴も一切しない。その代わり、過剰なほどの幸福感をアピールすることで、ファンをここまで増やしてきた。しかし、メンバーにとってみれば、精神的な負荷も大きかったはずだ。……そんなことをメンバー紹介を聞きながら考えていると、みさこは叫んだ。「今日はみんながなんで生まれてきたかを教えてあげます、それはバンもん!と出会うためだー!」と。もんスターの歓声に、みさこは「まだ足りない!」とさらに叫んだ。続く「もっと愛しあいましょ」はリンドバーグのカヴァーだが、今ではすっかりオリジナル曲のようだ。


 そして「雪降る夜にキスして」では、この日の最初のハイライトが訪れた。みさこのドラムセットが乗った台の後ろに、動物のかぶりものをした数人のスタッフがやってきた。何をするのだろう……と思っていると、ドラムセットの乗った台ごと花道の先端まで押して運び、みさこはいつもよりも長いドラムソロを叩ききったのだ。ドラムセットを運ぶのも、みさこがドラムを叩くのもすべてが人力。バンドじゃないもん!らしい泥臭さにして、強烈なカタルシスをもたらしたシーンだった。そう、この日の花道の幅は、みさこのドラムセットの台の幅に合わせていたのだ。


 「アイの世界」では、七星ぐみの指導でもんスターをジャンプさせ、Zepp DiverCity Tokyoに巨大なウェィヴを発生させた。MCというか小芝居(初期のバンドじゃないもん!のライブでは小芝居がいつもあった)を挟んでの「YATTA!」ははっぱ隊のカヴァー。なぜ今日この楽曲をやるんだ、という馬鹿馬鹿しさもバンドじゃないもん!らしかった。


 アカシックの奥脇達也が作曲した「君の笑顔で世界がやばい」は、2015年4月22日にリリースされた初のフル・アルバム「Re:start」のリード曲だ。この楽曲には「"ロックはしんだ"とシモンズ言ってた直接聞いてはないけれど」という歌詞があるが、この日は「"ロックはしんだ"とシモンズ言ってた もんスターは生きてるぞー!」とみさこが歌詞を変えて歌った。暴れ曲である「タカトコタン-Forever-」では、みさこが激しくドラムを叩いている最中に、甘夏ゆずもそのドラムを叩いていた。「タカトコタン-Forever-」と同じくゆよゆっぺが作詞作曲した「速い曲」では、突然「誰が速いか選手権」が行われ、七星ぐみと甘夏ゆずが花道に転がるほど激しい動きをすることに。「恋の呪文はスキトキメキトキス」は、「もっと愛しあいましょ」と同じくミナミトモヤとONIGAWARAがアレンジしたカヴァーだ。


 メンバーがいったんステージ脇に引くと、舞台装置の2階に再び現れた。歌われたのは「ヒラヒラ」。ももいろクローバーの「走れ!」で知られるKOJI obaが作曲したミディアム・ナンバーだ。そこから降りて、みさこ・望月みゆ・甘夏ゆずがが楽器をセッティングしてから歌われたのは「Back in you」。初期から歌われてきた、甘いミィデアム・ナンバーにして名曲だ。作詞はかっちゃんがしているのだが、「鳴りやまないドラムロール」という歌詞が、ツインドラム時代のバンドじゃないもん!を思い出させる。この日のみさこのドラムの狂おしさを聴きながら、彼女もまた思うところがあるのかもしれない、と感じた。


 そして「ショコラ・ラブ」は、最初期から演奏され、2013年にリリースされた初めてのシングルだ。今でこそ「メガネ萌え」と繰り返すサビに振り付けがあったり、「大好き」という歌詞にもんスターが「俺もー!」と返したりするが、そうした形式になったのは最近のことだ。この楽曲で初めてMIXを打ったのは、前述の原宿アストロホールでの私のはずで、当時はまだMIXさえ入ってなかったのだ。言い換えれば、「ショコラ・ラブ」は2011年から現在までのバンドじゃないもん!の歴史が詰まっている楽曲だ。


 そして、2度目のハイライトにして、この日最大の山場が訪れた。セットリストには「UP↑ぷらいむ(演奏)」と書いてあったが、最初意味がわからなかった。みさこ・望月みゆ・甘夏ゆずの演奏は他の楽曲でもしているし、「演奏」と特記されているということはインストルメンタルなのだろうか……と考えていると、メンバーがステージから去ってしまった。そして長い映像が始まる。映像の中で、恋汐りんごは「ツインドラムはかっちゃんを見ていていいなと思ってた」と語り、七星ぐみは「初期のバンもん!に対するリスペクトをしつつ、今の6人でやるという感じかな」と語った。


 そう、映像の中の彼女たちは、全員が楽器を持って演奏の練習をしていたのだ。恋汐りんごはドラム、七星ぐみはキーボード、天照大桃子はギター。ふだんはキーボードの甘夏ゆずはギターを抱えていた。多忙な中でいつ練習をしていたんだ……と驚きながら、完全にガールズバンドとなったバンドじゃないもん!の登場を見守った。


 「UP↑ぷらいむ」は、みさこが歌詞にメンバーの名前を織り込んだ2013年のシングルだ。その発売以降メンバーは変わってしまったが、「Re:start」収録のヴァージョンでは歌詞が書き直され、新たに加わったメンバーたちの名前もしっかりと織り込まれている。みさこが「本当の意味で一緒のライブをしたい、一緒に歌ってください!」と言うとスクリーンには歌詞が映し出された。


 私はその光景を見ながら、天照大桃子と甘夏ゆずの加入直前、みさこに公式サイト用のインタビューをした夜のことを思い出していた。新加入する2人のうち、みさこが「音楽的なパフォーマンスを柔軟に引っ張ってくれそう」と言う甘夏ゆずは、なんとマルチプレイヤーだという。また、みさこが「歌やダンスの技術をしっかり持ってる」と期待する新メンバーは、ちゃんもも◎だと聞いて驚いた。マルチプレイヤーと「テラスハウス」出演者という組み合わせに、今後がまったく想像できなかったが、初めてふたりがステージに参加した2014年5月16日の新宿ロフトでの「SHINJUKU LOFT 15TH ANNIVERSARY EXTRA!!! Presents ばんばんネギ大もり!!!」は、異様な勢いと熱気を感じさせるライヴだった。アンコールでは、大森靖子やNegiccoとともに、Buono!の「初恋サイダー」が生演奏で歌われたのだが、そこにいきなりショルダーキーボードで実戦投入されたのが甘夏ゆずだ。天照大桃子のヴォーカルも含めて「この勢いなら行ける」と確信した夜だった。その天照大桃子と甘夏ゆずの名前も新しい「UP↑ぷらいむ」には織り込まれている。


 「UP↑ぷらいむ」は、実は本編ラストの1曲前だった。手堅く考えるなら、終盤は盛りあげて終わるべきところを、あえてその流れを切ってまでバンドじゃないもん!は自身のルーツを振り返り、そして新たな試みとして全員によるバンド演奏をした。本編最後の「パヒパヒ」では、紙吹雪が盛大に噴出された。


 「アンコールいくぞ!」という掛け声が2階席にまで聴こえた。TO(トップオタの意)の女の子の声だ。


 アンコールは衣装を替えての「プリズム☆リズム」と、イントロがライブ仕様に変更された「ツナガル!カナデル!MUSIC」。「ツナガル!カナデル!MUSIC」はインディーズになってからのシングルだが、オリコン週間シングルランキングで14位を獲得した楽曲でもあり、同時に歌割りも含めて完璧なポップスだ。


 アンコールが終わると、「ゼップダイバーシティいくぞ!」と再びTOの女の子の声がした。その場のファンのそれぞれの思いが響くかのように再びアンコールが叫ばれた。


 2度目のアンコールは、再び衣装を替えての「君の笑顔で世界がやばい」。みさこはMCで「もっと上に行きたい」と明言した。サビで激しく動かされるもんスターたちの手がコマ送りのように見えて、不思議な感覚で眺めていた。


 バンドじゃないもん!が全員でバンド演奏をしたとき、「ああ、これではそこらのロックバンドは勝てない」とすら思った。凡庸なロックバンドが「『ロック』しましょう」などと言うときほど鼻白むものはない。先日発売された「宝島AGES」No.3では、BELLRING少女ハートのディレクターの田中紘治が「ロックの若いバンドやシンガーはプライドで整理させるけど、アイドルは整理しない」と指摘し、だからこそロックなフィーリングが出るのではないか、という主旨の発言をしている。これは示唆に富んだ重要な発言だ。


 アイドルという形式の「拘束」と、その拘束の外部に生まれるフィーリング。Zepp DiverCity Tokyoでのバンドじゃないもん!は、特殊な編成を最大限に活用して、独自のスリルを生み出していた。それは、みさこが神聖かまってちゃんという、いまだに「危うさ」を持ち続けているロックバンドのメンバーであることとも関係しているかもしれない。また、バンドじゃないもん!が4年間の活動を経て集めた現在の6人のメンバーの、その個性の絶妙なバランスの上に成立しているスリルなのかもしれない。


 現在のバンドじゃないもん!は、強烈なスリルを内包しているアイドルグループなのだ。それをわかりやすく「ロック」だ、と言い換えても別にいいかもしれない。


 2011年に初めてバンドじゃないもん!を見てから4年以上が経つが、数々のライブを振り返ってもなおZepp DiverCity Tokyoは「過去最高のライブだった」と断言できるものだった。100点満点で言えば98点を献上するレベルだ。今後は「100点」だと言わざるをえなくなるようなライブを見せてくれることを楽しみにしたい。おそらく、その日は遠からず来るはずだ。(宗像明将)