2015年07月12日 11:31 弁護士ドットコム
通販サイト「Amazon.co.jp」が6月下旬から、中堅出版社6社の書籍を最大で「20%割引」する期間限定キャンペーンを始め、注目を集めている。これまで書籍や雑誌、新聞などの商品は、「再販制度(再販価格維持制度)」のために、小売店(書店)が勝手に値段を下げて「割引販売」することができなかったが、その前例をくつがえすものといえるからだ。
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日本経済新聞の報道によると、今回のキャンペーンでは、Amazonが個別に出版社と合意して値引きできるようにしたという。参加する出版社は、再販制度で定価販売する利点よりも、返品を減らす利点のほうが大きいと判断したとみられる。
日本経済新聞は「一般の書店からは、制度を揺るがしかねないと反発が起きる可能性がある」と指摘しているが、そもそもなぜ、書店などの販売事業者は、書籍の価格を自由に決められないのだろうか。また、今後も書籍や雑誌などを特別扱いすることは妥当なのだろうか。独占禁止法にくわしい三平聡史弁護士に聞いた。
「自由市場経済では『自由競争』が前提となって、マーケットメカニズムで価格・クオリティが最適化されます。
自由競争は重要なので、これを妨害する『業界の悪行』は禁止されています。その代表例が『価格協定=カルテル』です」
三平弁護士はこのように述べる。なぜ書籍は「再販制度」のもとで、価格を決めることが許されているのだろうか。
「自由競争だと公正にならないとされる商品・サービスについて、独占禁止法では一定の例外が規定されています。
その例外の1つが『書籍の再販制度(再販売価格維持制度)』です。書籍は『文化』に直結するから特別扱いだと考えられてきました。
理由として、『売れ筋ではない書籍が発行されない』『書店が廃業になる』『地方の書店では販売価格が上がる』『地方の住人が困る』などが挙げられています」
ただ、書籍を特別扱いすることに、ネット上では疑問の声も出ている。この点をどうみるべきか。
「実は2001年の時点で『再販制度』への疑問が強くありました。そこで公正取引委員会が調査し、見解を発表しています。
公取委は、原則論としては『再販制度は廃止すべき』と宣言しています。
ポイントカード制で実質的な減額、つまり実質的価格設定が行われていることを指摘したうえで、『各種割引制度導入』『価格設定の多様化』を『一層推進すること』を要請しています。
つまり、このような『ただし書き』付きで、かろうじて『再販制度維持』という結論になっているのです。ポイント制や割引制は再販制度維持の『言い訳』として認められているといえます」
いまでも、同じような状況なのだろうか。
「公取委の見解公表から既に14年が経過しています。時代の変化によって、コンテンツの消費スタイルが大きく変わっています。
今では、電子書籍・雑誌のサービスが爆発的に普及して、書店の統廃合も進んでいます。これまで挙げられてきた理由では、再販制度維持を正当化することは、ますます難しい状況になっているでしょう」
三平弁護士は「時代の変化は悲しむべきものではありません。憩いの場をコンセプトにする書店など、多くの『今までにない』スタイルも人気を呼んでいます。書店やそれ以外の業界にとって、レガシーなスタイルから脱皮するチャンスが到来していると思います」と述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
三平 聡史(みひら・さとし)弁護士
早稲田大学理工学部出身の理系弁護士。”サイエンス、事業、労働、恋愛は適正な競争による自由市場により発展、最適化される”との信念で、新テクノロジー・ベンチャーの分野に力を入れる。twitterアカウントは@satoshimihira。
事務所名:弁護士法人みずほ中央法律事務所
事務所URL:http://www.mc-law.jp/