2015年07月12日 10:21 弁護士ドットコム
2007年に愛知県名古屋市で起きた「闇サイト殺人事件」の神田司死刑囚の刑が6月下旬、執行された。神田死刑囚は、携帯電話の「闇サイト」を通じて知り合った男性2人とともに、女性を拉致して殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われ、2009年に一審の名古屋地裁で死刑判決を受けた。
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神田死刑囚は判決を不服として控訴したが、その後、自ら控訴を取り下げ、死刑が確定した。この事件で、他の男性2人は無期懲役が確定している。
報道によると、殺害された女性の母親は事件後、日本の司法の下では、被害者が1人の殺人事件で死刑判決が言い渡されるのはまれだと知り、被告人3人への極刑を求めて、署名活動を展開した。署名は最終的に33万人分に達したという。
なぜ、被害者が1人しかいない場合、死刑判決が言い渡されるのは「まれ」なのだろう。死刑になるかどうかの基準は、どのように決まっているのか。猪野亨弁護士に聞いた。
「殺人罪の法定刑は、懲役5年から無期、死刑までと幅広く規定されています。ただ、裁判官は、その範囲内であればどの刑を選択してもよいわけではなく、他の同種の事件の量刑と平等になるようにしなければなりません。
特に死刑は、犯人の命を奪う極限的な刑罰です。究極の刑罰である以上、裁く者によってばらつきがあってよいはずがなく、その基準は確固たるものでなければなりません。そのため1983年に最高裁が、いわゆる『永山基準』と言われるものを定立して以来、それが死刑判決を下せるかどうかの基準となりました」
永山基準とは、どのようなものなのか。
「永山基準では、まず、以下9つの項目すべてを考慮します。
(1)犯行の性質(2)動機(3)態様(ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性)(4)結果の重大性(ことに殺害された被害者の数)(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)犯行後の情状
これらを考慮した上で、刑事責任が極めて重大で、かつ犯罪予防などの観点からも、極刑がやむを得ないと考えられる場合には、『死刑の選択も許される』との判断が示されています」
被害者が1人の場合、死刑判決が言い渡されるのが「まれ」と言われるが、それはなぜなのだろうか?
「永山基準で『ことに殺害された被害者の数』と示されているとおり、殺害された被害者の数は、死刑とすべきかどうかの判断で、大きな要素を占めています。したがって、その他の事情があるからといって、被害者が1人でも死刑判決を許容できる場合は、極めて限定されているといえます。
最近の判決の中で、次にあげる事案と比較してみるとわかりますが、やはり被害者が1人の場合に死刑とすることは、問題があると言わざるを得ません。
2009年8月に発生した、耳かき店員殺人事件では被害者は2人でしたが、死刑求刑に対し、東京地裁は無期懲役としました。しかし検察は控訴していません。2010年の判決です。
また、2009年10月に発生した千葉大生殺害事件は、被害者1人の強盗殺人(その他放火、強盗強姦等)で地裁の裁判員裁判は死刑判決を下しましたが、高裁は破棄して無期懲役とし、最高裁もこれを支持し、無期懲役が確定しました。
さらに、前科として2人(妻子)を殺害し懲役20年の判決を受けた男が、出所後に起こした強盗殺人(被害者1人)でも、同様に最高裁は死刑の適用を否定しました。いずれも2015年2月の判決です」
過去の判決を見る限り、被害者が2人以上の事件でも、死刑判決が下されることは決して多くはないようだ。
「マスコミなどは『先例重視』はどうなのかという言い方をしますが、これは刑罰の適用の平等の問題であり、適正手続の問題です。また諸外国では、死刑制度は廃止、あるいは少なくとも執行が停止される傾向にあります。死刑の適用範囲を広げていくことは、時代の流れに逆行することでもあります」
最後に猪野弁護士は、今回の事件について、次のように述べていた。
「今回、死刑が執行された神田死刑囚は、控訴の取り下げによって死刑が確定しました。33万人もの署名が集まったということですが、地裁の死刑判決が、この署名の影響を全く受けなかったといえるかどうかは疑問です。
裁判員裁判での死刑判決が、上級審で覆されていることからもわかるように、地裁だけの判断で死刑判決を正当化させることは、非常に危険です。死刑の場合は『被告人自身が不服がないから死刑判決でよい』というものではなく、本来的には最高裁による審査が不可欠です。自動上訴の仕組みがない日本の死刑制度は欠陥があるというべきです。
また、今回の死刑囚は、控訴取り下げが無効か否かも争われている中で死刑が執行されたということで、この点も非常に問題だと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://inotoru.blog.fc2.com/