2016年1月にオランダでの実験導入が決まった「ベーシックインカム」制度。世界中がその結果を心待ちにしています。もともと政府が全国民に対して最低限の生活に必要な額の現金を無条件で毎月支給する構想ですが、果たしてうまくいくのでしょうか。
オランダのニュースを受けて世界中で議論が沸き起こっていますが、この制度の提唱者であるスコット・サンテンス氏は、「なぜベーシックインカムを支持すべきなのか」という記事を7月8日付の米ハフィントンポストに寄稿しています。(文:夢野響子)
アフリカでは犯罪率が減り、失業率も下がった
記事によると、2009年にアフリカのナミビアで「ベーシックインカム」のパイロットプロジェクトが行われた例があるそうです。1年後、子どもたちの授業への出席率は上がり、空腹で授業に集中できない子どもが減り、犯罪率が36.5%減りました。
貧困率と失業率が下がり、ベーシックインカム以外の収入が平均29%上がるという効果も表れています。貧困の悪循環から抜け出した人々が、仕事を見つけたり起業したり、登校するようになったのです。
記事は米国を例に、ベーシックインカムに必要な費用を試算していますが、18歳以上の国民全員に年間1万2000ドル(1ドル=121円で約145万円)、18歳以下に4千ドル(約48万円)を支給するというプランを選んだ場合、1兆5千億ドル(約181兆1100億円)の予算が新たに必要になります。
この費用の捻出について、サンテンス氏は「不要な官僚主義をなくすなど数々の改善を行えば、それは可能だ」と主張しています。
「人々が働くのをやめてしまうのではないか」という懸念もありますが、人はそう簡単にやめないようです。米国で70年代のニクソン政権が「年収保障制度」を目指してシアトルやデンバーで行われた試みでは、当時人々が減らした労働時間は最高でも8%、その後のカナダでの試みでは1%のみでした。
そもそも働き過ぎ。労働時間は減った方がいい
現在米国人は働き過ぎだと言われています。3人に1人が週50時間労働で、60時間労働の人もたくさんいます。「長時間労働は生産性を落とす」という新しい研究結果も出ている折り、労働時間はむしろ減った方がいいくらいなのだそうです。
労働者が無理に働かなくてもいい状況では、雇用者が従業員を搾取することがなくなり、労働組合も不要になるそうです。いわゆる「ブラック企業」も生き延びることができなくなるわけです。
「物価の値上がりを促さないか」という懸念もありますが、消費者の選択肢が増えた社会でも販売競争は続きます。昨年までユニセフの資金で18か月間にわたってインドで行われたプロジェクトでは、かえって物価が下がったという結果も出ているそうです。
奴隷制度の廃止を人々が支持したように、また国民全員に選挙権が与えられることを支持したように、世界をよりよくするためにベーシックインカムを支持すべきだとサンテンス氏は結んでいますが、日本のみなさんはどうお考えになるでしょうか。
(参照)Why Should We Support the Idea of Universal Basic Income? (HUFFPOST POLITICS)
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