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ドリカム吉田美和は卓越した作詞家である コンプリートベストを元に軌跡を追う

2015年07月11日 15:10  リアルサウンド

リアルサウンド

DREAMS COME TRUE。

 DREAMS COME TRUEのベストアルバム『DREAMS COME TRUE THE BEST!私のドリカム』が7月7日にリリースされた。カラオケのドリカム歌唱データ、今年11月から行われる4年に1度のグレイテストヒッツ・ライブ『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2015』のリクエストの中間ランキングなどを参考にセレクトされた本作は、デビュー曲「あなたに会いたくて」から最新シングル曲「AGAIN」まで、レーベルを超え、ヒット曲・代表曲が網羅された初のコンプリートベスト。デビューから26年に渡って質の高いポップミュージックを生み出してきたドリカムの軌跡が追体験できる内容になっている。


 本作の特徴は歌詞の内容によって【LOVE(Disc1)】、【TEARS(Disc2)】、【LIFE(Disc3)】に分類されていること。そこで本稿では、この3つのカテゴリーにおける吉田美和の歌詞について論じてみたい。ご存知の通りドリカムの楽曲制作は、作曲は吉田と中村正人の共同作業で、歌詞はすべて吉田がひとりで手がけている。つまりドリカムの歌詞はそのまま、作詞家としての吉田美和の世界につながっているのだ。


 【LOVE】には「うれしい!たのしい!大好き!」「決戦は金曜日」「未来予想図II」などが収録されている。これらのハッピーな雰囲気の歌詞は、“元気、明るい、ファンキー”というドリカムの一般的なパブリックイメージに直結していると言っていいだろう。老若男女が一瞬で理解できる言葉を組み合わせ、独創的でキャッチ―なフレーズを生み出す吉田のセンスは、優れたコピーライターにも通じるものを感じる。さらに強調しておきたいのは、フロウ(歌詞とメロディの組み合わせ)の上手さ。特に中村が作曲した楽曲(「決戦は金曜日」「JET!!!―album version―」「Eyes to me」など)に顕著なのだが、細部まで詰められたメロディをまったく変えることなく、きわめて自然な日本語を乗せる技術の高さは特筆に値する。洋楽的なメロディラインとわかりやすい日本語の歌詞のマッチングこそが、ドリカムの音楽性の大きな軸であることは間違いないだろう。歌うには難易度の高い楽曲が多いにも関わらず、彼らの曲がこれだけカラオケで親しまれている理由もそんなところにあるのだと思う。


 【TEARS】には文字通り、泣ける曲、切ない曲がコンパイルされている。別れた彼からの留守番電話のメッセージをリピートしながら、どうしても諦めきれない思いを吐露する「愛してる 愛してた」、<憎んでも 忘れないでいて><嫌われてもいい 覚えていてくれるなら>というあまりにも切実な感情を綴った「忘れないで」、遠距離恋愛中、相手の男性に女性の影を感じている状況での電話のやりとりを描いた「LAT.43°N~forty-three degrees north latitude~」。これらの楽曲から伝わってくるのは、ストリーテラーとしての吉田の才能だ。主人公が置かれたシチュエーション、その奥にある物語を浮かび上がらせることで、繊細にゆれる感情を表現する手腕、そこから生まれるあまりにも哀切な楽曲は、コアなドリカムファンからも高い支持を得ている。別れた彼氏の勤務先の近くまで来てしまい、偶然を装って会おうとする女性を歌った「あなたに会いたくて」がデビュー曲だったことを考えると、こういう暗い曲、痛い曲、悲しい曲こそがドリカムの本質だと言えるかもしれない。


 「跳べ! その先へ」と鼓舞する「その先へ」、<家族の前で泣きなさい/大事な人に 大丈夫じゃないと言いなさい>というフレーズが心に残る「TRUE,BABY TRUE.」など、【LIFE】にはリスナーを根本から励ますような楽曲が収録されている。デビュー以来、“恋から愛まで”をテーマにしてきたドリカムだが、その幅が広がってきたのは2008年にリリースされた『MERRY-LIFE-GOES-ROUND』あたりからだろう。あっけらかんとした明るさを感じさせるサウンドとともに表現された“何があっても人生は続く。1日1日、生まれ変わるように生きていこう”というメッセージは、その後にリリースされた「さぁ鐘を鳴らせ」「AGAIN」などに引き継がれている。


 人生には予想もできないような悲しい出来言が起こることがある。それはどうしようもない事実だが、命が続く限り、その日その日に向き合い、全力で生きるしかない――そこには吉田美和自身の体験から導き出された人生観、死生観が強く反映されている、と思う。<10000回だめで 望みなくなっても/10001回目は 来る>という歌詞を持つ「何度でも」が2011年のワンダーランドのリクエストで1位(今回のワンダーランドの中間発表でも1位でした)を獲得するなど、これらのメッセージソングは2010年代のドリカムの大きな魅力となっている。


 四半世紀に渡って幅広い年齢層のリスナーから支持されているドリカム。今回のコンプリートベストをきっかけに“詩人”としての吉田美和にぜひ注目してほしいと思う。(森朋之)