2015年07月09日 17:41 弁護士ドットコム
覚せい剤や大麻などのドラッグ愛好家たちの会話をテーマにした書籍が「有害図書」に指定されたのは違法だとして、本の著者が茨城県を相手取って、有害図書指定の取消しを求める訴訟を起こした。その第1回口頭弁論が7月9日、水戸地方裁判所で開かれた。原告側は、審議内容や決定理由を著者に明らかにしないまま有害図書に指定するのは、「適正手続」や「表現の自由」を保障した憲法に違反しているなどと主張した。
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訴状などによると、問題になっているのは、東京在住の作家・長吉秀夫さんが自身のドラッグ体験を元に2014年4月に出版した小説『ドラッグの品格』(ビジネス社)。南ヨーロッパの安宿を舞台に、覚せい剤やLSD、大麻など薬物の愛好家たちが繰り広げる会話から、ドラッグの歴史や本質に迫るという内容だ。「大麻はドラッグではなくハーブ」という刺激的な言葉も並んでいる。
茨城県は同年12月、県の青少年健全育成条例にもとづいて、この本を「有害図書」に指定した。その理由として、(1)著しく青少年の犯罪または自殺を誘発し、またはこれを助長し、その健全な育成を妨げるおそれがある(2)著しく青少年の心身の健康を自ら害し、もしくは第三者をしてこれを害させる行為を誘発し、またはこれを助長し、その健全な育成を阻害する、と条例の文言をあげて説明している。
一方で、長吉さんによると、有害図書に指定されたのを知ったのは、出版社から連絡を受けてから。その後、茨城県に何度も説明を求めたが、納得のいく説明を得られなかったため、今年5月中旬に有害図書指定の取消しを求める訴訟を水戸地裁に起こした。
この日の法廷で、長吉さん側は「そもそも有害図書ではないので、処分を受ける理由がない」「処分の結論のみで、それを裏付ける理由の説明がまったくされていない」「適正手続が欠けている」などと主張した。
20分にも満たない口頭弁論の後、長吉さんと代理人の丸井英弘弁護士は水戸地裁前で記者たちの取材に応じた。丸井弁護士は「有害図書指定の手続が非公開で、密室的におこなわれている」と強調した。著者自身が有害図書指定の取消しを求めて提訴するのは、全国初だという。
長吉さんは「ドラッグがまん延する中、学校教育は紋切り型で、正確な情報が伝わっていない。この本はたしかに刺激的な部分もあるが、青少年とその親に一番読んでほしいと思って、非常にわかりやすく、手に取りやすいかたちで書いたのに、規制された」と出版の経緯を説明しながら、悔しさをにじませた。
長吉さんによると、有害図書に指定された本は、茨城県内の本屋などのアダルトコーナーに置かれる状況だという。「売れるわけがない。置いていないのと一緒だ」と怒りを口にしたうえで、「これほど杜撰(ずさん)で、一方的に決定されるということが問題だ」「とても怖い。こういう事実があるということを世の中に知らせたい」と訴えていた。
(弁護士ドットコムニュース)