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Charisma.comが語る、新作『OLest』と会社勤めの危機「OLコンセプトは今回が“最高で最後”かも」

2015年07月08日 20:21  リアルサウンド

リアルサウンド

Charisma.com(写真=下屋敷和文)

 エレクトロラップユニット・Charisma.comが7月8日、メジャーデビューミニアルバム『OLest』をリリースした。MCいつかの巧みなラップとDJゴンチの操るエレクトロサウンドを武器に支持を広げる彼女たちだが、普段はMCいつかが雑貨メーカーの事務、DJゴンチが精密機器メーカーの事務で働く「OL」でもある。今作『OLest』は、そのOLとしてのキャラクターをあえて前面に押し出したアルバムだ。今回行ったインタビューでは、二人の音楽的原点から、毒とユーモアが絶妙に配分されたリリックの形成過程、さらにメジャーデビュー後も会社勤めを続けるその活動スタンスまで、幅広く語ってもらった。


(参考:RHYMESTERは今のスタイルをどう掴みとったか?「やっぱり、オレらはライヴ・バンドなんだ」


・「『歌っていうよりラップだね』って言われて自覚した」(いつか)


――まずはCharisma.comが結成されるまでの経緯から聞かせてください。いつかさんはそもそもどのようにしてラップと出会ったのでしょうか?


MCいつか(以下、いつか):大学の時にバンドを組んだのが私の音楽活動の始まりで、私はボーカルをしていたんです。その時、自分では歌を歌っていたつもりだったんですけど、メンバーのドラムの子に「いっちゃん(MCいつか)のは、歌っていうよりラップだね」って言われて。そこで自覚しました。「あ、これラップか」って。


――では、それまでは自覚的にラップをやっていた意識はなく。


いつか:全然ないです。すごい歌ってる気でいました。その時は自分で曲を書いてはいなかったんですけど、与えられた曲もラップではなく歌だったんで。歌い上げてる、くらいのつもりでしたね(笑)。でも、……様子が違ったようです。そこから日本語ラップを聴くようになって。もう解散してしまったんですけど、Astroという4MC、2DJ、1トラックメイカーという編成のグループに心を奪われて。それこそサウンド的には今のCharisma.comがやりたいような方向のグループだったんです。その人たちから日本語ラップを掘っていくようになりました。


――ゴンチさんと二人でやることになったいきさつは?


いつか:最初は、シンガーの女の子と私の二人組で活動していたんです。ここに女の子のDJとか入ったら絵的に面白そうだねってなって。その時に、ゴンチは全然DJではなかったんですけど、……時間がすごくありそうだったから(笑)。かつ、ゴンチのお兄ちゃんがDJだったんですよ。だから機材が家にある、これはいいと思って声をかけました。


――もともとDJではなかったゴンチさんは、誘われた時にどんな反応を?


DJゴンチ(以下、ゴンチ):「楽しそう!」みたいな(笑)。もともと中学・高校と部活が一緒で。その部活のノリみたいなので、「やるやる!OK!」みたいな感じで返事しました。


いつか:その三人のグループが解散した後、別のシンガーの女の子を入れたんです。だから本当は、Charisma.comは三人組だったんですよ。でも、そのシンガーの子が留学でイギリスに行っちゃって二人になったんで、じゃあまあこれで行こうか、と。それで現在に至る感じです。


――Charisma.comは1MC+1DJというスタイルですが、ヒップホップ畑に寄っていくという感じでもないように見えます。ご自身の中で、Charisma.comがどのジャンルだという位置づけはされていますか?


いつか:全然、意識してないです。「ポップス」だとは思ってます。でも、あんまりジャンルにこだわりがなくて。これまでも、格好いいと思うものだけを聴いてきたという感じで。しかも聴いてきた幅が、すごい狭いんですよ。「この曲が好きだ」ってなったら、もう一週間毎日、その曲をずっと20回くらい再生するみたいな。


――聴いてきた音楽はお二人とも全然違いましたか?


いつか:中学・高校の頃は一緒でした。聴いてたのは、「ヒットチャート」ですね。


ゴンチ:カラオケで歌う曲、みたいな。


いつか:カラオケでは小柳ゆきさんとか、MISIAさんとか。ディーヴァ系の曲を、自分では歌えてると思って歌い続けてました。


――その頃はもう、ヒットチャートにラップを取り入れた曲も入ってきている時期ですよね。カラオケでラップの曲を歌ったりはしていたのでしょうか。


いつか:それは全然ありました。友達とカラオケに行った時に、ラップパートだけ早送りされちゃうのがもったいないなと思ってて。そのラップパートを重点的に歌ったりしてましたね。BENNIE KさんとかSOULHEADさんとか、途中でラップが入る曲のラップパートを力強く歌ってました(笑)。


ゴンチ:もう、マイクはいっちゃん(MCいつか)に渡す感じでした。ラップの部分は誰も歌わないんですよね、やっぱ。歌う人っていったら、いっちゃんって感じで。なので、ラップを始めたと聞いても、別にびっくりしなかったのは覚えてます。


・「Charisma.comでの私は『格好つけてるね』って言われた」(いつか)


――Charisma.comの作品について伺います。Charisma.comのリリックは毒のある詞と紹介されることも多いですが、単なる毒舌ではなく「お手柄マフィア」「生意気ハンティング」(「お局ロック」より)など、語句の組み合わせ方に独特の個性があります。そのスタイルはどのように生まれたのでしょう。


いつか:そういう言葉を作る部分は、バンドをやっていた時に影響を受けたんだと思います。ギターの子が全部作詞作曲をしてたんですけど、歌詞がまったく意味わからなくて。「これ、意味解からなくて全然覚えられないんですけど」って言ったら、「いや、意味があるんだよ」って喧嘩になったり。「横浜ソース」とかそういうタイトルの難解な詞で。でも、読んでみて歌ってみたら、(そういえばわかるかも……)となっていって衝撃を受けたんですね。そういうのが今の自分の歌詞につながっている気がします。


――誰かに毒を浴びせるような詞のテーマも、書き始めた頃からあったものですか?


いつか:最初の頃は違いました。Charisma.comの前のグループでは、愛だの恋だの言ってましたね。私はCharisma.comを始めるちょっと前くらいから、メリヤス♀という名前でソロ活動をしていて、メリヤス♀の時に日本語ラップやヒップホップの方々と曲を作る機会を与えてもらったんです。「この野郎」って思うことに対して歌詞を書くというのは、その時に受けた影響があると思います。


――メリヤス♀名義で出されている楽曲も詞のモチーフは今につながっていますが、Charisma.comの方がより具体的にテーマが絞られている印象です。メリヤス♀とCharisma.comとで、作風を使い分けるという意識はありますか?


いつか:最初の頃は全然なかったんです。それこそサウンド面の話だけで、ヒップホップ的なトラックに乗せるのがメリヤス♀、四つ打ちのバキバキしたサウンドに乗せるのがCharisma.comと考えてやっていました。ただ、Charisma.comを知っていただくにあたって、「わかりやすい方がいいよね」という意見をいただくことも多かったですし、自然にそういう立ち位置になっていった感じがあります。Charisma.comではより明確に、という意識はありますね。


――毒のある詞に対してCharisma.comのトラックはポップなものが多いと思いますが、そのコントラストは意識的につけているのでしょうか。


いつか:そうですね。ちょっといなたい感じのゆっくりしたトラック、黒いズブズブしてるようなトラックは、Charisma.comでは選ばないようにしています。


――もともとメリヤス♀の方は、どのような意識で活動をされていたんでしょう?


いつか:メリヤス♀では、とりあえずスキルを磨きたかったんです。その世界に憧れがあったから。あと、単純に嬉しかったんですよね、そういうかっこいい人たちと音楽が作れるっていうのが。特に意識してなかったですけど、メリヤス♀では私の素の部分が一番出てる気がします。Charisma.comだとちょっと誇張したり、本当にわかりやすいように毒を吐くみたいなのを意識してる感じです。


――今のCharisma.comをヒップホップシーンの人たちに、こんなふうに聴いてもらえたらということは考えますか?


いつか:そんなに考えてないですね。格好いいなとか、良いねって言っていただけたらすごい嬉しいですけど。……きっと好きじゃないと思う。でも、Charisma.comでの私は「格好つけてるね」って言われたことがあります(笑)。「普段のいつかちゃんじゃないよね。メリヤス♀の方が普段だよね」って。確かにそうだよなって。格好つけてると思います。格好つけようと思ってやってるし。


――原点にはいわゆるヒットチャートを聴いてきたという経験があるわけですが、Charisma.comの音楽を届けたい場というのはどこでしょう?


いつか:今はヒットチャートと言っても、性質が違うじゃないですか。私たちがチャートをみて「この曲いいね」って言ってた時代と違うから、そこを目指してるというとちょっと違う気がするんですけど。でも、お父さんとかお母さん、おじいちゃんとかおばあちゃんの世代にも認知されると嬉しいなと思います。


――お二人のご家族は、Charisma.comの曲は聴かれるんですか?


いつか:うちはお父さんがすごい熱心で。「今回の作品は、最初あんまりだと思ったんだよな」とか言われますね(笑)。「やっちゃったなーと思ったんだよ、俺。でも何回も聴くといいな」とか言われますね。失礼だよ!って。


ゴンチ:うちも、お父さんもお母さんも聴いてくれてます。こないだ親の車を借りた時に、エンジンをかけたらCharisma.comのCDが入ってて、いきなり爆音で流れたのがちょっと恥ずかしかった(笑)。「こんがらガール」が好きだってお父さんは言ってました。


いつか:曲を作ると一番最初に、それこそゴンチよりも先にうちの妹に聴かせるんです。妹はEXILEさんとか、全然違うジャンルが好きで。そういう人がCharisma.comを聴いた時にどういう反応なのかなっていう指針になるんです、妹が。


――それこそポップスとして広いフィールドに向けた時の反応を見る。


いつか:そうです。「これはあんまりじゃない?」とか、普通に言われます。「全然良くない!」「……まあまあ、だね」とか。メリヤス♀のことはすごい嫌いですよ、妹は(笑)。「こういうの好きじゃないんだよ!」とかいって、全然聴いてくれないです。


・「『働いてます』よりも『OLです』って言ったほうがインパクトが強い」(ゴンチ)


――今回リリースされた『OLest』は、トータルイメージとして「OL」をこれまで以上に強く打ち出していますね。


いつか:OLであることが売りになるとは思ってなかったんです、最初は。それこそ、他で働きながら音楽をされてる方はいっぱいいますし。


――メリヤス♀でも「OL」モチーフのリリックは書かれてますよね。


いつか:むしろメリヤス♀の方が先でした、働いてましたし。ただ、Charisma.comでは「二人ともOL」っていうところが世間的にキャッチーっぽいというのを、去年までですごく感じたんです。音楽よりも「OLである」ということについて、インタビューやラジオなどでも聞いていただくことが多くて。それってつまり、そこが注目されているんだなと。そこをフィーチャーしてもらったので、今回はその流れに乗らせていただこうということで、全部OLを連想させる曲を作りました。


ゴンチ:たぶん、普通に「働いてます」って言うより「OLです」って言ったほうが、インパクトが強いのかなって。音楽やりつつ働いてる人はたくさんいるじゃないですか。でも「OLです」って言う人たちがあんまりいないのかな。私たちが「OL」っていうのが、耳に響きやすかったのかなと思います。


――その方向を強く打ち出すことに違和感はなかったですか?


いつか:うーん、これといってOLであることにこだわりがあるわけでもなく、ないわけでもないので。そういう流れを組んでいただいたのなら、乗ってみるのもありかなっていう。それでCharisma.comが広がるんだったら、全然押し出していきますという感じです。


――『OLest』のリード曲「お局ロック」や「こんがらガール」などはオフィスをモチーフにした攻撃型の楽曲ですが、そればかりでなく「アラサードリーミン」のように優しく寄り添うタイプの楽曲もあります。このバランスもはじめから考えていたことですか?


いつか:あまり意識はしてないんですけど、やっぱり全部聞いて最終的に「わかる!イライラする!まだイライラする!」って、イライラが残る作品は嫌だなと。イライラはするけど、客観的に見たら全部ギャグだよねみたいな。結果、それも充実してるじゃん、面白いよねって思えるようなアルバムだといいなと思ってたので。あと、まあ7曲に1曲くらいは優しい気持ちになります(笑)。「やりすぎた!」みたいな。


――攻撃的なリリックの中にも、「軽くコマネチで紛らわす」(「こんがらガール」より)のようなユニークな描写がありますね。まさに今言っていた「ギャグだよね」という、攻撃性が嫌味にならない絶妙な空気が生まれているように思います。


いつか:まあ、怒るっていうのはすごい疲れるじゃないですか。だから、ちょっとふざけたいみたいな気持ちはあります。


――また、目上の人に対して刺すようなリリックもあれば、一方でそういう目上の人に対して「大変だよね、わかるよ」みたいな目線のものもあります。


いつか:歳とったなって思いました、自分で。目上の人に対して、「何だこの野郎」って思えなくなってきてる。この人にはこういう考えがあって、だからこういうことを言ったりするんだよねー……(笑)、っていうのが見えてきて。じゃあ今度、自分より下の子にはどうやって伝えてあげたらいいんだろうな。同じやり方で自分がやられたようにやると反発される。私も反発をしていたから。でも言わなきゃいけないことはちゃんと伝えなきゃいけないし、みたいな。なんとも言えない状況ですね、今。


――では歳を重ねて、Charisma.comが多くの人に聴かれることで、考え方が変わったり書くものが変わったりということはありますか?


いつか:それはないですね。内容が変わることは今のところない。ただ、やっぱりいろんな方にサポートしていただいていて、半端な気持ちじゃやれないっていうのがあるので、結果をちゃんと出さなきゃなと思っているので。内容は同じであったにせよ、多くの人に聞いてもらえるような、わかりやすいものであった方がいいなと今は思っています。


――トラックは四つ打ちのポップなものが印象的ですが、トラックが変わっていくという可能性は?


いつか:それはあります、大いに。全然もう、四つ打ちも飽きてきてますね、なんと(笑)。これからはニュージャックスウィング的なのとかやってみたいですよね。ディスコ!みたいなのとかもやりたいし。いろいろ挑戦してみたいですね。


――ライブやMVでは、ダンスを含めてパフォーマンスで絵面を華やかにするということを意識されているように見えます。


いつか:意識してますね。サウンドがすごいバキバキしてたりテンポが速かったりしてるのに、棒立ちで突っ立って歌ってるのを見て誰が楽しいんだと思ってるので。動いたりというのは、できる限りするようにしてます。


――「HATE」のMVでは黒いシルエットのダンサー、「イイナヅケブルー」MVでは合唱団、今回の『OLest』収録の「お局ロック」ではスーツのビジネスマンというように、趣向を変えつつダンサーとのパフォーマンスが続いています。これはお二人のアイデアとして常にあるものですか?


いつか:ダンサーさんとやりたいとは常に思ってます。できればライブでもやりたいですね。今年、『TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2015』に出させていただいた時に、12人のダンサーに一緒にステージに立ってもらってパフォーマンスすることができました。「イイナヅケブルー」の時の合唱団は、監督の発案ですね。「HATE」と「お局ロック」はちょいちょいこちらからイメージを伝えさせてもらいながら作りました。三作品とも振付は違うんですけど、ダンスの監修は黄帝心仙人さんにお願いしています。


――ビジュアル面でいえば、今回は衣装もOLコンセプトが強いですね。


いつか:そうです。『ショムニ』を意識しております。


――そのコンセプトは『OLest』以降も続きそうですか?


いつか:いや、もう、すぐやめちゃいます(笑)。すぐ気分変わっちゃうんで。OLコンセプトは今回が「最高で最後」くらいの意識で全面的に出しました。この先は「こないだと全然違うじゃん」みたいなものを、いろいろやっていきたいんですよね。それが通るかはわからないですけど。


・「最近はちょっと仕事に支障が……」(ゴンチ)


――メジャーデビュー後も、会社勤めは継続されるということですが、その活動スタンスはお二人の中で自然なものなのでしょうか?


いつか:いや、正直今もギリギリです。会社も仕事でやっている限りは責任が取れなくなったらもう居られないっていう意識があるので。なんとも言えないですね。できる限りっていう。


――そのことについてお二人の間で相談したりしますか?


いつか:全然しないです。それぞれ別の会社なので。どっちかっていうと会社の社長に相談しますね。次は7月にアルバムが出る予定です、とか。最近は向こうから聞かれますね。「じゃあ、いつ忙しくなるんだね」とか。好きなことをやっている方がなんか面白いじゃんっていう感じの社長なんですよね。ハワイの会社なんですけど、私以外の人はみんなフラダンスをやっていて、趣味だけれども本気レベルが高い感じで。それを会社が理解している、みたいなところなので。


――ゴンチさんの方も理解してもらっている感じですか?


ゴンチ:そうですね。幸い私は9時~17時であんまり残業とかない職種だったので。夕方以降は活動できる時間はあったので、その範囲でやってれば全然何も言わない感じだったんですけど。まあ最近はちょっと支障が……。迷惑かかっちゃってるなと、ちょっと申し訳ない気持ちでいっぱいなんですけど。


いつか:クビって言われちゃうかもしれないし。「ちょっとちょっと」って呼ばれたらもう終わりです。


――OLであることは、音楽活動を続ける上ではアイデンティティとしてすごく大きなものではない?


いつか:まあ今、大きいものではないって言ったら嘘ですけど、すごいこだわっているわけではないです。そもそも、別物だと思って始めているので。


――Charisma.comとして、この先の長期的なビジョンは考えたりしますか?


いつか:ビジョンはないんですよね、あんまり。今までもそうやって、ビジョンが見えずに来ちゃってるんで。ただ、とりあえず全力でやりたいなって常に思ってますけど。先を変に読んだりすると、「ダサくなった」とか言われる世の中じゃないですか。結果、何も考えてない時が一番格好よかったとか言われると、それはそれで腹立ちますし。なので、……ちゃんと考えながら、でもふざけていたいですね。(香月孝史)