「事故の瞬間は我々も『えーっ!!』と少しパニックになったほど、状況が飲み込めなかった」
ホンダの新井康久総責任者が、そう言うほどの激しい多重クラッシュがイギリスGPのスタート直後に発生した。
原因を作ったのは、10番グリッドからスタートで出遅れたダニエル・リカルドだ。ポジションを挽回しようと、3コーナーでロマン・グロージャンのインに飛び込んで接触。その勢いでグロージャンがマーカス・エリクソンとパストール・マルドナドに玉突き衝突。その直後を走行していたのが、フェルナンド・アロンソだった。3台を避けようとしたアロンソは、とっさに右へステアリングを切り、ハーフスピン。そこに後方からジェンソン・バトンが接近。バトンのサイドポンツーンにノーズから突っ込むような形で、マクラーレン・ホンダの2台が絡んでしまった。
「ジェンソンのほうは(マシンの機能が)シャットダウンしてしまい、リタイア。ノーズとフロントウイングにダメージを負ったフェルナンドは、ピットインしてノーズごとフロントウイングを交換。あのような激しい事故だったにもかかわらず、ノーズ交換だけでレースに復帰できたのは不幸中の幸いだった」と、新井総責任者。
この事故で、バトンは地元グランプリを失ったが、コースに復帰したアロンソは最後尾に落ちたものの、チームの地元レースを続行することができた。そして、徐々にポジションを上げていく。
レース中盤から降り出した雨にも助けられた。アロンソの前で10番手を走行していたエリクソンが降ったりやんだりを繰り返した空模様に翻弄されて5周の間に2度ピットイン。約30秒ほど後方にいたアロンソが逆転に成功し、10位でチェッカーフラッグを受けた。
チームとしては第6戦モナコGP以来の入賞。アロンソにとってはマクラーレン復帰後、初入賞となった。
「ライバル勢の脱落や他チームの戦略ミスにも助けられたところはありますが、レースは完走することが大切だということを認識した一戦でした。リタイアしてしまったら、ポイントは取れない。たとえ後方からのスタートでもきちんと走っていれば、ポジションを上げていくチャンスはある。今日はチームがしっかりとレースマネージメントをしてくれました。セッティングができていなかったのでレースでも厳しい戦いになったが、ポイントを獲得できたことを素直に喜びたい」
そう言って、少しだけ安堵の表情を浮かべた新井総責任者だが、直後に厳しい眼差しで次のように語った。
「今後は、もっとパフォーマンスを上げて自力でポイントを取りたい。そのためにはトークンを使ってアップデートし、パフォーマンスを上げていかなければならない」
アロンソが粘り強く走って手にした、この1点が巻き返しのきっかけとなるのか。3週間後のハンガリーGPでのパフォーマンスを注視したい。
(尾張正博)