イギリスGP決勝。終わってみれば“いつもと同じ”メルセデスAMGのワンツーでしたが、実に色々なことがありました。そして、その勝負所は3つ。“スタート”、“ピット戦略”、そして“雨”でした。
まず最初の勝負所となった“スタート”。フロントロウを独占したメルセデスAMGがそのままポジションをキープして1コーナーに飛び込む……と思いきや、セカンドロウにつけたウイリアムズが抜群のスタートを見せ、驚くべき急加速。あっという間にフェリペ・マッサが先頭を奪い、バルテリ・ボッタスが2番手に上がりました。つい声を上げてしまったというマッサとボッタスのファンも多かったことではないでしょうか? 奇襲をかけられる形となってしまったメルセデスAMGのルイス・ハミルトンは、1周目になんとかボッタスを抜き返しますが、スタート直後の1コーナーで発生したクラッシュの影響で出動したセーフティカー明けの際、トップを行くマッサを攻略しようとして失敗、ふたたびボッタスに先行を許してしまい、3番手に下がってしまいます。
コース上のウイリアムズFW37は直線スピードに優れ、いくら最高性能を誇るメルセデスW06をもってしても簡単には抜くことができません。しかも今回のウイリアムズはレースペースも良く、ハイペースで走行。2台のウイリアムズ、そしてハミルトンとニコ・ロズベルグの4台は、5番手以下をみるみるうちに引き離していきます。
こうなってしまうと、ハミルトンがウイリアムズを抜くためには、ピット戦略を上手く行うしか手はありません。しかも今回は、戦前から1ストップが主流と言われており、そのチャンスは1回きり。1回ということは、失敗はもちろん許されませんし、その際に交換するハードタイヤで、チェッカーまで走り切らねばならないということを意味します。つまり、ハードタイヤの寿命ギリギリの周回数を残してピットに入り、コースに復帰したら飛ばしに飛ばし、新品タイヤのメリットを活かしてライバルの前に出る……ということを成功させなければならないわけです。
ハミルトンはこれを、19周目に実行します。上位4台の中でいち早くピットに入り、素早くハードタイヤに交換。翌周にマッサとロズベルグもピットインしますが、彼らがコースに復帰した際、ハミルトンは約3秒先行していました。タイヤを交換してコースに復帰した周(アウトラップ)のハミルトンのラップタイムは1分56秒349。一方、マッサとロズベルグのアウトラップのタイムは1分58秒台であり、ハミルトンは新しいタイヤを履いたことによるラップタイムの向上と共に、ここで約2秒稼ぐことができたため、このピットストップで大きなリードを築くことができ、勝利をグッと手繰り寄せることになったわけです。
一方、この時に対抗策を取ることができなかったのがウイリアムズです。ハミルトンがピットに入る周の中盤、ハミルトンへの「BOX!」という無線が国際映像でも流されました。ウイリアムズのピットも、この無線は聞いていたはず。ならばマッサかボッタスのどちらかをハミルトンと同時にピットインさせ、ハミルトンの前を抑えることを狙うべきでした。シルバーストンはモナコほどではないものの、コース上でのオーバーテイクは難しいコース。それならば、コース上でのポジション重視は鉄則です。それができなかったというのは、後に雨で失速することになるとはいえ、ウイリアムズの最大の失策だったという他ありません。
ところで、ボッタスより1周早くピットインしたロズベルグは、なぜボッタスの前に出ることができなかったのでしょうか? これは、アウトラップのペースをマッサに抑えられたからだと推測できます。前述したとおり、ロズベルグのアウトラップは1分58秒台。新品タイヤのメリットを活かせていなかったと言えます。そのために、ボッタスの前に立つことができなかったわけです。
ピットストップ終了後、ハミルトン、マッサ、ボッタス、ロズベルグの順でレースは進行していき、そして35周目頃から雨が降り出すこととなります。これが、今回の勝負を決した、最大のポイントとなりました。
35周目に雨は降り出したものの、それほど強くならず、各車はしばらくドライタイヤでの走行を続けます。しかし、ウイリアムズのペースはガクリと落ち、ロズベルグはマッサとボッタスを軽々とオーバーテイクし、難なく2番手へと浮上します。ウイリアムズのマシンは昨年から、ウエットコンディションを極端に嫌うという傾向があり、今年もその特性は引き継いでしまっているようです。FW37はダウンフォースが少ないと言われていて、車体を路面に押し付ける力が小さい。それが、ウエットコンディションの際には顕著に現れるのでしょう。
そして43周目、先頭を行くハミルトンがいち早くピットインしてインターミディエイトタイヤに交換することを選択。ロズベルグ、マッサ、ボッタスはステイアウトします。彼らも翌周にインターミディエイトタイヤを装着しますが、コースに復帰した際の順位はハミルトン、ロズベルグ、セバスチャン・ベッテル、マッサ、ボッタスの順に変わってしまっていました。38周目にボッタスの18秒も後方にいたベッテルが、いきなり3番手に上がっていたのです。
ベッテルはハミルトンと同じ43周目にピットインしています。このピットインした43周目から45周目までのベッテルのラップタイムの合計は、5分47秒5でした。これはハミルトンの5分43秒5やロズベルグの5分48秒9とほぼ同じと言っていいでしょう。しかし、マッサは6分2秒3、ボッタスにいたっては6分14秒5もかかっていました。つまりウイリアムズの2台は、ベッテルから15~27秒も遅かったということ。これで一気に逆転となったのです。ウイリアムズはピットインのタイミングが遅れたのもさることながら、それだけウエットコンディションを苦手としているということが、よく分かる一例です。
ところで、ハミルトンとベッテルの、インターミディエイトタイヤへの交換タイミングは、まさに絶妙でした。前の周では早すぎたし、次の周では遅かった。その上、彼らがピットインした43周目、ライバルたちも含めてセクター2まではペースは落ちておらず、むしろ前の周より速いくらいです。しかしおそらく、彼らがセクター3走行中に雨の量が増したのでしょう。ベッテルは「チャペルの立ち上がりで雨が強くなっているのに気付いた」と語っています。チャペルとは、ちょうどセクター2が終わり、セクター3に入る箇所。データでもそれが確認でき、ロズベルグは前の周より3秒、マッサは5秒、ボッタスは6秒もセクター3の通過タイムが落ちていました。
ハミルトンは「雨がもっと降ると分かった」と話し、ロズベルグは「ルイスは判断を誤ったと思い、喜んだ」と言っています。そのくらい、微妙な判断が求められる状況だったのでしょう。しかし瞬時に判断し、ピットインする……。ハミルトンとベッテルが、“さすが複数回のチャンピオン経験者”という判断力を見せつけた結果だと言えると思います。
前回のオーストリアGPで、抜群の集中力を見せて勝利を手にしたロズベルグ。今回のハミルトンも、それに勝るとも劣らない高い集中力で、前を行くマシンを捉え、コースのコンディションを見極め、勝利に繋げました。初日、ハミルトンのマシンはセッティングを大きく外してしまったため、「途方に暮れた」という発言もありました。それでも気持ちを切らさず、ポールポジション→勝利に繋げた精神力は素晴らしいものでした。一方ロズベルグは、スタートで4番手に落ちたものの2番手までリカバリー。失うポイントを最小限にとどめたのは、チャンピオン争いに向けて大きかったと言えるでしょう。
ところで、心配なのはフェラーリです。フェラーリは予選でウイリアムズに先行されてしまったばかりか、決勝でもまったくついていくことができませんでした。さらに、上位に引き離されてしまっただけでなく、レッドブルやフォース・インディアに詰め寄られてしまっている印象があります。今回の表彰台は、終盤の雨に救われただけのもの。ドライでのペースを取り戻さなければ、ウイリアムズにランキングで逆転されてしまう可能性もあります。
メルセデスAMGの優位は揺るぎませんが、その後方の勢力図が大きく変わった感もあるイギリスGP。次のレースは3週間後、前半戦の締めくくりとなる、ハンガリーGPです。超低速のハンガロリンクは、今回のシルバーストン・サーキットとは、コース特性が大きく異なります。さて、勢力図はどうなるのでしょうか?
(F1速報)