これまでサラリーマンの間でタブー視されてきた副業を、積極的に推奨している会社がある。2015年7月1日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)は、人手不足のなか、副業を新たな考え方で事業に生かす企業を取材していた。
東京・渋谷でネットショッピング事業などを行うエンファクトリーは、「専業禁止」を掲げ業績アップにつなげている。就業時間内の副業も自由で、副業の打ち合わせで堂々と外出もできる。社長の加藤健太郎さんは、推奨の理由をこう語る。
「経営者意識が養われる。コストがかからず人材が育つ。下手な研修をやるよりよっぽど効果的です」
残業時間が2割削減。会社も業績右肩上がり
守るべきルールは、ただひとつ。それは「オープンにする」ことだ。半年に一度、社外の人も招いた副業セミナーで自分の副業の成果をすべて報告しなくてはならない。
発表に立った山崎俊彦さんは、去年から手作りの服やグッズを「はなペチャ家」というサイトで販売している。デザインと制作を担当するのは奥さんで、モデルは飼い犬である3歳のパグの次郎だ。
「非常によく売れている」と話す山崎さんは、個人事業だが法人化したいと展望を明かした。さらに意外な効果についても語る。
「副業をやっていなかったときは、どうしてもだらだらと残業していた。今はしっかりと時間内に終わらせる形にして、残業時間を20%削減した」
副業を推奨してから社員の残業が半分になり、業績も右肩上がりだ。このセミナー自体も勉強会という硬い雰囲気ではなく、発表後は立食パーティーでアルコールも振る舞われる。招かれた他企業の労務・人材開発担当も、この取り組みに注目していた。
「ひと言でいうと、エネルギッシュ。タコツボ化しがちなエネルギーが、外を知ることでものすごく輝いていく」(東京電力・労務人事部の西村さん)
「話を聞いて、副業をキャリア開発の(ツールの)一つにできると思いました」(ヤフー・人材開発本部の斎藤さん)
「複業」容認で地方のエンジニア発掘
働く人側からも多様な働き方のニーズがあり、これに応えた新しいサービスも生まれている。求人サイトのパラフトは「副業OK」「時短」などの条件を満たす案件を集め、アイコンで表示している。
IT企業ダンクソフトで新規事業を担当する中村龍太さんは、このサイトに求人募集の相談をしていた。東京で奪い合いが起きるほど不足するITエンジニア確保のため、副業を希望する地方の人材に目を向けた。地方に埋もれた副業希望の即戦力を掘り起し、成長につなげようとする戦略だ。
実は中村さん自身が3つの仕事をかけ持つ「複業(パラレルワーク)」を行っており、誰よりもニーズを理解していた。中村さんは、これから労働人口の減少が進む中で、自分のライフスタイルに合った働き方を求める動きは高まっていくとみている。
サイトを訪れてみると「こんな方がパラフトには最適です」という説明書きには、これまでの「専業・正社員・長時間労働・終身雇用」のパラダイムから外れた働き方が列挙されている。
「家事や育児でコアタイムしか働けない経験豊富な主婦/主夫」
「親の介護でフレキシブルな働き方を望むハイスキルな方」
「自分のプロダクトも並行して続けたい実績あるエンジニア・デザイナー」
「NPO等社会貢献の時間も継続したい、自立したマーケター」
「勉強したい分野があって学校に通っていて両立したい方」
「研究・開発しながら働きたい専門性の高い方」
中には「すべてを犠牲にしてでも仕事を頑張るぜ! というタイプではない方がいいです」とまで言い切る求人会社も。同社社長の中川亮氏は、番組で「仕事の内容よりもどうやって働くかを意識する人が増えてきています」とトレンドを説明していた。
ポテンシャルが高い優秀な人材には向くのかも
番組からは、副業と本業を両立している人たちは、それ相応の能力をもつ優秀な人材であることが見て取れた。もともとポテンシャルがあり、副業によりどんどんスキルアップしてきた経緯もあるのだろう。
業種にもよるだろうが、これまで禁止されてきた副業は、かえって企業のためになる場合もありそうだ。デメリットやできない理由を挙げることは簡単だが、高齢化や少子化が進む中で働く人たちから多様な働き方を求める声は高まるだろう。(ライター:okei)
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