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給与遅配で「全員退社」ラジオ放送できず・・・「やむを得ない事由」があったのか?

2015年07月05日 14:01  弁護士ドットコム

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三重県鈴鹿市のコミュニティFM「鈴鹿ヴォイスエフエム」で6月20日、全従業員8人が「退職願」を出したために、生放送ができなくなるという珍事がおこった。


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報道によると、FMの従業員は給料日の19日に給与振り込みがなかったという理由で、その日中に退職届を出したのだという。従業員が一斉に退職願を出すという方法が功を奏したのか、会社は22日に給与の支払いをしたそうだ。



給料日の当日中に振り込みがないことが、生活にかかわる一大事となる従業員もいるだろう。一方で、従業員がそろって退職願を出すという事態は、会社にとっては大打撃。一般論として、「給与遅配」がおきた場合、従業員はどのように対応すればよいのだろうか。土井浩之弁護士に聞いた。



●「やむを得ない理由」がない場合は、損害賠償の可能性も


「労使関係しだいで、答えは変わってきます。それまで関係が良好だった場合、従業員はまず、会社側に対して、『なぜ遅配が起きたか』という理由と『いつ支払うことができるか』という見通しの説明を求めるべきでしょう。



このとき、会社側に誠意がなければ、労働基準監督署や、地域の労働者が加入できる労働組合に相談に行くことも必要になるでしょう」



今回のケースは、遅配の当日に退職願を出しているというから、労使の関係が良くなかったのかもしれない。



「そうですね。それまで良好であったなら、8人もの労働者が、遅配のあったその日のうちに退職するということは考えにくいです。給料の遅配以外にも、退職の『やむを得ない事由』があったのでしょう」



もし、特に理由がなかった場合、引継ぎもしないで辞める行為は、損害賠償の対象となるだろうか。



「退職をすることの『やむを得ない事由』がないのであれば、勝手に退職することは債務不履行として、損害賠償請求の対象となる可能性があります。もちろん、その内容は、雇用期間の長さ、定めの有無によって多少異なります。



ただ、実際に損害賠償請求の可否が裁判で争われたということはそう多くないようです。むしろ、辞めたいといっても辞めさせてもらえないという相談が多いのが現状です。



辞めさせてもらえない場合、そのまま勤務を続けることが心身の不調を生む危険もあります。弁護士に相談するなど、専門家の意見を聞くことをお勧めします」



土井弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
土井 浩之(どい・ひろゆき)弁護士
過労死弁護団に所属し、過労死等労災事件に注力。現在は、さらに自死問題や、離婚に伴う子どもの権利の問題にも、裁判所の内外で取り組む。東北学院大学法科大学院非常勤講師(労働法特論ほか)。
事務所名:土井法律事務所
事務所URL:http://heartland.geocities.jp/doi709/