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Salyu、初の台湾公演で大喝采浴びるーーリリイ・シュシュ曲も披露し、10年の活動を総括する内容に

2015年07月04日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

「Salyu Live 2015 IN TAIWAN」レポート

 6月19日に全国ツアーのファイナルを終えたばかりのSalyuが、初の台湾公演「Salyu Live 2015 IN TAIWAN」を開催した。東京NHKホールでのツアーファイナルでは、最新アルバム『Android & Human Being』を収録曲順に完全再現するライブを展開したが、本公演はより生々しく、ストレートにボーカリストSalyuの原点を感じさせるものだった。


 いまやおなじみとなった「SCAT」「共鳴」で幕を開けたライブ。ブレスひとつ聴き逃すまいと観客が耳を澄ませる、緊張感のある立ち上がりだったが、その直後、「Salyuです。ニーハオ!」とのMCに、会場は大きな拍手と歓声に包まれる。プロデュースワークのみならず、ピアニストとしてもSalyuの歌を支え、台湾でもリスペクトされている小林武史が紹介されると、さらに大きな拍手が送られた。


 観客の多くは、Salyuと小林の出会いの作品となった、映画『リリイ・シュシュのすべて』をよく知っているようだ。同作の制作に参加していた小林が、オーディションで出会ったSalyuを物語のカギを握るシンガーソングライター「リリイ・シュシュ」として起用。そこからSalyuのアーティストとしての活動が始まった。同作は台湾にも熱心なファンを抱えており、それだけにSalyuと小林によるステージは待望されていたのだろう。Salyuが「私はリリイ・シュシュという歌手の役でデビューしました。ここからは『リリイ・シュシュのすべて』の楽曲を何曲か披露したいと思います」と語ると、大きな歓声が上がった。


 そこでまず披露されたのは「エロティック」。原曲はサイケな雰囲気も感じるバンドサウンドとSalyuの儚げなボーカルが特徴だが、本公演ではSalyuの歌と小林武史のピアノだけのいわゆる“ミニマ編成”で、観客を楽曲の世界観に引き込んでいく。「飽和」「飛べない鳥」と続き、映画のラストシーンでも流れた「回復する傷」では、Salyuの突き抜けるようなボーカリゼーションと小林のドラマチックなピアノが際立ち、圧倒されたように耳を傾ける観客の姿があった。


 1stシングルの「VALON-1」や、最新アルバム『Android & Human Being』から「THE RAIN」も披露され、「Lily Chou-Chou」名義の楽曲も合わせて、デビューから10年のSalyuの軌跡を振り返ることができるようなセットリストになっていた、今回の台湾公演。初めてSalyuのライブに訪れるファンへの配慮もあるだろうが、いずれの楽曲も時間的な古さをまったく感じさせない。オールタイム・ベスト的な選曲であることで、Salyuが精緻に構成された質の高い音楽を続けてきたことを再認識させられる。


 ライブ前半では、2011年に発生した東日本大震災で台湾から受けた支援への感謝を述べ、震災後に作られた「悲しみを越えていく色」も披露。ステージ後方の映像に映し出された歌詞を追いながら、熱心に聴き入る観客の姿からは、国境を超えて感動を生み出す“歌の力”が伝わってきた。そしてラストでは、前向きな祈りと希望が込められた「アイニユケル」を歌い上げたSalyu。〈想いの始まりが 空に刺さっていく〉というフレーズが、この公演を実現させたSalyuと小林武史、そして満員のファンの思いをつないでいるように感じられた。


 ライブの前週には、これまでの全オリジナルアルバムとベストアルバムの台湾版作品がリリースされている。終演後、作品の購入者を対象にしたサイン会が行われ、ファンが長蛇の列を作っていた。会場となったATT SHOW BOXは、台湾一の商業地区「信義エリア」のATT 4 FUNという商業施設内にある。普段は20代前半の若者たちであふれる場所だが、当日はいつになく幅広い年齢層の人々の姿が見られた。それが、Salyuというアーティストの懐の広さと、初の台湾公演への注目度の高さを物語っていたのかもしれない。


 Salyuにとっても小林武史にとっても、このライブは10年の活動を総括しつつ、海外のファンとの交流という新たな刺激を得るものであったはずだ。11年目を迎えた2人の音楽がこれからどのような音楽を紡ぎ、どれほど遠くまでそれを響かせていくのか、期待が高まる台湾公演だった。


(文=高木智史/撮影=洲脇理恵(MAXPHOTO))