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タワレコ主催イベント『Bowline』が目指す“繋がり”とは?「なかった線が見えてシーンになっていく」

2015年07月03日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

左から、池谷航氏、大幡英俊氏。

 タワーレコードが主催するライブイベント『Bowline』が、9月26日・9月27日に幕張メッセで、10月12日にZeppなんば大阪で開催される。


 毎回一組のアーティストが“キュレーター”となり、ラインナップの選定やイベント企画も含めてタワーレコードと共同と作り上げていくのが、この『Bowline』の最大の特徴。9月26日はDragon Ash、27日はクリープハイプ、10月12日はHEY-SMITHが、それぞれキュレーターをつとめる。


 怒髪天・増子直純、10-FEET・TAKUMA、G-FREAK FACTORY・茂木洋晃の三名に語ってもらった前回の鼎談でもテーマになったように、昨今では様々なフェスが乱立し、アーティスト自身がフェスを開催することも増えてきた(参考:怒髪天・増子 × 10-FEET・TAKUMA × G-FREAK FACTORY・茂木、これからのフェス文化を語る)。そんな中『Bowline』の狙いはどこにあるのか。タワーレコード株式会社メディア&ライブ事業部の池谷航氏、大幡英俊氏に話を聞いた。(柴 那典)


・「音楽の作り手が主役で、そこをサポートして仲介しているのが僕らタワーレコード」(大幡)


――そもそも『Bowline』というイベントが始まったきっかけはどういうところにあったんでしょう?


大幡:僕らが『Bowline』を始めたのは2013年のことですが、タワーレコードのライブ事業自体はそれ以前の2010年から始まっているんです。タワーレコードは企業理念として「The Best Place to Find Music=音楽と出会う最良の場所」をすべてのお客様に提供するというミッションがあり、その中でライブを通しても「音楽と出会う場」を提供したいというのが、そもそもの始まりでした。


――タワーレコードはここ数年CD販売以外の事業も多く手掛けていますよね。


池谷:たとえば渋谷店が3年前にリニューアルした時には、2階にカフェを作って、そこからカフェ事業も始まりました。僕らがやっているライブ事業もそうですし、夏フェスのグッズもだいぶ以前から展開している。もともとタワーレコードはレコード屋ですが、そうじゃないところでも音楽と触れ合える場所は作れるんじゃないかというビジョンが社長の嶺脇(育夫)にあり、様々なプロジェクトをやってきたんですね。僕らがやっているライブ事業も、レコードを売るための販促ではなく、きちんと能動的にお客さんがチケットを買って足を運んで来てくれるような場を提供する事業の一つとして進めています。


――『Bowline』のコンセプトはどういうところから決まっていったんでしょう?


大幡:たとえば海外で行っている『ALL TOMORROW'S PARTIES』のような、毎回違うアーティストがキュレーターをつとめる方式のイベントを、ある程度大きな規模でやりたいというのが最初に考えたことですね。


――そういうイベントにしようと思ったのは?


大幡:多くのフェスがある中で「タワーレコードらしい」という特色を出していく狙いもありました。タワーレコードらしさって、たとえば店頭の試聴機のように「このアーティストが好きならこのアーティストもオススメ」と関連付けて音楽を紹介するところにもあると思うんですね。アーティストがキューレーターをつとめるという形のイベントは、お客さんにとっても一つのアーティストを入り口にいろいろなアーティストに出会っていただくきっかけになる。そういうところはタワーレコードらしいと思います。


――そこが他のフェスとの差別化のポイントにもなっている。


大幡:メディアやイベンターが主催するフェスも多いですが、そことは違うやり方ですね。タワーレコードが主役になるのではなく、毎回一組のアーティストが主役になって、彼らと一緒にやっていく。それがタワーらしいのかなと思ったんですよね。やはり音楽の作り手が主役で、そこをサポートして仲介しているのが僕らタワーレコードだと思うので。


――そうなると、最初に誰にキュレーターをお願いするかというところは大きなポイントになると思います。第一回目はMAN WITH A MISSIONがキュレーターをつとめたわけですが、これはどういうところからだったんでしょう?


大幡:MAN WITH A MISSIONはその前年に「CDショップ大賞」を受賞したバンドで、そこが大きなポイントでした。CDショップの店員が選ぶアワードを受賞したばかりのMAN WITH A MISSIONは、CDショップのタワーレコードがやるイベントの最初の旗振り役としてはまさにうってつけの存在だと思いました。


・「新しい繋がりを生む役割を果たせているのかな」(大幡)


――これまで『Bowline』は計4回行われているわけですが、キュレーターをつとめたのがMAN WITH A MISSION、SiM、10-FEET、BRAHMANという面々になっている。これはどういう風に決まっていったんでしょうか?


大幡:『Bowline』は「強い結び方」の名称で、お客さんとアーティストを繋げる、アーティスト同士を繋げる、そういう意味を込めてイベント名にしました。また『Bowline』自体の繋がり、継続性も見せたいという考えが最初の段階からありました。なので、1回目のMAN WITH A MISSIONが呼んだアーティストが次回のキュレーターとなることで、イベントとしての繋がりや継続性が出てくると思い、SiMや10-FEETやBRAHMANにお声がけさせていただきました。


池谷:BRAHMANは今年で結成20周年ということもあって、その活動に『Bowline』も一役買わせて下さいっていう話をさせていただきました。


――『Bowline』はラウドシーンの実力派バンドが多くキュレーターをつとめているイメージがありましたが、それは初回からの継続性の結果だった。


大幡:そうですね。僕ら自身、出会ったアーティストさんとの繋がりを大事にしていきたいという思いもあるので、あの面々で1回目をやらせていただいたのは大きいのかなと思っています。


――こうした形のイベントならではの苦労したポイントはありますか?


大幡:やはりキュレーターのアーティストはそれぞれ個性が強いし、我も強いところもあるので。僕らとしては、そのアーティストの希望に極力沿った形でどうイベントを興行として成立させることができるのかというのは日々苦労しているところですね。そのアーティストの意志をどうお客さんに伝えられるのか。予算の制約もある中でどうイベントを成立させるかという。


――『Bowline』は、単にアーティストが好きなラインナップを集めるだけでなく、毎回テーマを設けていますよね。これはどういうアイディアだったんでしょうか。


大幡:そこも、アーティストの意向をより明確に示すためには、一つテーマを決めて、それを示す言葉があったほうがいいということになったんです。たとえば、SiMや10-FEETのように、自分たちでフェスティバルを主宰しているアーティストもいる。そうなると、自分たちだけでできることをやってもしょうがない。彼らは、タワーレコードと組んでイベントを行うからこそ実現できるようならことをしていきたいという思いがあるので、最初の段階でキュレーションの方向性を相談させてもらって、テーマを決めています。


――実際、10-FEETの『京都大作戦』やSiMの『DEAD POP FESTiVAL』のようなアーティスト主導型のフェスは根付いてきていますよね。その中で『Bowline』が果たすことのできる役割があるという感覚はありますか?


大幡:10-FEETにしても、SiMにしても、面識のない相手をタワー経由でブッキングして、それを機会にアーティスト同士が繋がるようなこともあったんですね。たとえば、SiMが『Bowline』のキュレーターをやったときは、キュウソネコカミが出演して、それをきっかけに両方のバンドが仲良くなったりした。あとは、10-FEETの時はずっと憧れだったエレファントカシマシを誘って共演したり、また『Bowline』で共演した[Alexandros]が今年の『京都大作戦』に出ることになったり。そういう、新しい繋がりを生む役割を果たせているのかな、とは思います。


池谷:実際、アーティスト本人から「タワーがいるから自分たちだけではできないブッキングにチャレンジできる」と言われることは、とても嬉しいですね。


――そして、今年の秋には幕張メッセ2日間で、それぞれDragon Ashとクリープハイプがキュレーターをつとめることが決まっています。これはどういうところから決まっていったんでしょう?


大幡:まず、僕らとしてもそろそろ1回目に出演した人たちだけでなく、新しい見せ方をしていかないといけないということがあって。Dragon Ashに関しては、『Bowline』のイメージが比較的ラウド系に寄っていたということもあり、彼らはラウド系のなかでミクスチャーロックの代表格なので、そのシーンにおいて誰よりも旗振り役を担える存在と思いお願いしました。


――クリープハイプはどうでしょう?


大幡:今言ったように、現状では『Bowline』にラウドロックのイベントというイメージがあるのですけれど、あくまでキュレーターによってガラリと色が変わるイベントなんですね。彼らならそういうことをわかりやすく伝えられると思いました。それと、クリープハイプというバンドは日本の音楽シーンの中でもっと大きな存在になってほしいという思いもあって。一緒に大きなイベントの旗振り役をすることによってバンドをもう一段上に押し上げるようなこともできたらと思ったんですね。


――Dragon Ashは今回“TMC(Total Music Communication)”というテーマを掲げていますね。彼らは2000年の頃に同じ名前でRIP SLYMEや山嵐などを呼んでイベントを開催していました。


大幡:今の時代はボーダレスなイベントも多いですが、『TMC』はその先駆けでもあったと思います。Dragon Ashもヒップホップとロックを繋ぐ架け橋のような象徴になっていたバンドで。実際にアーティスト側と話をしていく中でも『Dragon Ashらしさ』は結局そこのルーツに行き着くということになって。そういうところから、2015年版のTMCという形の打ち出しになりました。


――クリープハイプにはどういう期待をしていますか?


大幡:今、ギターロックのバンドたちはまた盛り返してきていると思うんです。でも、シーン自体に、パンクやラウドロックと比べると横の繋がりが少ないように見えてしまう。そこを彼らが繋げてみせることで、いままでなかった線が見えてシーンになっていくと思うんです。


――クリープハイプは“Bet in”というテーマを掲げています。これは「賭ける」という言葉と「ベッドイン」を引っ掛けているわけですね。


大幡:そこの言葉遊びは尾崎君らしいなと思いましたね。最初の段階で「テーマは『Bet in』にしたい」という話があって。僕らの思いとしても、彼らに賭けているというところがある。そこを尾崎君も感じてくれたんじゃないかと思います。クリープハイプらしいテーマですよね。


――そして大阪ではHEY-SMITHがキュレーターを担当します。初の関西での開催ですが、これはどういう経緯で?


大幡:まず、HEY-SMITHはメンバーの脱退があり、新メンバーが加入して「新生HEY-SMITH」としてやっていくのを応援したいというタワーとしての思いがあります。それから、これまでの『Bowline』のイメージを踏襲して、なおかつ関西で旗振り役になれる人たちである、という。そういう意味でHEY-SMITHと一緒にできるのはとても嬉しいですね。


――彼らも大阪で『HAZIKETEMAZARE FESTIVAL』を主宰しているバンドですし、それとは違う発想のラインナップになる。


大幡:そうですね。テーマが「会いたい人」で、まさにその考えが最初にある、というか。彼らとしても『HAZIKETEMAZARE FESTIVAL』とは違う『Bowline』だからこそのラインナップを選んでいきたいと考えているところがあって。自分たちのイベントがあるからこそ、そこではチャレンジできないことをこちらではできる。


池谷:そういう仕掛けの面白さを感じてもらいたいという思いもあるので、それをどうお客さんに伝えられるかは、僕らの課題でもあると思います。


大幡:そのアーティストの「あ、そういう面もあるんだ」っていうところを『Bowline』で見てもらえると面白いのかなと思いますね。BRAHMANがやったときも、『AIR JAM』的なメンツを求められがちな中、よりハードコアな、自分たちのルーツになるようなメンツも呼びたいという彼らの意向があった。


――BRAHMANがキュレーターをつとめた時のテーマは“第四世界”でした。


大幡:BRAHMANと同じ4人編成で、ボーカル、ギター、ベース、ドラムというスタイルのバンドを呼ぶというところにこだわりを持って選んでいったんです。ボーカリストがハンドマイクで歌うという。でも、そう決めてから「なかなかそういうバンド、いないよね」という話になったんですけど(笑)。


池谷:BRAHMANの時は、4人編成のメインステージとは別にサブステージも作って、遠藤ミチロウさんのような伝説的な先輩たちが弾き語りを披露したりもした。そこに対してのリスペクトがあった上で自分たちの音楽をやっているというところも見せられた。それはいい機会だったと思います。


・「キュレーターによってテーマも変わっていくので、一回一回違うイベントを作っているようなもの」(池谷)


――『Bowline』はフェスではなく、あくまでイベントという打ち出しをしているわけですが、そこについてのこだわりもあるんでしょうか。


大幡:キュレーターの選んだアーティストを全部観せたいという思いがあるんです。今までは1ステージでやっていたし、BRAHMANの時もタイムテーブルがかぶらないようにした。秋のDragon Ash、クリープハイプも2ステージになるんですけど、今回も全部観れるタイムテーブルにします。『Bowline』がフェスじゃなくイベントであるというところには、そういうところがあると思います。


池谷:大きいフェスだと、いくつもあるステージからお客さんがどのアーティストを観るのか選ぶわけです。だけど、僕らはせっかくアーティストをキュレーターに迎えているので、きちんと全部を観せたい。


大幡:フェスやイベントの醍醐味は、やっぱり今まで観たことのないアーティストのライブを観て「よかった」と体感するところにあると思うんです。フェスやイベントが新しいアーティストと出会う場所になっている。でも、大きなフェスだと知っているアーティストかどうかで何を観るかをお客さんが事前に取捨選択しちゃっているようなことも多い。


池谷:そういう大きなフェスも個人的には好きですし、もちろんあっていいと思いますけどね。


大幡:ただ、『Bowline』としては、タイムテーブルが被らないようにすることで、出演するアーティストを全員観れるようにするというところにこだわりを持ってやっていきたいと思っています。たとえ知らないアーティストでも、自分の好きな人が「これいいよ」と勧めているわけですから、お客さんにとっても「観てみよう」「聴いてみよう」となりやすいと思うので。


――そこが他のフェスとの差別化になっている。


大幡:『Bowline』と他のフェスの違いで言えば、アーティストによって色も変わるし、場所も毎回違うというのは大きいですね。僕らにとっては毎回新しいイベントを作ってるような感覚はあります。


池谷:大抵の場合、フェスは毎年決まった期間に同じ場所でやっているものですよね。フェスのカラーによってラインナップが決まり、今年はこのアーティストがヘッドライナー、来年はこのアーティストがヘッドライナーという風にある程度ラインナップの想定が決まったなかで作られている。でも『Bowline』はキュレーターによってテーマも変わっていくので、一回一回違うイベントを作っているようなものなんです。「こうやったら正解」っていうのが毎回違う。


――毎回違う大変さがあるわけですね。


池谷:そのぶん、毎回キュレーターのアーティストへの思い入れは強くなります。僕ら個人としてもそれだけで一晩飲めるくらい(笑)。


大幡:絆が深くなるというか、深い繋がりが生まれる。


――まさに『Bowline』ですね。


大幡:そうかもしれない(笑)。僕らとキュレーターアーティストは、イベントの主催者と出演者ではなく、共に一つのものを作り上げる相手になる。だから、必然的に濃い関係になるんです。


(取材・文=柴 那典)