トップへ

おのを振り回す男性に「威嚇発砲」 警察官の発砲が許される「4段階」とは?

2015年07月03日 11:51  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

おのを振り回している男性を威嚇するため、警察官がけん銃を空に向けて1発、発砲したーー。そんなニュースが6月下旬に報じられた。新潟県上越市の公道で起きた出来事で、男性にけがはなかったという。


【関連記事:ビジネスホテルの「1人部屋」を「ラブホ」代わりに――カップルが使うのは違法?】



報道によると、6月21日午後0時50分ごろ、上越市の国道をパトロールしていた警察官が盗難車を運転していた男性を発見し、停止するよう求めたが、男性はそのまま20分ほど逃走。市道の脇に乗り上げて止まったところで、警察官が職務質問をしようすると、おの(長さ約35センチ)を振り回した。



そこで、警察官が「捨てろ、撃つぞ」と警告したうえで、威嚇のため、空に向けて1発、発砲した。男性はさらに約200メートル逃走したが、パトカーと警察官が男性を取り押さえ、銃刀法違反の疑いで逮捕した。けん銃を発砲したことに対して、上越署は「現時点では適切な職務執行だと考えている」とコメントしたという。



このニュースに対してネット上では、「オノを振り回して向かってくる相手に拳銃で対応するのは当然」「日本の警察は犯罪撲滅、自己防衛のためもっと撃て」という意見もあった。法律では、警察官が「発砲」をしていいのは、どんな場合だと定められているのか。警察官僚・警視庁刑事としての経歴をもつ澤井康生弁護士に聞いた。



●警察官が発砲できるのはどんなとき?


「警察官のけん銃使用は、『警察官職務執行法7条』で、『犯人逮捕、逃走防止、防護、公務執行に対する抵抗の抑止のため必要と認める相当な理由のある場合に、合理的に必要と判断される限度において使用することができる』とされています」



澤井弁護士はこのように説明する。



「また『警察官等けん銃使用及び取扱い規範』では、『構える』『予告』『威嚇射撃』『人に向けての射撃』の4段階に分類したうえで、以下のようにそれぞれの要件を定めています。



(1)警察官職務執行法7条の要件を満たした場合に『けん銃を構える』ことができる。


(2)けん銃を撃とうとするときは事前に相手に予告すること(例外的に事態が急迫しているときは省略可)。


(3)相手の行為を制止する手段として上空などに向けて威嚇射撃することができる(例外的に事態が急迫しているときは省略可)。


(4)相手が危害を加えてきたり、凶悪犯罪の犯人が警察官に抵抗したり逃亡しようとするとき等は相手に向けてけん銃を撃つことができる」



オノを振り回す男性に対し、警察官が威嚇発砲したことは、適法だったと言えるのか。



「さきほどの規定を今回の事件にあてはめると、まず、犯人がおのを持ち出して抵抗してきたことから、公務執行に対する抵抗抑止のため『けん銃を構える』ことができます。



次に、警察官は事前にきちんと『予告』をしています。それでも犯人がおのを振り回して向かってきたことから、その行為を制止するために上空に向けて威嚇射撃したものであり、適法ということができます」



●威嚇発砲でも「実弾を使用」


「ちなみに以前は、警棒の使用が優先され、けん銃使用は最後の手段とされていました。しかし2007年、警察官が凶悪犯人に対してけん銃を使用できずに殉職する事件があいついだため、警棒がけん銃より優先するとの規定が削除され、さきほどのような扱いになったという経緯があります。



最近、裁判で問題となったケースとして、2006年に栃木県警の警察官が犯人から抵抗を受けて射殺した事件や、同じく2006年に神奈川県警の警察官が車両で逃走しようとした犯人を撃ち、重傷を負わせた事件があります。裁判所はいずれも客観的な事実に基づき、警察官によるけん銃使用は適法であったと判断しています」



ところで、威嚇発砲の際も、実弾を発射しているのだろうか。



「かつて警視庁に出向していたとき、私もけん銃を携帯していましたが、すべて実弾であり威嚇射撃用の弾丸はありませんでした。事態が急迫している場合には、いきなり相手に向けて撃つケースもありえるわけですから、すべて実弾でないと対応できないからだと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も兼任、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:弁護士法人海星事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/about.html