トップへ

BABYMETALが“元洋楽少年”を熱狂させる理由【海外篇】 市川哲史が海外ファンの反応を分析

2015年07月02日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

市川哲史『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)

 人差指と小指を立てた拳\m/はその昔、スタン・ハンセンが「ウィぃぃぃぃー!」の雄叫びとともにリング上で突き上げると、<テキサス・ロングホーン>と呼ばれた。やがてレインボー時代のロニー・ジェイムス・ディオにより、\m/はヘヴィメタル魂を象徴する<メロイック・サイン>として、全世界に定着する。


 あれから40年――英仏独伊瑞墺米加墨のどこだろうが、BABYMETALのライヴ会場を埋め尽くす外国人もとい地元民みんなが掲げる\m/は、いつしか<キツネサイン>と呼ばれるようになったとさ。


 めでたしめでたし。「キツネだお」


 <ハイスパートな超絶技巧系轟音ヘヴィメタ・サウンド>をがっつり装着した<甘くてキュートな歌謡曲>を、<日本一キレっキレの鮮やかなフォーメーション・ダンス>でキメられて、抗える奴などまずいない。いまや世界一のフィジカルエンタだ。


 そんな<メタルとアイドルの「これでもか」的邂逅>に日本人でも度肝を抜かれたのだから、アイドル免疫すらない外国人にとっては目茶目茶衝撃的だっただろう。


 国境を越えて、BABYMETALは圧倒的に心地好いのだ。


 まず彼らの目には、ベビメタはおそらく小学生にしか映っていまい。しかしその黒髪のロリータ少女3人が、まるでアスリートのように踊り続けるのだ。しかもストイックに。


 彼女たちが見せる人間の身体能力の限界に挑むような高速テクニカル・ダンスは、超速弾きギター・ソロやインタープレイと同じ感覚でクールなはずだ。演る側も観る側も知らぬ間に溺れてしまう、あのトランス感である。


 またベビメタ独特の容赦ないツンデレ・パフォーマンスも、その理由は理解できずともたまらんだろう。まるでドラッグのようにチョコに溺れてる女子の唄とか、実はイカレた歌詞たちも癖になっちゃうようだ。心中察するわ。


 昭和の時代から、海外進出なんてずっと<愛すべきホラ>だった。演歌だって歌謡曲だってロックだって、「FC主催ツアーの出し物」として公演してたようなものだ。それでもバンドブーム以降、日本でもようやくロックバンドが世間で認知されるに至り、個性的なバンド群が海外ライヴを自発的に行なうようになった。


 あ、Xの《移住して改名して米メジャーと契約して世界進出記者会見@米国NYロックフェラーセンタービルまで華々しく開いたけど、結局何もしなかったよ》エピソードは、積極的に無視しておく。


 90年代前半、私はそんなバンドたちの海外武者修行によく同行した。ブランキー・ジェット・シティやミッシェル・ガン・エレファントはロンドン各地、“ギミチョコ!!”作者のTAKESHIが在籍したマッド・カプセル・マーケッツはサンフランシスコと記憶している。


 ハコ自体はライヴハウスやクラブと小規模ながら、ブランキーやミッシェルの轟音はまだグランジ前夜の英キッズには相当新鮮だったようだし、マッドのデジパンクっぷりは当時革新的すぎたらしく、共演した地元の学生プロレスラーや腕にカタカナで「デビルマン」と刺青した漫画オタたちが、興奮しきりだった。


 ちなみにロンドン郊外のパブでライヴを披露したザ・プライベーツは、彼らの童顔がよほど珍しかったのだろう店の中年常連客たちから、「日本から来た子供がストーンズを演ってるよ!」とえらく感心されたのであった。


 話が大きく逸れてしまったが、ロック/ポップ・ミュージックの本家である海外において日本の最も有効なお礼参りの手段は、この黎明期から一貫して<彼らが体験したことがない表現>を魅せつけることに他ならない。


 いまやX JAPANとLUNA SEAを掛け持ちするにまで至った<飛んで火に入り悦ぶ変な虫>SUGIZOと、V系が実は00年代以降、<visualkei>として海外で評価と人気を集めている理由を分析したことがある。


 V系とは洋楽ロックへの過剰な愛情が、メタルにハードコアにパンクにデスにゴスにプログレなど、自分が恰好よいと思ったサウンドを片っ端から取り込んで再構築させる、優秀なリスナー王国・日本ならではの雑食性の産物だ。視覚面も含め、まさに<足し算の論理>である。そのリスナーズ・カルチャーが、ずっと送り手側だったはずの海外リスナーに歓迎されたのだから、まさに歴史的な立場逆転だと言える。


「だからすごく感慨深いです。黒人音楽の影響はマイルス・デイヴィスやプリンスから散々受けてきたし、デヴィッド・ボウイやジャパンといった英国のロマンティック面にも憧れた。それで大人になってミュージシャンになってるわけじゃない?」


「で、ずーっと勉強や追求をしてきてふと一周したら、今度は俺たちが影響を受けた国の奴らが、俺たちに影響を受けて人生変わってきてるわけで。音楽の精神的なリレーションシップのバトンを渡すじゃないけど、そういう輪廻にぐっときますね」


「面白いのは、V系に影響を受けて大きくなってきたバンドが海外で増えてきてるんですよ。X JAPANの北米ツアーの前座の子たちもそうでしたし(嬉笑)」


 SUGIZOの個人的感慨を待つまでもなく、海外のファンがV系を愛する理由は、世界中どこを探してもない日本オリジナルのスタイルだからだ。


 我々が自国日本の流行音楽の歴史を知っているように、海外のロック・リスナーは当然、<黒人音楽→ロックンロール→ビートルズ→ハードロック(→ヘヴィメタル)&プログレ→パンク/ニューウェイヴ→……>と続く自分たちのロックの歴史を熟知している。


 ところがV系はそんな洋楽ロックの歴史的脈絡を一切無視して、あらゆる音楽ジャンルを混ぜ合わせたのだから、結果、外国人が聴いたことのない音楽になるわけだ。


 加えてガタイがデカい者がほとんどの海外では、線の細いカワいい男の子がロックをやってること自体が珍しいだけに、ジャパニメーションの人気高騰を受けV系バンドも「アニメから飛び出してきたようだ」と人気を博したとも言えよう。


 とにかくリスナーの国籍が日本だろうが外国だろうが、今まで聴いたことがないもの/見たことがないものがいちばん面白いのである。


 そしてBABYMETALもまた然り、あんなん誰も観たことなかったのだ。


 ポニー&ツインテールにニーソックスのロリ女子も初めてならば、目にも留まらぬ高速の一糸乱れぬキレっキレダンスも初めて――まさに日本のアイドルにしかできない、国籍問わず観る者を圧倒する表現手段だ。しかもベビメタのダンススキルはアイドルたちの中でも卓越してるのだから、ヤられて当然である。


 裏を返せば彼女たちがアイドルだったからこそ、この特異なBABYMETALワールドは実現したと言える。日本のアイドルはアメイジングなのだ。誇りに思え。


 『LIVE IN LONDON』やYou Tubeで世界各国のライヴを観ると、あらゆる観客がとびきりの笑顔でベビメタを愉しんでる様子が最も印象深い。宮藤官九郎が天野アキに劇中言わしめた、「みんなを元気にするのがアイドルの仕事」そのものだと思う。


 またネット上では、海外のヘヴィメタ村の住人たちが<BABYMETALは新しいヘヴィメタルの形なのか>本気で討論しているし、彼女たちを徹底的に否定する<ヘイター>まで世界各国に出現してるではないか。いいね!! この大人げない現実感。


 そういう意味ではベビメタが100%未知の音楽ではなく、かつて全世界を席巻した音楽ジャンル<ヘヴィメタル>に立脚してることもまた、大きい。そもそも本家のメタル自体が長く梗塞してるからこそベビメタはより新鮮で、まずは面白がられたはずだ。


 《Kerrang!》や《Metal Hammer》からとりあえず賞を貰えたのも、ジューダス・プリーストやらアンスラックスやらメタリカやらスレイヤーやらメガデスやらリンプ・ビズキットやらスリップ・ノットやらレジェンドたちからの記念撮影ラッシュも、同様である。


 今年に入り、「オンリーワン・ジャンルになりたい」と意志表明するSU-METALを見る機会が増えたが、大丈夫、既にこれだけ食いつかれてるのだから立派なオリジナリティーではないか。


 半年ぶりのベビメタ単独日本公演@幕張メッセ(6月21日)は「凱旋帰国」を待ちわびた25000人で埋め尽くされ、慣れぬサークルモッシュが「ボコボコにされて血だらけの輩」や「泣き叫ぶ婦女子」を生むほど、デキあがりきっていた。当日告知された9月の全国Zeppツアー+横浜アリーナ2daysも、きっと極限まで盛り上がりそうだ。


 いつの間にかベビメタは、AKB48以降ずーっと蔓延している<会いに行けるアイドル>とは真逆の、<そうそうお手軽に逢えると思うなよアイドル>として特化してたようだ。


 となればアミューズは、ベビメタを今後どうするつもりなのか。


 これを機に活動拠点を日本に戻して、頂のてっぺんを目指すもよし。これまで以上に海外中心に廻りつつ、日本初のグローバル・ニッチな音楽ビジネスを確立するもよし。もしくは、せっかくだからもう全世界規模で「BABY METALがニュー・ヘヴィメタルを背負って立ぁぁぁぁっつ!」でもあり、かもしれない。


 でも正直な話、どうでもいい。誰にどう担がれようが、ベビメタ神輿は動じないだけの説得力をすっかり備えちゃったからだ。


 客席一体のシンガロングありで既にライヴ定番曲の「Road of Resistance」を最初に聴いたとき、実はがっかりした。なんか「本気で<メタルレジスタンス>を起こそうとしてんのか!?」的な、熱いマニフェスト・ソングに聴こえたからだ。どれだけアンサンブルや楽曲が恰好よくても、詞のモチーフやメロが「なんちゃって(ハート)」と言い訳のように突き抜けてただけに、洒落では済みそうにない熱さが哀しかったのである。


 ところがよく聴いてみると、ベビメタ最速の疾走感といい高らかな唄い上げが似合うサビといい単純明快な構成といい、実に見事なアニソンなのだ。いまからでも遅くはない、どうですかおたくさまの新作アニメの主題歌に。


 思うにベビメタって、アイドルとメタルとV系とアニソンと漫画とバンドサウンドとロリといった、日本人固有の歴代<愛すべきサブカルチャーたち>の合流点なのかもしれない。だから私のような非ナショナリズム者でも、海外で地元民を手玉に取って翻弄する彼女たちについつい喝采してしま……いや、嘘はよくない。


 その徹底したストイシズムが却って可憐さを際立たせるBABYMETALのステージを観て、誰が平静でいられよう。父性本能がとまらない。キラキラしてるのもカワイイのも美味しいものも、パパじゃなくておじさんが全部ぜーんぶ買ってあげるから、これからも頑張るんだよ?


 おいおい。


 お里が知れましたとさ。(市川哲史)