トップへ

テイ・トウワが語る、トレンドを超えた音楽の作り方「アンテナが錆びてても必要な電波は入ってくる」

2015年07月01日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

テイ・トウワ。

 テイ・トウワが通算8枚目となる新作アルバム『CUTE』を7月29日にリリース、先行配信を7月1日よりスタートする。細野晴臣、高橋幸宏、砂原良徳、LEO今井、UAなど多彩なミュージシャンを迎えて制作された同作は、まさに“CUTE”と形容したくなる繊細かつ魅惑的なダンスミュージックが展開されている。今回は、音楽評論家の小野島大氏がテイ・トウワ本人を直撃。アルバムの制作背景や軽井沢での生活、自身のDJスタイルやリスナーとしての感覚に起きた変化などを語ってもらった。(リアルサウンド編集部)


(参考:TOWA TEIが語るポップの定義「ほんの一瞬でもテイ・トウワっぽさが耳に残るようにしたい」


・「今までと同じスキームでいいのか疑問を持った」


――今回、マスタリング・エンジニアが新しい人なんですね。


テイ:そうです。『LUCKY』(2013年)とその前の『SUNNY』(2011年)『BIG FUN』(2009年)は、ニューヨークのステアリング・サウンドのグレッグ・カルビとやってました。もともとはジョン・レノンやトーキング・ヘッズをやってた人で。MGMTとかもやっていましてね。このころから、いわゆるトレンドのクラブ・ミュージックをやってる人よりは、オルタネイティヴなものをずっとやってる人の方がいいんじゃないかと思って頼んだんです。エンジニアで(音は)変わると思いますよ。その前はスチュワート・ホークスっていうロンドンのメトロポリス・スタジオのエンジニアーー当時はロニ・サイズとかあのへんで圧倒的に素晴らしい仕事をしていたんですがーーにずっと頼んでたんです(最近ではロード、チャーリーXCX、ディスクロージャー、アヴィーチー、エド・シーランなど)。この頃からドラムン・ベースとかUKのトレンドじゃない人の方がいいのかなとは思ってたんですけど、やっぱりすごく上手な人だったんで頼んでいたんですね。ただ『FLASH』(2005年)ぐらいから、ノン・カテゴリー化というか、クラブ・ミュージック離れというか。そういう気分になってきた。ダンス・ミュージックだとは思ってますけど。


――あ、クラブ・ミュージックとダンス・ミュージックは違うわけですね。


テイ:そうですね。クラブ・ミュージックというのはもっとシャバいというか(笑)。そういうところでかかる音楽がクラブ・ミュージックだとするならば、僕がダンス・ミュージックと言ってるのはもっと広いもの。それこそアメリカの南部の田舎で爺ちゃん婆ちゃんが踊るようなものでもダンス・ミュージックだと思うんで。ダンス・ミュージックではあるけどトレンドのクラブ・ミュージックではないもの。


――なるほど。


テイ:それでベスト盤(『94-14』)の時、ワーナーから出した関係で、ワーナーのハウス・エンジニアの田中龍一さんを勧められたんです。音にひときわ厳しくて有名なアーティストにも信頼されている方だというし、それなら大丈夫かなとお願いしたんです。その時その時にいろんなエンジニアとやってきた過去音源を、今のフラットな視点でうまくならしてくれた。足すというよりは、当時ローとかコンプレッションが強かったものを和らげたり、うまく引き算して地ならししてくれた、そのマスタリングがよかったので、今回もその方にお願いしました。グレッグ・カルビは僕がやっているような音を好きかどうかはともかく、オルタネイティヴ感を理解しているのと、すごくアナログベースな仕事をする人で、それはそれでよかったんですけどね。


――では、今回のマスタリングは満足されていると。


テイ:満足してますね。ニューヨークにAyumi Obinata君っていう親友の音楽家がいて。昔U.F.O.のプロデュースとかやってたんですけど、今回一部ミックスをやってくれて。彼に客観的に見てもらおうと思って(打ち込みが全て終わった)音を送ったんです。そうしたら、いいんじゃないかと。歌もの、インストと、いつも以上にバラエティに富んでいるし、スカスカだけど音圧があるし、その曲ごとにやりたいことがあったので、いざ曲を並べてみると、けっこう苦労はしましたけど。


――ご自分でマスタリングをやろうとは思わないんですか。


テイ:思わないです。ミックスもやってないですから。指示はしますけど…全部自分でやる人いるじゃないですか。そうするとすごく時間がかかる。いかに短い時間でやるかしか考えてませんから、早くジャケ(のデザイン)をやりたいから(笑)。僕としては早く終わらせて「盤」にして、次にいきたいんです。


――早く区切りをつけたい。


テイ:そうですね。


――実体のあるもので。


テイ:はい、好きですね。データは便利だと思うんですよ。夜のうちにニューヨークに送っておいて、起きたら一個直って返ってくるとか。ネットの恩恵は受けてますけど…細野(晴臣)さんがおっしゃってたのは、ミックスって作業は大嫌いだと。90チャンネルでも8チャンネルでも、できあがったらそのままでいいじゃないか。でもみんなに聴いてもらうために2チャンネルにしなきゃいけない。つまりミックスっていうのは社会性なんだよテイ君、って言われて(笑)。


――(笑)それ、めちゃくちゃ面白い意見ですね。


テイ:小野島さんに聴いてもらうには2チャンにしなきゃいけない。でも僕とObinata君の間では9チャンネルでやりとりしてるわけでね。


――実際そういう意識はあるわけですか。マルチの音源を完成させるまでが自分の作品であって、そこから先は聴き手へのサービスだって意識。


テイ:うーん…やっぱありますね。最大公約数というか。でも2チャンに定着することで、次に行けるってこともあるんですよ。デザインに行けたり、次のアルバムの構想を考えだしたり。ミックスを終えて、マスタリングを終えて、デザインも完成して、そこでひとつフェーズが終わる。今はまさにそういうタイミングですよ(笑)。


――なるほど。


テイ:もちろんプロモーションとか残ってますけどね。ただ今までと同じスキームでいいのか疑問を持つようになった。アルバムを出すごとに取材を受けて、ラジオに出て、メイクして撮影してDJツアーして回って…。


――もうそういうルーティンはあまり有効じゃないかもしれない、と。


テイ:なのでDJツアーは辞めたし、そもそもクラブDJはこの2年ぐらいですごく減らしました。8割、9割ぐらい減らしたかな? だから自分の生活のスタイルは大きく変わりましたね。長らく大きな収入源ではあったけど、時間もそのぶん費やしていた。それを辞めたことで体調的にラクになった部分もあるし、ライフスタイルも大きく変わった。なので今回も、できるだけ早い段階でこうして取材を受けて、あとはなるべくやらずに済まそうと(笑)。


――なるほど(笑)。DJ仕事を減らしたのはどうしてですか。


テイ:風営法の問題があったりとか、リーマンショック後のクラブ不況とか、決定打はやはり震災があってクラブのクローズが相次いだことですね。その前後から巷のメインストリームではEDMが流行りだしてきた。でも悪いけど僕は(EDMを)基本好きじゃないんで。僕の知ってたクラブとは違うものになってきた。今の若い人はこれが面白いんだろうから否定はしないですけど、僕が知っていた楽しいクラブではもう、ないんで。無理して努力してそこで続ける必要はないかなと。


――EDMの何がイヤなんですか。


テイ:みんな同じに聞こえる。情緒がない(笑)。


――ある種、機能性に徹したダンス・ミュージックですからね。


テイ:たまにおもしろいトラックもありますけど、熱くなれるものじゃないし、できれば(そういう曲がかかるクラブに)いたくない。大音量であれを聴いていたくない。


――何が違うんですかね、それまでのテクノやエレクトロニカと。


テイ:そうですよねえ。テクノもエレクトロニカも嫌いじゃなかったんですけどねえ。うーん…もっと様式化したんですかね。


――音楽として型にはまっている感じ。


テイ:そうですね。もっとお金の匂いがするっていうか(笑)。


――VIP席でセレブ達が高いシャンパンあけまくってるみたいな。


テイ:そういう人たちが趣味でDJしてたりね。海外セレブがDJして一晩ウン千万とか(笑)。パイオニアのCDJだとUSBでプレイできるじゃないですか。そういう人たちがUSBをポーチに入れて現場に来るわけですよ。おはよーございまーすとか言って。しかもそのUSBは彼氏にもらったやつかなんかで(笑)。


――なんか実際の経験談ぽいですね(笑)。


テイ:そういう、みんなが同じ方向に向いてるみたいな風潮がつまらない。


――素人みたいな人も手軽にできちゃうような、マニュアル化された音楽であると。


テイ:そうですね! 使いやすい、乗りやすい、転ばない自転車っつーか。もちろんそうじゃない人もいるし、そういう人はこれからも生き残っていくでしょう。でも僕はもう、そういう場に毎週末いくこと自体がもうギブアップっていうか。ゼロにはしたくないですけど、減らしたい。


・「表現をし続けることが自分の今のポリティクス」


――クラブ・シーンのメインストリームはそうなりつつあったとはいうものの、自分は違う現場でやっていけばいい、とはならなかったんですか?


テイ:そもそもDJの夜勤?(笑)、夜の仕事がきついかな、というのもあるんです。年齢的なこともあるじゃないですか。それはシーンのせいとは言えないですよね。僕が28年前…87年にやり始めた時は、ひとりで一晩回してましたけどね。レゲエからロックからダンス・クラシックからヒップホップから。なんでもかけないと一晩できなかったですからね。でももうそれは体力的に難しい。なのでDJ25周年を迎えたところでセミリタイアしちゃいましたね。温泉があるところなら多少ギャラが安くても行きたいですけどね(笑)。そうじゃなくクラブでやるEDMのパーティーみたいなところに行って、無理してでも迎合してEDMをかけたいとは全然思わない。


――そりゃそうでしょうね。


テイ:だから…申し訳ないけどDJのことはどうでもいいかなと(笑)。継続は力なりと思うと同時に、人生は変化だとも思うんで。なのでゼロにするわけじゃないけど極力減らそうと。今まですごく大きかったのを減らすことで、そのぶんの体力や集中力を、オリジナル・アルバムの制作に向けようかと思ったんです。


――さきほどDJ仕事は9割減らしたとおっしゃいましたけど、その9割分は創作活動に費やしているわけですか。


テイ:温泉ですかね(笑)。まあ温泉と創作がほとんどイコール…(笑)。露天風呂で曲が浮かんだりするんで。


――ナチュラル・エコーのスタジオで(笑)。


テイ:(笑)特権じゃないですか。GWの軽井沢なんてどこも混んでて悲惨ですけど、僕らは平日の朝イチで行ったりできるんで。若い時みたいに、スピーカーの前に座ってMac立ち上げて、さてやらなきゃ、みたいなのは…そういう時もありますけど、めっきり少なくなった。クルマで数分のところに立ち寄り温泉みたいなのが2軒あるんですよ。そこで思いついたら、忘れないようにして急いで家に帰って。


――(笑)なるほど。今回は2年ぶりのアルバムですが、そういう変化が背景にあると。


テイ:そうですね。特にクラブDJを極端に減らしたということですね。それでもまだ制作は続けられている。2年前と違って体力は確実に落ちてますけど、それでもテンポを落とさずに作れたなと。


――クラブで得られる最新の情報とか現場での雰囲気とか、そういうものが創作にフィードバックしていた面もあったと思うんですが。


テイ:それはよく言われます。ニューヨークから東京に帰ってきた時とか、軽井沢に引っ越した時とか。同じように心配されましたけど、逆にもっと(最新の動向を)わからなくなりたい。流行りとか、トレンドとか。近年ネットで試聴して情報を集めるのがメインになってますけど、たまに店にいくと、こんなものが出てるんだって気づくでしょう。そうしてリアルに足を運ぶことで得られる情報も絶対あると思うんですけど、若い時みたいにすべてにわたってアンテナを張り巡らせて、それこそ今の女子高生の靴下の長さまで含めて、すべてのトレンドを知ろうとするようなことは、もう必要ないと思うんです。むしろもう、何もわからなくてもいい、できればわからなくなりたい、ぐらいで。どこぞのセレクトCDショップの激ヤバマストとか、がっかりさせられることが本当に多い。そんなハイプだったら知らなくてもいい。


――今までありとあらゆるいろいろな情報を入手してきて、だいたいほとんどのことは見切ってしまった。


テイ:そうですねえ…ある程度経験を積むと、「なんだこれ?」と思ったものが、時間がたってみたら「あ、これがネタだったんだ」って気づくとか、あるじゃないですか。20代の時にすげえって夢中になったものがモロパクリじゃん、みたいなことに30代40代になって気づいて幻滅したりね(笑)。


――ありますね。


テイ:だから…画期的な新情報・最新流行なんてものよりも、自分にとっての9枚目のアルバム(『CUTE』の次回作)が一番興味がありますね。


――外からの刺激はもはや創作のモチベーションにはなりえないということでしょうか。


テイ:いやいや、さっき言った旅行や温泉っていうのも外的刺激ですよ。アートとか。展覧会を見にLAまで行くとか、若いころは思いもつかなかったですし。『LUCKY』収録の「RADIO」で歌っている"錆び付いたアンテナ"=自分のことなんですよ。錆びててもいいやって。錆びてても必要な電波は入ってくるし、ピカピカでいる必要はないなって。ピカピカは若い人の特権だと思うから。


――はい。


テイ:3.11以降っていうのは自分の中では大きいと思う。言いたいことができた。表現をし続けることが自分の今のポリティクス。作り続けることがね。直感で動くことがコンセプトというか。それはずっと思ってるんですけどね。そんなにないんですよ、コンセプチュアルに動くことが。ただ『LUCKY』と今作は、3.11以降続けていこうと思った、そしてまだやれてるなっていう確認なんですよね。


・「詞も曲もやるようになったけど、コントロール・フリークになりたいわけじゃない」


――今作の構想はいつから?


テイ:構想はないです。去年ソロ20周年で『94-14』(ベスト盤、リミックス盤、カヴァー盤)を3枚出したり展覧会をやったりしてエネルギーと時間をとられたので、合間を縫ってちょこちょこと。だいたい50歳になってから作った作品ですね。


――最初にできたのはどの曲ですか。


テイ:「CUL DE SAC」のオケですね。ただのインストだったんですけど、そこから先が思い浮かばなかった。「CUL DE SAC」という言葉だけがぼんやりある状態だったんです。そこに高橋幸宏 & METAFIVEで一緒にバンドをやってるLEO今井君が「できそうです」って言ってくれて。オケを渡して好きに加えてもらったら、ぐっと世界観を広げてくれた。シンセ・ベースを入れて、歌を入れて。「CUL DE SAC」って「袋小路」という意味で、逃げ場なし、ここから逃げ出したい、というようなネガティヴな言葉だと思うんですけど、彼はそれを歌詞の中で、二人だけでここにいたい、という、ほとんど真逆のようなポエティックな歌詞にしてくれた。


――ちょっと80年代前半のビル・ネルソンぽいと思いました。歌も曲調も。


テイ:ほう。なるほどね。INTERSECT BY LEXUSのレーベル(http://www.lexus-int.com/jp/intersect/tokyo/partners/towa-tei/)から出す7インチシングルの1曲目がこれなんですよ。


――LEO今井は『LUV PANDEMIC』でも高橋幸宏さんとやっています。


テイ:『LUV PANDEMIC』は幸宏さんがメインで歌うとは思いつつ、この曲は幸宏さんだけじゃないなっていうのが直感であって。グループ・サウンズじゃないけど、男何人か(細野晴臣、小山田圭吾なども参加)で歌うのがいいかなと。ムーンライダーズみたいに、みんなでわーっと歌ってるイメージ。なのでまずLEO君に歌ってもらって。で、女の子(水原佑果)に「パンパンパン」って歌ってもらう。LEO君との作業が楽しかったし、彼の声も好きだし、英語の添削もやってもらって。心強いバンド仲間って感じですね。


――LEO今井が参加したもう1曲「SOUND OF MUSIC」では久々にUAの歌も聴けます。


テイ:今回のジャケをやってくれた五木田智央君の展覧会が山梨であって、そこにUAも来てたんですよ。それで久しぶりに話したら、3.11以降ほとんどやってないと。そろそろ何かやりたそうだったんで、じゃあ今度(曲を)作るよと。LEO君に来てもらって仮歌を歌ってもらって、それをUAに聞かせたんです。歌ってもらって、やっぱり彼女で良かったと思いましたね。


――テイさんの音とUAの歌は非常に相性がいい気がします。


テイ:『Last Century Modern』(1999年)のタイトル曲を一緒にやった時もそう思いました。凄いシンガーだし、自分と合うなと。「Last Century Modern」はカルテットのバンドでほとんど生楽器でやるという、自分にとっては珍しい曲だったんですけど。でも気に入ってくれてたのも知ってたし、どこかでまたやろうっていうのはお互いどこかで思ってたと思うんです。でも実際にはそれから15年近く、一緒にやることはなかった。今回、いつもやってる打ち込みの四つ打ちのクラブ・ミュージックでもよかったかもしれないけど、「SOUND OF MUSIC」を作って、詞とメロディがUAにあうんじゃないかなという読みが当たったし、やってよかったと思いましたよ。


――彼女の魅力ってどこですか。


テイ:普通にラジオから流れてくるのを聞いてました。「リンゴ追分」を歌ってるCD(『turbo』1999年)を聞いて、この人巧いなあ、と思いましたね。録音前日にじっくり話しましたが、アーティストとしてすごく本能的で素直で、家族のこともすごく大事にしている。ピュアな人だし、同時に煩悩的な部分もあって(笑)。ちゃんと表に出て歌いたいという気持ちもある。だからテイさんと一緒にやった曲がざわざわしてくれると嬉しいなあ、と言ってましたね。


――女性ヴォーカリストとは過去いろいろやってらっしゃいますけど、選ぶときの基準は何かあるんですか。


テイ:曲を作るとき、最初はほぼインストで、詞が先にあることはまずないんです。手癖だったり実験だったり、リズムから作って、ある程度までできると左脳的な自分が、この曲はインストでいくべきか、ヴォーカルを入れるべきか考える。歌にすると決めて、日本語にするか英語にするかじっくり温泉に浸かって考えて(笑)。それから男にするか女にするか、幸宏さんひとりじゃないな、とか。「SOUND OF MUSIC」の場合は、LEO君に仮歌入れてもらって、それでやっぱりUAなら合うと思った。


――曲の向かう方向があって、その方向に沿ったヴォーカリストをピックアップするわけですね。


テイ:そうですね。


――最初から歌う人を決めて、その人が歌うことを前提として曲を作ることは…


テイ:それは頼まれた時だけです。ただ早い段階でビートとコード感しかなくてメロディもないけど、「Apple」ってタイトルつけて、あっアップルで(椎名)林檎ちゃんが歌うといいかなって閃いて、林檎ちゃんの叩きになるように歌詞を作っていったとか(『LUCKY』収録)。そういう作り方もありますね。


――でも実際にできあがった曲を聴くと、たとえば幸宏さんの曲(「LUV PANDEMIC』)は、幸宏さんの歌以外考えられないですよね。


テイ:(幸宏さんに)決まるのは相当早かったですよ。Aメロの日本語は幸宏さんだろうなと。ただ、違う人が歌うパートもあれば面白いと思って。それがLEO君との出会いなんですよ。


――「TOP NOTE」ではNOKKOも参加していますね。「歌」というほどではないですが、すぐ彼女とわかる声を聴かせてくれます。


テイ:まあ僕はインストだと思ってます。彼女が歌ってる「ウー、アー」というのいは元々サンプリングだったんですよ。ミックスに通ってたエンジニアのゴウ・ホトダさんの奥さんがNOKKOなんですけど、サンプリングを生に差し替えたらレンジ広がるかなと思って。


――LEO今井とはもう1曲「NOTV」という曲もやっています。


テイ:これはいわゆるヴォーカリーズの手法ですね(歌詞を伴わない歌唱法。ジャズでいうスキャットに近い)。いわゆる歌ものにしたくなかったので、シンセと一緒に意味のない声が鳴っている。意味のない言葉遊び。そういうものにしたくて、そういう話を細野さんにしたら、それはヴォーカリーズだねと。そういう言葉があるのを知らなかったんですけどね。それで間奏はLEO君に好きにやってもらった。


――タイトルはどういうところから?


テイ:最近TVを見なくなったよね、TVで喋ってることも何言ってるのかサッパリわかんないよね~みたいな話をしてて。ヴォーカリーズ=意味のない言葉遊びの感覚と、TVで言ってることが意味不明に感じることが、どこかで通じるものに思えたんでしょうね。それで「NOTV」ってタイトルにしたんです。実際にそういうチャンネルありそうですもんね(笑)。こういう曲がニュースの後ろなんかに流れたら面白いのに、と思いながら作りました。


――インストですが、「TRY AGAIN」では、まりん(砂原良徳)が"Additional Programming"として参加してますね。


テイ:これはバカリズムさんにオールナイトニッポンのジングルを頼まれて、それ用に作ったんです。ジングルなんで元は15秒か30秒なんですけど、もう少し発展させたくて、ある程度納得いくとこまで作ってまりんに聴かせてみたんですね。彼とは共通したスキルやテイストがあるんで、聴いてみて何か思いつくようだったらやってみて、と。そうしたら「なんかできそうです」というので、お任せしました。僕としてはもうできあがってるつもりだったんですけど、けっこう足してくれましたね。


――これもまりんらしさが出てますね。


テイ:そうかもしれない。テーマや構成などは変わってないけど、僕ひとりでやったものとは全然違うタッチやディテールに仕上がってますからね。それでも「共作」とまでは行かないと思うから"Additional Programming"なんですけど。


――LEO今井にしろ、そういう風に最終段階を人に委ねてしまうことはよくあるんですか。


テイ:たまにありますよ。自分のやろうとしてることを共有できるスキルやセンス、信頼感のある人って少ないんですよ。まりんはどう思っているのか知らないけど、まりんとか、何曲かミックスしてくれたNYのAyumi Obinata君とか。そういう人たちには信頼して頼むことができる。そして、全部自分の手で打ち込んですべて自分がコントロールした音だけだったら、聞きたくなくなっちゃうと思うんですよね。


――あ、そうですか。


テイ:ええ、なんか…どこかヴァーチャルなバンドというか。そういう要素がほしい。予算がないから全部自分でやるというのもありだけど、僕は結果がよければいいと思っているから。


――テイさんは何でも自分でやろうと思えばできる。けどそこであえて他人の要素を入れてみたい。


テイ:そうですね。「FLUKE」とか6チャンとか8チャンしかないから、自分でも(ミックスを)やれるんですけど、そこでObinata君に委ねて「何か足したいものがあったら足して」と。「別に足したいものはないけど、ミックスをやらせて」と言うので、やってもらって。メールであれこれやりとりしながら完成したんです。つまり渡したマルチ・トラックでコミュニケーションができるってことじゃないですか、僕と彼の間では。長年聴いてきた音楽が一緒だったりとか、付き合いだったりとか。まりんも同様なんです。そういうのがある。


――マルチトラックを通した会話。


テイ:そうそう。


――面白いですね。バンドがセッションするのに似ていますね。


テイ:そうですね。高橋幸宏 & METAFIVEもそうですし。


――そこがテイさんの音楽が軽やかで開放的で風通しがいい理由かもしれません。一人ぼっちでやってるよりは、いろんな人とやったほうが刺激も受けるし、その人のアイディアで曲が思いも寄らない方向に展開することも。


テイ:そうですね。詞も曲もやるようになったけど、コントロール・フリークになりたいわけじゃない。一時のポール・マッカートニーみたいに全部ドラムまで叩くのもいいけど、僕は作品がよければ、ひとりでやることにはこだわらない。まりんもLEO君もObinata君も、そもそもテイ・トウワのソロ・アルバム用の曲だからっていう気楽さはあると思う。だから最後のジャッジは僕がしなきゃいけないんだけど、そういう風に気楽にできる良さってあるんじゃないかな。他人の曲だと面白いアイディアも出てくるし、ラクにできちゃうこともあるんですよ。自分のアルバムだと10年かかったりするでしょ、まりんとかさ(笑)。


――(笑)まさに…。


テイ:とっとと出せっていつも言ってるんですけどね(笑)。だから僕はどうやったら自分の曲をより多く仕上げて聴けるかなって考えてますね、最近は。


――自分ひとりで作ることにこだわって時間がかかるよりも、ほかの人のアイディアも取り入れてたくさん作ったほうがいい。


テイ:そう。でもそれは周りを気にすることじゃない。今のトレンディなクラブ・ミュージックとかハイプとか、どうでもいいやって。


・「自分の一番のメリットは、ミュージシャンとしてひどいところ」


――でもトレンディなものに関心ないといっても、ちゃんと新鮮な今の音になってますよね。


テイ:うん…まあなんだかんだいろんなものは聴いてますけどね。ただまあ、アンテナを巡らせて貪欲に取り込んでいくよりも、錆び付いたアンテナでも入ってくるものだけに関心もてばいいかなって思うようになりました。


――そこでは<テイ・トウワらしさ>が求められますね。自分らしさってなんだと思います?


テイ:うーん…まあミュージシャンじゃないところじゃないですかねえ。


――楽器がうまいとか歌がうまいとか理論に詳しいとか、そういうところで勝負してないってことですか。


テイ:うん、たぶん。音楽のスキルとかセオリーで言ったら、僕は何も知らないですよ。楽譜もコード譜も読めないし。そこらの音大生のほうがよっぽどよく知っている。でも彼らがみんな僕より音楽で稼いでいるかっていったら、そうじゃないでしょう。


――それを言ったら身も蓋もないですよ(笑)。


テイ:それに…僕はどの曲もミックスまで含めて、僕なりのバランスで具体的に考えることができる。実際に手を動かさなくてもね。自分のイメージの音が頭の中で鳴っている。常に抽象的な色とか重さとか匂いとか意識して作ってるんですよ。そういうことを歌詞にしたのが「SOUND OF MUSIC」なんですけどね。もっと濡らしたいとかもっと広げたいとか、考えて作ってる。よく僕の曲から「絵が浮かぶ」とは言われますけど、それが何の絵であるかはどうでもいい。赤い鳥のイメージだったとしても、それを伝えたいわけじゃない。ただそれぞれの曲ごとに自分なりのヴィジョンがあればいい。だから…ジャケなんかも、好きな音楽の話とか好きな絵の話とか五木田君(本作のアートワークを描き下ろした)として。『LUCKY』 の次だから「CUTE」ってタイトルにしたんだよ、とかそういう話をする。僕の曲は「CUTE」って感想を言われることが圧倒的に多いんですよ。そういう理由もあるんですけど。YMOの『BGM』は最初『CUTE』ってタイトルだったらしい、『BGM』じゃなくて『浮気なぼくら』だったかな、とかね。そういう話を彼として、じゃあ今なりの『CUTE』をやろうと。それでできあがったのがこのジャケの絵ですね。


――音楽理論ではなくイメージやヴィジョンで曲を描いていく。つまり聞いた質感とかテクスチャーを重視する。


テイ:今は周波数からアレンジを作っていくこともできますね。それこそディー・ライトのころはそこまで耳はできてなくて、感覚としてなんとなく「このへんの音はいらないなあ」と思いながらやってた。今は「(周波数的に)ここにUA(の声)があるから、そこの音は外してこっちとこっちへ持っていこう」とか、そういう周波数を考えた上でのアレンジをするようになった。あれも入れたいこれも入れたいとケンカしてた部分を、エンジニアはロジカルにジャッジしてくれる。たとえば一番ローが鳴っているとこころはばっさり切ってるんだけど、聴覚の錯覚を利用して、このへんをあげておくとローが十分鳴っているように聞こえるとか。ここを切ると歌とかぶらないとか。ローばかり出していくとマスキングでもやっとした音になって歌が聞こえにくくなってしまうとか。そうすると音圧が稼げなくなっていく。そこらへんのスキルがいろいろあるわけです。そうして音をレイヤーにして重ねていったり引いていったり。


――なるほど。


テイ:そういう発想ややり方は僕、好きですし礎になってると思うんですけど、ただ、そこから抜け出したいというのも近年あって。そんなことよりも詞だったり、その曲で一番言いたいことって何だろうってことを考えるようになったんですね。


――音のレイヤーではなく歌詞で伝えたいことも大事だと。


テイ:そう。同時に、歌詞なんてどうでもいいと思ってるところもあります。さっきの「NOTV」じゃないですけど。好きな曲だからって歌詞で聴いてるわけじゃない。だいたい聴いてないですね歌詞。若いころよりはいろんなことを自分でやるようにはなってきたし、歌詞も自分で書くようになってきたけど、それでも自分で歌いたいとは思わない。


――自分の書いた歌詞だったら自分で歌ったほうが伝わるとは思いませんか。


テイ:伝える/伝えない。伝わる/伝わらない…うーん…でも自分の一番のメリットは、ミュージシャンとしてひどいところだと思いますよ。世界最低のミュージシャンだと思います。そこに自信を持っている。


――ミュージシャンとして不完全だってことですか。


テイ:早く人間になりたーいっていう(笑)。自分が足りないおかげで、こうしていろんな人たちとやれている、というふうに捉えてます。自分を高めてくれる相手とね。考え方ひとつなんですよ。音楽との付き合いでいえば、僕は16歳ぐらいからずっと手は動かしてるんで相当長いですけど、やっとフォーマット完了、芯ができてきたかもな、っていうのが『LUCKY』ぐらいからですよ。さっきも言ったように、アンテナを張り巡らせて作るような音楽とか、はやりを分析して真似てるような音楽はもう他人事で、どうでもいいやと。もちろんその都度いいなと思ったり、入ってきてひっかっかった音楽を自分なりにフィルタリングして公約数を見つけていく作業はあるんです。でもその音楽を見つけていく努力とか作業はあまりしなくていいかなっていうのが21世紀以降、『FLASH』以降。


――でも情報に左右されないとはいっても仙人が作ってるわけじゃないし。


テイ:軽井沢に引っ越した時に、どこぞの仙人みたいになっちゃうんですかねえって、だいたいのジャーナリストに言われましたけど、そんなわけない(笑)。自分がもっと音楽好きでいるために、音楽を作りたい自分でいるために(軽井沢に)行ったんだから。リファレンスのない音楽というか、それを自分なりに聴きたい。マーケティングで作られた音楽は、それはそれとして。今は自分の聴きたい音楽を作ることしか考えてない。そのためには、もっとエクストリームに生きたい。


――エクストリーム?


テイ:UAみたいにいきなり沖縄行っちゃったりね。こういう仕事だし、朝一番で温泉いけるような身分でいられる。でもその分なんの保証もないし、100%リスクといえばリスクですよ。でも無難に安全運転してるだけの生活じゃ、音楽を作るモチベーションが湧いてこない。もっと破天荒な人間にならなきゃと思います(笑)。


――そう思うってことは、テイさんは真面目な人ってことですね。


テイ:自分のいいところは、ダメなミュージシャンなところだと思うんですけど、自分がダメなオトナだと思うのは、そういう、野心がないというか欲がないところでしょうね。


――ディー・ライトでデビューして、いきなり世界的な大ヒットを飛ばしてスーパースターになってしまった。キャリアの最初で、ミュージシャンが抱くような野心をすべて満たしてしまったから、今さら商業的な成功はモチベーションとなりにくい。では何をモチベーションにするか。


テイ:そうですねえ…やはり作り続けること…ですかねえ。数字とかには疎いし興味もないですけど……やっぱり「音楽が一番CUTE」(CD帯のコピーより)なんですよ。みんな買わなくなったというけど、なんだかんだいって音楽は拡散力あるし、意外なところで意外な瞬間に聞こえてきて。飽きないですよね。それをやり続けたいし聴き続けたいし作り続けたい、という。僕がいなくなったあとも息子や孫に聴けるものを残せる。こんなものもやってたんだっていう証を残せる。それが音楽の魅力なんですよ。


(取材・文=小野島大)