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LAMP IN TERRENが見出した、曲を作って唄う意味 「聴いてくれる人たちに未来を照らすような作用を与えたい」

2015年06月30日 23:01  リアルサウンド

リアルサウンド

【左から】川口大喜(Drums)、松本 大(Vocal & Guitar)、中原健仁(Bass)

 LAMP IN TERRENのニュー・アルバム『LIFE PROBE』は、このバンドの粋が集約されたかのような力作となって姿を現した。自己の内面の葛藤や苦悩、それらを少しでも未来へつなげていこうとする松本 大の歌に宿った文学性。そしてその歌をしっかりと支え、豊かな表現を見せるリズム隊。今年期待のバンドの筆頭格に名前が挙がる彼らだが、それに見合う以上の作品を作り上げてくれた。


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 4年前の上京後に現編成になり、そこから活動が本格化したわけだが、翻ればそれ以前、長崎での中高時代に原点を見ることができるこのバンド。ここまでかなりの思考錯誤をくり返してきたぶんメンバー同士の絆は強く、インタビューの場で松本が話をどんな抽象的な方向に振っても、中原と川口は当たり前のように話についてくる。そしてお互いの思考や感覚に齟齬もない。その一体感は、彼らのライブとちょっと似ていると思った。


 3人はこれから多くのドラマを見せてくれることだろう。その最初の段階の、2015年の夏に見せてくれた赤裸々な思い。LAMP IN TERREN。今、ぜひともあなたの心の中に刻みつけてほしいバンドである。


■「今、自分ができる最高のもの、全部出しきれたなと思う」(中原)


――アルバム、すごくいいですね。


松本 大(以下、松本):ああ、ありがとうございます。手応えはめっちゃあるんですけど……。「最高傑作ができた!」って思いましたけど、完成して1カ月ぐらい経ったら、そろそろ自分に足りないところが見えてきましたね(笑)。「ああできたな、こうできたな」と。


――そうですか。ふたりはどうですか?


中原健仁(以下、中原):はい、今、自分ができる最高のものができたなって。全部出しきれたなって思います。


川口大喜(以下、川口):同意見ですね。今できることが全部できた、という感じです。


――わかりました。アルバム全体としてはどういうものにしようと思ってました?


松本:いろんな景色が見られるような曲を集めたいな、というのがありましたね。前回のアルバム(『silver lining』)は“昔から今に至るまでの僕ら”という感じだったんですけど、ここからは“今の自分たち”という名目で作りました。根本に歌があるのは3人とも変わらないので、それでどんなふうに表現できるのか……いろいろ考えながら曲を作りましたね。たとえば頭の中に見える映像をそのまま曲に落とし込んでみるとか、この世のよくわからない現象のことを歌にしてみるとか。僕だから唄えること、僕らだからできることをちょっとずつ探しながらやってたかなというのはあります。


中原:松本なりの切り口がいろいろあって、自分の小学生時代のことからインスピレーションを受けたり、自分の見た夢の話から歌詞を書いたり。そういう作品が多いですね。


――音作りではどんなことを意識しました? 「こういう歌だから、こういう方向性で行こう」というのをメンバーで共有しながら?


松本:言わなくても、なんとなくわかってたよね?(笑)。出してきた音で「それだよ!」「問題ない、そのままやれ!」みたいな。


川口:うん。音作りでは、そんなに悩んどらんね。


中原:「こういう歌詞のこういう曲だ」という話はたまにするんですけど、それ以外はあんまりなくて。でも(松本は)ダメなものはダメって言ってくるんで。自分も「これでいい」と確信してるものがあるし、それを認めてくれる感じがあったので、迷わなかったですね。


――その話があった曲というのはどれですか?


中原:4曲目の「reverie」が夢の話だというのは、ずっと聞いてたし。この曲は雰囲気を出せて、歌も前に押し出すことができたなと思います。10曲目の「ワンダーランド」は最初スタジオに入ってジャカジャカ音を鳴らして作ってったんですけど、その鳴らしてる時点ですごく楽しくて。「めちゃくちゃなことをやっていい曲なんだ」「この曲はバカになろう」って感じで作っていきました。


川口:7曲目の「into the dark」は暗い雰囲気で、でもその闇の中に渦巻くエネルギーみたいな表現をタイコでできてるかな、と思います。


松本:たぶん一番大変だったのは「イツカの日記」だよね。


川口:そう、だって「イツカの日記」は20代が叩くテンポじゃないよ(笑)。でも一番時間がかかるかなと思ったら、すぐ終わったんですね。寝起きでやったんですよ。朝一発目でやったら、うまくいった(笑)。


中原:あとは6曲目の「王様のひとり芝居」は、基本的にずっとワンフレーズのくり返しなんですけど、ああいうノリの歌ありきでできるな、と思いました。俺、けっこうエレクトロとか好きで、ワンフレーズがループしていく音楽が好きなんですけど、それがこの曲でできましたね。新しいことができました。


川口:でも(曲については)あんまり話してないよね。具体的に「この曲はどういった内容で、どういう感じで」とか聞く前に、普通に聴いて、直感でやったやつが最終的にOKテイクになるっていう。それでこれまでやってきたから、ね?


松本:「緑閃光」もそうだったからな。


■「面倒くさい人間関係、そういうのを初めて乗り越えてこれたバンド」(川口)


――なるほどね。つまりそれだけの関係性がすでにあるバンドだと思うんですけど、ただ、始めたばかりの頃は、やっぱり今みたいな感じではなかったですよね?


松本:そうですね、うん。ほんとに始めた頃だと「音楽をやりたい」という思いのほうが大きすぎて、それ以外の感情はどうでも良かったと思います。「楽しいよね? やってるのが。以上!」みたいな感じ。だけど、やればやるほど慣れというものが出てきて、余裕ができるから、よけいなものが見えてくる。だからイヤなところも見える……。そこで今度は「ここの部分を俺たちは一生懸命やりたいんだよね」っていう話をして……メンバーのイヤなところまで見えてきたけど、そこで付き合い方も見えてきて、次にまた、ほかの余裕ができてくるっていうサイクルがある。


中原:その連続で、どんどん自分の陣地が拡がってくというか。お互い、足を踏み入れられる場所が増えてきましたね。


――川口くんは途中からの加入なんですけど、バンドに入った頃は、やっぱりその楽しさが大きかったですか?


川口:うーん、俺、中3の終わりからずっと何かしらバンドをやってて、途切れたことがないんですよ。だけどこのバンドに入って、一番……いい意味で苦労した感じですね(笑)。長くやってくと、面倒くさい人間関係が出てくるじゃないですか? そういうのを初めて乗り越えてきたバンドなんです。ここまで濃い人間関係はしてこなかったっていう。


松本:こいつはほんとに他人と距離とるのが上手なんですよ。絶対に近づいてこない。近づこうとすると、「いやいや……」って。


川口:(笑)なるんですよ。「いやいや」って。


松本:で、中原は中原で、どこかしらで壁を作ってるんです。このふたりは、ほんとに距離の取り方が難しくって……俺もか?


川口:(笑)当時のお前もだよ!


中原:でも一番ガンガン踏み込んでくる人ですね、大は。「うまいことやっていこう」みたいなものじゃなくて、単純に「自分がそうしたいからそうする!」みたいな。


松本:そう。「自分のためにある!」。


中原:「彼は考えて踏み込んでくる人じゃないな」みたいな。だから僕らが3人ともつながれたのかな、という気もするんですけどね。


川口:ほんとに、もうガツガツ踏み込んでくるんですよ。入ってくるんです。で、こっちは距離とってるんですけど……「こいつ、人間関係、ヘタくそか!」と思って(笑)。


松本:いや、考えてないわけじゃないんですよね! ただ、誰かのために何かやるってのが、あんま得意じゃなくて……「結局は自分が良く思われたいからでしょ、それ?」みたいな考え方になっちゃうんです。だから「私は自分のためにいろいろやっております!」みたいなことを最初から頭に置いてズカズカ行っちゃうのかな(笑)。そう、だから「俺がこうすることでお互いに気持ち良くなれるんだったら、それはみんな、いい関係だよね!?」みたいな感じになっちゃうんですよ、いつも。


川口:(笑)昔っから「自分!」なんですよね。それが強すぎるから中学校、高校の頃とかは、うまくいかないことがあったみたいなんですけど。でも結果的にそっちのほうが(松本とは)ちゃんとした、ムリのない関係を作れるんですよね。絶対に。それがバンドの中でもできてるっていうのは、いいなと思いますね。


松本:でも「この人、この関係性じゃダメなんだ?」と思ったら変えますけどね、ちゃんと。ただ、自分の心の中で「この距離感にいる人は、この人じゃないとダメだ!」みたいに、自分の周りをどんどん決めてっちゃうんですよ。だからたとえば「付き合った人とは結婚しないとダメだ!」みたいな考え方にもなるんです。で、「俺のバンドでドラム叩いてるのはこいつじゃないとダメだ!」とか思っちゃうんですよ。


――なんとなくわかる。だって曲を聴いてて思うけど、他人に対する気持ちがものすごく強いですよね?


松本:ああ、そうかもしれないですね。はい。


■「自分という存在を認識してくれる誰かがいるから、自分として存在できる」(松本)


――で、このアルバムの歌詞には「ひとり」という表現が多いですよね。そのニュアンスは、自分ひとりという意味だったり、孤独感という意味だったりはするけど、いずれにしても、あなたが自分の内面に向かって作ってきたんだなという気がするんです。


松本:うん……というか、「ひとり」という表現が自分として認められるものだな、って思えたんですね。アルバム作ってる途中で。たとえば、この世界に誰もいなくって、もしも僕がひとりだけでこの世界の上に立っていたら、そのひとりという概念すらどうでもよくなっちゃう。色もないし、誰と話すこともない、誰と関係をとることもないけど、これだけ世界に人がいる……自分という存在を認識してくれる誰かがいるから、俺は自分として存在できる。だから、ひとりというものが、ものすごく肯定的に思えたんですよ。だから僕の中では、だいぶポジティブです。


――あ、そういうことなんですか?


松本:はい。だから……「ひとりになりたいな」じゃなくて、最初っからひとりであることには変わりなくって。その……こうやって人と話した時点で、僕という存在は絶対に存在してるし。自分の証明をするということは、それを認識してくれる相手がいることを証明することにもなるから、「ひとり同士」という表現の仕方が一番しっくりくるなと思ってて。だからライブをしていれば、歌を聴いてくれる人がいるという時点で俺の存在証明にもなるし、みんなの存在証明にもなるし……それが「幸せだな」と最近は思いながらやってます。大きくなりたいですね(笑)。


――なるほどね。でもその中で、さっきも言ったけど、あなたは他人に求めるものが大きそうじゃないですか。裏を返すと、人間関係の中でそれだけ裏切りだったり悲しみだったりを感じてきたのかな、という気がするけど。


松本:うん……そうですね。とくにここ1、2年はすごく多かったです。大会で優勝したとか、メジャー・デビュー決まったとかあったんですけど、身近にいた人がありもしない噂を流しまくってたり、友達だと思ってた人が裏でものすごい言いようだったりとか、ありましたね。まあツラかったですけど、「そうなるべくしてそうなったのかもしんないな」と思うと、自分のせいでもあったなと思うんですけどね。


――ああ、そう思います?


松本:「なあなあで仲良くしてきたからそういうふうになった」とか、「ちゃんと見てやれなかったから、そういうふうになった」とか。あとは「自分の言動が良くなかったのかなあ」とか……だから裏切られるとか嫌われるとかがあった時に、僕はその人のせいだけだとは思えなくって。いつも。自分が何かしら影響してるから、そういうふうに言っちゃうんだろうなって……だから、自分のことを見つめ直す、いい機会になりましたね。うん……。だから「相手のために何かしよう」って思う時も、いちいち、ちょっとずつ考えるようになりましたね。「ほんとにこれでいいのかな?」とか、「これがもたらすものは何だ?」とか、その先を考えながら人づきあいをやるようになったかな、最近は。


――うーん、そうですか。そこで相手に対するいらつきにはならないんですか? 「あんな奴だとは思わなかった」とか「こっちはこんなに思ってるのに、そんなだったのか?」とか。


松本:いや、言いたくなりますけど、でもその瞬間に虚しくなるんですよね。そういうふうに考えちゃう自分すらも。「あいつ、そんな奴だと思わなかったよ!」という考えがパッと出てきた瞬間に「誰のせいでそうなったんだろうね?」っていう考えに変わっちゃうんですよ。そこから自分でどんどん掘り下げてっちゃって、「結局あの時の自分の言動がいけなかったのかな」とかになっちゃうんですよね。「だったらあらためなきゃいけないな」とか「それは申し訳ないことをしたな」と思う時もあるし。でもこれも経験しないと、こういうふうには思えなかったんで……。こいつらとケンカした時もあったんですよ。で、その場ではめっちゃ言い合いもしましたけど、結局ものすごい反省しましたからね(笑)。「ああ、あれは良くなかったな」「あの言葉は良くなかったな」とか。


――そうなんですね……何でそこまで自分で反省しちゃうの?


松本:何でだろう(笑)……いや、でも……イヤなんでしょうね、基本的に。嫌われたりするのが。誰かと生きていたいというのが、すごくあって。誰かがいないと自分にすらならないというのがあって……。


――ああ、それはさっきの話と同じですね。


松本:うん、つながってくるんですけど。でも……できれば笑ってたいんですよね。みんなで。それが、相手の笑顔を見てるだけでも、自分のためになるんです。だから自分のためにも笑わせる、ということにもなるんですけど、「できれば自分が見る世界は笑顔の人が多いほうがいいな」っていう。悲しい顔をしてる人をあまり見たくないんですよね。だから……できれば笑ってたい。俺は。よけいなお世話かもしれないですけどね、これは。


中原:俺もそうなんだけど……その人と一対一の間で、すごいモヤモヤして、「何だよ?」って思い続けてたって、しょうがないじゃないですか。もし、また別の人と同じことになった時に、そこで「何だよ?」って思ってるだけだったら、何も得られてないし。環境を良くしたいんだったら、自分が変わっていくしかないんですよね。自分の人生の上では。だから自分が変わろうと思うんじゃないですかね。


松本:……だいたいそんな感じ!(笑)


■「聴いてくれる人たちの未来を照らすような作用を与えたい」(松本)


――なるほど、わかりました。あと、アルバムを聴いててもうひとつ心に残った言葉が「未来」という表現なんです。これからの未来について、どんなことを感じてますか?


松本:うん……それについて今言われて、これはバンド的なテーマに基づくものだと思ったんですけど……LAMP IN TERRENは「この世のかすかな光」という意味のバンド名なんですね。バンド名をつけた時に、僕はたぶんふたりに「命のともしびのことだ」という話をしたかなと思うんですけど。


中原:うん、言ったね。


松本:ここにあるのが、ひとりの命のともしびだけだったら、遠くから見れば小さなものだけど、それが集まれば大きな光になれる。その光は誰もが持ってると思うんです。命のともしびですからね。全然先のほうは見えないけど、そのともしびを頼りに前に進むのが自分としてはいいなって思うんです。だから「この音楽を聴いてくれる人の足元を少しでも照らせたらいいよね」とか、「未来がちょっとでも怖くなくなればいいよね」と、ずっと思ってたところがあって。それを渡そうと思ったというか……。


――ああ、今度のアルバムでは?


松本:はい。今までは自分から自分に唄ってたものがものすごく多かったんですけど、今回のアルバムは自分の歌の先にちゃんと自分以外の誰かがいるんですよね。届けたい相手がいるんですよ。その聴いてくれる人たちに、未来……まったく見えない未来を照らすような作用を与えたい。聴いてくれる人がそう思ってくれたらいいなあ、というのがあったんです。そしてアルバムを作ってみて、そういう、相手の証明になるような、大きなものになりましたね。だからそこは『LIFE PROBE』というタイトルにもつながってくるんです。インディーズの一番最初の『PORTAL HEART』というアルバム・タイトルは<心の星>とか<心の街>という意味なんですけど、今回はそこまで飛びたいと思って、そのロケットを作ったみたいな感じなんです。だから相手の心の星まで飛んでいきたい、その先の未来まで飛んでいきたい……っていう気持ちがものすごく詰まってるアルバムになってると思います。


――そうですね。このアルバムの曲たちって、いろいろ思い悩んだり苦しんだりしてるけども、それでも先を見ようとしてるもんね。今のこのバンドのいいところが詰まった作品だと思います。


松本:照れますね。恐縮です。


――そしてこのインタビューでも赤裸々に話してくれて、感動しています。


中原:どうもありがとうございます!


松本:ああ、ありがとうございます! でも今は何でも話せますね、ほんとに。自信があるし!(青木優)