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A.B.C-Zは少年隊の正統後継者となるか? ディスコティックな2ndアルバムの狙いを読む

2015年06月29日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

大谷能生、速水健朗、矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)

 歌って踊るという行為は、それだけで魅力的だ。ミュージカル起源であるジャニーズの本領は、ステージ上の華やかな歌と踊りにあると思っている。その意味で、みんなで成長を見守るような女性アイドル的なありかたとは、はっきり区別されなければならない(女性アイドルも多様なので、大雑把なくくりかたではあるが)。拙共著『ジャニ研!』(原書房)における「ジャニーズの最高傑作は少年隊である」というテーゼは、ジャニーズ史上、少年隊こそがステージ上でもっとも圧倒的なパフォーマンスを見せていたという考えによる。SMAPも嵐など他のジャニーズ・グループも、それぞれの魅力について否定する気はまったくないが、ジャニーズの本質のようなものを考えたとき、ステージ上で圧倒的な歌とダンスを見せた少年隊は、やはり「最高傑作」と言うべきである。では、少年隊の後継に位置付けられるものはいるのか。


(参考:嵐の楽曲はどう“面白い”のか? 柴 那典×矢野利裕がその魅力を語り合う)


 デビュー当時のSexy Zoneのライブを観たとき、そのナチュラルな華やかさに少年隊的なドレスアップの美学を感じて、好感を持った。少年隊的な、それこそ「仮面舞踏会」的なドレスアップ感を引き受けられるのは、つまりジャニーズの正統にあるのはSexy Zoneなのかもしれないと思った(このことは、本連載でも一度言及している)。そうか、少年隊の華やかさはここに引き継がれていたか。そんなことを思っていたら、ゲストとしてA.B.C-Zの面々が登場した。彼らは、Sexy Zoneとはまた違ったステージ映えをしていた。とくに塚田僚一の連続バック転は大迫力で、少年隊の遺伝子をはっきりと感じた。そもそもA.B.C-Zという名前自体、少年隊の曲名を想起させるものだ。アクロバットを売りにされているA.B.C-Zに対しては、高いクオリティで歌って踊る少年隊の姿が重なる。


 A.B.C-Zのセカンドアルバム『A.B.Sea Market』は、全体的にディスコティックである。冒頭の「Shower Gate」からすでに、うねるベースとカッティング・ギターがファンキーに鳴り響いている。まるで、往年の山下達郎の曲のようだと言ったら、言い過ぎか。いやしかし、サビはそのまま「Spring Summer Autumn and Winter and You!」(「湾岸スキーヤー」)と歌えそうな勢いである。あるいは、アレンジのキラキラ感が「Funky Flashin’」のようである。そう、つまりは、とても少年隊っぽいのだ。もちろんアルバムには、ディスコでない曲も収録されている。しかし、冒頭「Shower Gate」と最後から2曲目の「SPACE TRAVELER」というポイントとなる場所には、ディスコのアップデートを明確に意図した曲が並んでいる。また、「Stay with me」(橋本良亮)などその他の曲においても、アレンジの仕方にディスコ~R&Bへの目配せを強く感じる。


 興味深いのは、このようなディスコ・ミュージックのアップデートが、昨今のジャスティン・ティンバーレイク、ロビン・シック、ファレル・ウィリアムス、ブルーノ・マーズ、メイヤー・ホーソーンなどといった、イキのいい男性R&Bのシーンと足並みを揃えているように見える、ということである。本作はそのような、世界的なディスコ再評価という大きな動きのなかでも捉える必要があるかもしれない。もちろん、ファレルっぽい曲は例えば嵐などにもあったが、本作には、単に流行の意匠を取り入れる以上に、本気でブラック・ミュージックを自分たち流に再解釈しようという姿勢がある印象を受ける。だとすれば、「どこまでHappy!」がモータウン風であることは、ブラック・ミュージックを本格的にコンセプトの一部に取り入れるということなのか。もしそうなら、シュプリームスの曲名を拝借した「In The Name Of Love~誓い」という曲がかなり意味深いものにも思えるが、これは考え過ぎだろう(この曲は、全然モータウンではないが)。


 いずれにせよ、少年隊のフォロワー的存在が、ディスコ・アップデートという世界的な流れのなかで、本作のようなディスコティックなアルバムを出したことは、特筆すべきことである。作品というのは、さまざまな文脈の重なりのなかで生まれるものなのだ。(矢野利裕)