オーストリアGP決勝日の午前中、FOMモーターホームの前で、フォーミュラワン・グループの最高経営責任者であるバーニー・エクレストンを囲んで非公式の会見が開かれた。レース前の慌ただしい時間だったにもかかわらず、多くの記者に囲まれたエクレストンは、饒舌に持論を展開した。
その会見は、大手通信社がエクレストンが「F1はガラクタになった」と発言したという情報を流したことについて真偽を確かめようと急きょ開かれたもので、エクレストンは「私はそんなことは言っていない」と即座に否定。一方で「とはいえ、いまのF1には多くの問題がある。特にスポーティングレギュレーションには見直すべき点が少なくない」と語った。
さらに、エクレストンは別の話題にも触れた。レッドブルが撤退するのではないか、あるいはフェラーリのパワーユニットに変更するのではないかと噂されている件についてである。
まず、エクレストンは「レッドブルが現在のF1に愛想をつかして、F1から撤退するのではないか」という問いを、はっきりと否定した。
「レッドブルが撤退するなんていう事態は起きない。なぜなら、私はマテシッツを非常によく知っているからだ。彼が不満を言っているのは、自分たちに責任はないということをはっきりさせたいだけだろう」
そして、得意のエクレストン節が炸裂した。
「彼らは、愛が冷めて離婚を望んでいるのではない。新しいガールフレンドが欲しいだけだ」
新しいガールフレンドとは、ルノーがトークンを使用して改良したパワーユニットとも考えられるが、別な見方もできる。レッドブルが、現在ライバルメーカーであるフェラーリのパワーユニットを欲しがっているという意味だ。
背景として、カナダGPを訪れていたフィアット・グループとフェラーリの会長を務めるセルジオ・マルキオンネが、レッドブルでモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコにパワーユニット供給の打診をしていたという事実がオーストリアGP直前に明らかになっていた。
その後、レッドブルのオーナーであるディートリッヒ・マテシッツは、レッドブルがパワーユニットをルノーからフェラーリに変えるという噂を否定したが、日曜日のエクレストンの発言で再燃している。
エクレストンの会見後に、マルキオンネがレッドブルリンクに到着。フェラーリ会長はイタリアのメディア限定で取材を受け、「レッドブルへパワーユニットを供給する意思がある」と語った。
エクレストンは、次のようなことも言っていた。
「ジャングルにいるとしよう。そこで体調を崩したので『心臓にくわしい外科医を呼んでほしい』と言っているのに『いい歯科医なら知っている』というやりとりを行っているのが、いまのレッドブルとルノーの関係だ。レッドブルはコンペティティブなパワーユニットを探している」
エクレストンは「ルノーは自分たちが何をすべきか理解すべきだ。いまのパワーユニットは彼らには少し複雑すぎたのだろう。金の問題ではない。人材の問題だ」と、ルノーを批判している。これらの状況を考えると、レッドブルが求めている新しいガールフレンドとは、フェラーリを指すと考えるのが自然だ。
「彼らは、愛が冷めて離婚を望んでいるのではない。新しいガールフレンドが欲しいだけだ」というエクレストン節を、私が翻訳するなら「レッドブルはF1から撤退したがっているのではなく新しいパートナー、パワーユニットを供給してくれるメーカーを望んでいるだけだ」と、なる。
つまりレッドブルとフェラーリの噂は、まだ続くだろう。ルノーはレッドブルとトロロッソにパワーユニットを供給しているが、現在の契約は2016年末まで。ルノーにはワークス活動を再開するという噂がある一方で、F1から撤退するという可能性もささやかれている。今週末のイギリスGPで、また新たな展開があるかもしれない。
(尾張正博)