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フォーミュラE最終戦レポート:僅か1ポイント差の劇的な決着。FE初代王者はピケJr.

2015年06月29日 06:40  AUTOSPORT web

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フォーミュラEロンドンePrix フォーミュラE初代チャンピオンに輝いたネルソン・ピケJr.
最後まで目を離せない、激しいバトルが続いたフォーミュラE第1シーズンの最終戦。レースを制したのはサム・バード(ヴァージン)だったが、初代チャンピオンには予選で雨に祟られたせいで16番グリッドに沈んだものの、そこから7位にまで挽回したネルソン・ピケJr.が輝いた。前日に行われた第10戦で勝利を収めたセバスチャン・ブエミ(e.ダムス・ルノー)は、5位でゴールしたものの、僅か1ポイントの差で涙を呑んだ。もうひとりタイトルの可能性を残していたルーカス・ディ・グラッシ(アウディ・アプト)は6位、山本左近はリタイアに終わっている。

 運命のフォーミュラE最終戦。予選の時とは打って変わり、上空には青空が広がり、まばゆい日差しが木漏れ日となってコース上に降り注ぐ。路面は、大方乾いている。

 そして迎えたスタート。アレックス・フォンタナ(トゥルーリ)が大きくスタートミスし、後方へ下がる。ブエミはブルーノ・セナ(マヒンドラ)を抜いてポジションをひとつ上げるも、若干の接触があったか? ディ・グラッシは9番手、ピケJr.は12番手に順位を上げている。

 ただし、ピケJr.のペースは上がらず、11番手を行くチームメイトのオリバー・ターベイから徐々に引き離されてしまい、5周目の段階では約6秒の差がつく。なおこの5周目、ファビオ・ライマー(ヴァージン)の右フロントフェアリングが外れて飛び上がってしまう。山本左近やダニエル・アプト(アウディ・アプト)らに当たりそうだったが、なんとかこれをかわして事なきを得た。

 7周目、ヤルノ・トゥルーリ(トゥルーリ)を攻めていた山本左近は、トゥルーリに追突。左近はこの事故でサスペンションアームを壊してしまい、そのままリタイア。左近はこれでフリー走行2回目、予選、決勝と、3セッション連続のクラッシュ、しかも2戦連続リタイアという、ほろ苦いフォーミュラEデビューとなってしまった。

 8周目を終えたところでニック・ハイドフェルド(ベンチュリ)がマシントラブルのため緊急ピットインし、早々にマシンを乗り換えている。

 11周目、ペースの上がらないピケJr.だが、他車と比べてエネルギー残量が多い。多くのマシンが残り30%を切っているところ、ピケJr.はまだ38%ものエネルギーを残しており、ピットインのタイミングを遅らせる戦略であることが明るみに出る。

 12周目、前と2秒近く離れていたブエミは、ファンブーストを使用。これで1分27秒839というこの時点でのファステストタイムを記録する。フォーミュラEでは、ファステストラップにも2ポイントが与えられることになっており、この2ポイントはチャンピオンを争うブエミにとっては非常に貴重だ。

 14周目、ポールポジションからスタートし、首位を快走していたステファン・サラザン(ベンチュリ)、ロイック・デュバル(ドラゴン)らがピットインする。ディ・グラッシもこのタイミングでピットインだ。ブエミは7%、ピケJr.は14%エネルギーを残しており、ここはステイアウトする。

 ブエミは15周目にピットイン。4番手でコースに復帰するも、ターン3で痛恨のスピン! 順位を6番手に落としてしまう。ピケJr.はこの周もステイアウト。先頭グループよりも2周も走行距離を伸ばすことに成功したのだ。

 続く周回でピケJr.がピットインし、10番手でコースに復帰。しかし、後方からはニコラス・プロスト(e.ダムス・ルノー)が迫ってくる。ピケJr.はアウトラップのターン3でリヤを滑らせながらもポジションを死守。さらにこの周、チームメイトのオリバー・ターベイがピケJr.を援護。1分27秒463を記録し、ブエミからファステストラップを奪い取ったのだ。

 19周目、ヴァージンのライマーがクラッシュし、セーフティカーが出動。隊列が詰まり、これでチャンピオン争いの結末はますます分からなくなってきた。そして22周目からレースが再開。ターベイとピケJr.のネクストEV TCRの2台が同時にファンブーストを使って前を追う。バードはデュバルを抜いて2番手に浮上。この間隙を突いて、デュバルのチームメイトであるジェローム・ダンブロジオ(ドラゴン)も3番手に上がる。

 23周目にはターベイがピケJr.にポジションを譲ってピケJr.が9番手に。ピケJr.はその勢いのままにアムリン・アグリのサルバドール・デュランまでもターン14でオーバーテイク! この時点で8番手に上がり、このままチェッカーを受ければ1ポイント差でチャンピオン、という位置まで追い上げてくる。

 25周目、そのままの位置にいてはチャンピオンにはなれないブエミが、ファンブーストを使ってセナに攻撃をしかける。しかし、セナのブロックは巧みであり、しかもブエミが通ったライン上には大きなデブリが落ちていて、オーバーテイクは不発。その後もブエミはセナを攻め続けるが、なかなか攻略できない。28周目にはブエミのノーズがセナのリヤエンドに完全に当たる位置まで攻め立てても、やはり抜けない。

 迎えた最終ラップ。20周目以降からのサラザンとバードの先頭争いも熾烈である。しかし、サラザンのバッテリー残量は残りわずか。それでも最後までサラザンがバードを抑えきり、トップでチェッカーを受ける。しかしサラザンのバッテリー残量は、チェッカーを受ける前にゼロ表示となっており、49秒加算のペナルティ。これでバードが第2戦プトラジャヤ以来となる2勝目を飾ることになった。2位にはダンブロジオ、3位にはデュバルと、ドラゴンの2台が2-3を占めた。

 気になるのはチャンピオン争いだ。最終ラップのターン15、ブエミがセナのイン側につき、ホイール同士が接触するサイド・バイ・サイド状態に。しかし、やはり抜けない。そしてそのまま6番目でチェッカー。ディ・グラッシ、ピケJr.と続けてチェッカーを受ける。サラザンにペナルティが課せられ、それぞれの順位はひとつずつ繰り上がったものの……結局ピケJr.が通算獲得ポイントを144とし、ブエミに1ポイントの差でフォーミュラEの初代王者に輝いた。ディ・グラッシは133ポイント獲得でシーズンを終了している。

 これまでの各レースも激戦だった。しかし、今回のレースは特に、各ドライバーが誇りとそして初代の王者をかけて戦った、最後までどうなるか分からない、激戦だったと言えよう。特にチャンピオンを獲得したピケJr.は、予選での降雨+赤旗中断という不利を受けながらも、クレバーの戦略と果敢なドライビングで追い上げ、チャンピオンをもぎ取ったのは見事と言うほかない。対するブエミは、アウトラップでのスピンが痛すぎた。あれがなければ、ブエミがチャンピオンだったはずだ

 これでフォーミュラEの第1シーズンが終了。次のシーズンからは、パワートレインの開発が解禁されることになる。また、DS(シトロエンの1ブランド)などの参入が発表されており、人と人の戦いに、より高度なテクノロジーの戦いが加わってくることになりそうだ。第2シーズンは、今年の10月に北京で開幕する予定である。