全米スポーツで一番人気を誇る、アメリカンフットボール。このトップに君臨する米NFLには「ルーニー・ルール」という規則があります。ヘッドコーチやゼネラルマネジャーを募集する際、最低1名はマイノリティグループの候補者を面接しなければならないとしたものです。
2003年の導入以前、NFLでは選手の多くがアフリカ系米国人であるにもかかわらず、黒人のヘッドコーチはわずか6%にすぎませんでした。しかしこのルール開始後には、この数が22%まで上昇したといいます。
このルールの名称は、リーグのダイバーシティ委員会議長ダン・ルーニー氏にちなんで名付けられたものですが、このルールを適用するIT企業が増えているそうです。英ガーディアンが紹介しています。(文:遠藤由香里)
インテル「従業員の多様性を高めるために採用」
「ルーニー・ルール」を自社の採用活動に活かせないだろうかと考えたのが、インテルの人事部門に勤めていたパトリシア・ムーリー氏でした。彼女はインテルの従業員が多様性に欠けていることを気にかけ、参考になる事例を探したそうです。
ところがIT業界の中にはこれといったものが見つからず、目を付けたのがNFLのケースでした。彼女はこの手法を取り入れることを社長のレニー・ジェームス氏に提案。導入を決めたジェームス氏はこのように述べています。
「インテルでは、面接をする度に最低1名のマイノリティグループからの候補者を入れるようにしています。もっと多い方が良いのですが、最低1名というのが、社内の採用マネジャーに出している指示です」
ルーニー・ルールを適用するためにはマイノリティグループからの志望者を増やさなければなりません。ある調査によると、女性の場合、企業が求める人物像に100%一致している自信がないと応募を控える傾向があるとのこと。
ソーシャルリクルーティングの会社を経営するポージャ・サンカー氏は、人事採用チームに多様性があることがポイントだと主張します。女性やその他マイノリティの応募者が、すでに働いている社員と出会う機会をつくることで、不安要素を減らそうとしているそうです。
フェイスブックでも。採用基準を下げるわけではない
すでに同様のルールを導入している会社も存在します。ソフトウェア会社社長ボニー・クレーター氏は、応募者の裾野を広げて多様性を確保するからといって、採用基準を下げるわけではないと強調します。
「誰でも良いから採用しよう、というわけではないのです。本当に良い候補者だけを取ることが大事です」
多様性を確保する方策といえば、採用するマイノリティの数をあらかじめ割り当てる「クオータ制」もあります。しかし「ルーニー・ルール」はあくまで面接の候補者に対して適用されるもの。必ずしも採用しなくても良いので、企業に受けられやすいようです。
先日、米フェイスブックが「ルーニー・ルール」を導入していることが報じられました。フェイスブックではおよそ10,000人の社員のうち、技術職の94%が白人かアジア人で、女性比率は15%だったとのこと。ルール導入でどのように変わるのでしょうか。
この制度を日本でも取り入れるとしたら、どうすればよいでしょうか。具体的には女性や日本国籍を持たない人がいたら、面接候補者に意識的に加えるようにする方法が考えられます。しかし、それ以前に「長時間労働に耐えられる男性正社員」のみを理想とした従業員像を崩す必要があるかもしれません。
(参照)Can the NFL playbook help solve tech's diversity problem?(The Guardian)
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