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ライブハウスにいちばん近いフェスーー『SATANIC CARNIVAL'15』が生み出したカルチャーと熱狂

2015年06月28日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

FACT/Photo by yuji honda

 PIZZA OF DEATH RECORDSが主催する音楽フェスティバル『SATANIC CARNIVAL'15』は、世代を超えた盛り上がりを見せ“新しい音楽カルチャー”の誕生を予感させるものだった。快晴に恵まれた6月20日、昨年に引き続き幕張メッセ 国際展示場 9-11にて、およそ10時間以上にわたって行われ、約1万7000人を動員。出演陣には、PIZZA OF DEATH RECORDS主催とあってメロコア勢が目立つが、主催の横山健とかねてより交流のあるロックバンドや、広く“ラウド系”と称される注目バンドが集結し、バラエティに富みながらも統一感のあるラインナップとなった。今回出演したのは、以下の23組(出演順)。


【SATAN STAGE】
OVER ARM THROW、ROTTENGRAFFTY、KEMURI、coldrain、MONGOL800、Fear, and Loathing in Las Vegas、Ken Yokoyama、10-FEET、FACT


【EVIL STAGE】
SHIMA(オープニングアクト)、Crystal Lake、BACK LIFT、BUZZ THE BEARS、WANIMA、HAWAIIAN6、RADIOTS、G-FREAK FACTORY、locofrank、怒髪天、The BONEZ、04 Limited Sazabys、GOOD4NOTHING、SHANK


 入場口からホールに降り立つと、向かって左側にメインとなる「SATAN STAGE」、右側に「EVIL STAGE」が配され、中央の空間にはバーカウンターや各スポンサーのアパレルブースのほか、東北復興支援ブースの写真展示やDJコーナー、さらにはスケートランプやボルダリングまで用意されている。奥には数多くのベンチが配置されており、ここでゆっくり休むことも可能だ。ラウドシーンと相性の良いカルチャーがぎゅっと濃縮されたその空間は、単に音楽だけを届けるのではなく、広い意味でのシーンをDIY精神で築いてきたPIZZA OF DEATH RECORDSならではのものだろう。


 午後11時、EVIL STAGEのSHIMAからライブがスタート。ハイテンションなパフォーマンスで同イベントの幕開けを告げ、リスナーたちも次第に温まっていく。続くCrystal LakeやBACK LIFTも熱演を披露し、EVIL STAGEもまた見逃せないステージであることを実感させる。そしてこの日、いちばん始めにフロアを爆発させたのはWANIMAだ。PIZZA OF DEATH RECORDS所属で、次世代メロコアバンドの筆頭とも目される彼らのステージを一目観ようと、EVIL STAGEのフロアは後方まで満員に。代表曲のひとつ「1106」を披露すると会場は大合唱に包まれ、ボーカルの松本健太は「いろんなフェスがあるけれど、SATANIC CARNIVALがいちばん好きです!」と、ステージに立ったことへの喜びを語った。


 一方、SATAN STAGEではすでにKEMURIが登場し、フロアを湧かせている。「Ato-ichinen」や「PMA(Positive Mental Attitude)」といった、90年代からのファンには懐かしい名曲も披露し、会場をポジティブなパワーで満たしていく。フロアには親子連れからティーンエイジャーまで幅広い年齢層のリスナーがいて、いまこのシーンが成熟期を迎えていることを感じさせる。


 続くcoldrainは、WANIMAやKEMURIといったメロコア勢とは異なる、新感覚のラウド系バンドだ。ダンサブルで攻撃的なサウンドでフロアを熱狂させるスタイルは、特に若い世代のリスナーを惹き付けた。その後は、MONGOL800が登場。新鋭とベテランをうまく織り交ぜたステージ構成は見事というほかない。MONGOL800が代表曲「小さな恋のうた」を披露すると、先ほどまでcoldrainで激しく踊っていたリスナーも、後ろでゆっくりと鑑賞していた親子連れのリスナーも、揃って合唱している。ボーカルのキヨサクはオーディエンスの盛り上がりを観て「いちばんライブハウスに近いフェス」と称していたが、この年齢層の幅広さで、この一体感を生み出すフェスはたしかにほかには思い当たらない。そんな『SATANIC CARNIVAL』への敬意を込めて、MONGOL800は最後に、Hi-STANDARDの名曲「NEW LIFE」のカバーを演奏し、ステージを去った。


 MONGOL800がSATAN STAGEを盛り上げる裏では、G-FREAK FACTORYもまた熱いパフォーマンスを繰り広げていた。「MONGOL800の裏だというのに、こんなに集まってくれてありがとう」といって、魂のこもったポエトリーリーディングを披露する茂木洋晃。その説得力のある言葉の数々に、オーディエンスが引き込まれているのがわかる素晴らしいステージだった。同じように貫禄のステージを披露したのは、怒髪天だ。「バンド名が漢字なのは俺たちだけだ」と笑わせつつ、「日本全国酒飲み音頭」などのユーモア溢れる選曲でオーディエンスを楽しませていた。


 同イベントの開催前、リアルサウンドで行った鼎談【怒髪天・増子 × 10-FEET・TAKUMA × G-FREAK FACTORY・茂木、これからのフェス文化を語る】にて、怒髪天の増子は「俺はフェスとかイベントって、やっぱりお祭りだと思うんだよね。ちゃんと意図が分かるお祭り。そういうもんであってほしいんだよね」と語っていた。『SATANIC CARNIVAL'15』はたしかに、出演陣はもちろん、ステージ構成や出展ブースまで、主催者側のコンセプトがしっかりと反映されており、ここでしかできない“お祭り”になっていた。オーディエンスの盛り上がり方がライブハウス並みになっていたのは、このフェスがただの見本市ではなかったことの何よりの証明だろう。


 バンド・Ken Yokoyamaとして出演した横山健は、「俺はこのフェスはほとんどタッチしていなくて、今回は一出演者として出ている」と自身のスタンスを表明し、同イベントがPIZZA OF DEATH RECORDSのスタッフが主導していることを告げたが、その根底にはかつてのAIR JAMのような音楽カルチャーとしてのフェスを生み出したいという意思があったはずだ。その意思を汲んでか、10-FEETのTAKUMAは「怪我はするなよ、でもその寸前まで行け!」とオーディエンスを煽る。ダイブもモッシュも禁止しないのが、『SATANIC CARNIVAL』のあり方だ。


 そして最後には、15年いっぱいでの解散を発表しているFACTが登場。この日の大団円ともいえるライブに、フロアは満員状態だ。海外でも支持される圧倒的な迫力のサウンドと、ライブパフォーマンスと一体となった映像演出、派手なライティングで、この日最後のライブを大いに盛り上げた。イギリス人のメンバーであるAdamは「世界中を観ているけれど、日本のシーンがいちばんすごいよ!」と語るように、この光景、この熱狂はきっと『SATANIC CARNIVAL』でしか味わえないものに違いない。


 今年で2回目の開催でありながら、その独自性を発揮し、人気フェスとして定着していくことを伺わせた『SATANIC CARNIVAL'15』。今後、同イベントがシーンを牽引していくことは間違いないだろう。(松田広宣)