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氣志團とドラマ『LOVE理論』の共通性とは? 「感じるな、考えろ!!」という批評的メッセージを読む

2015年06月27日 22:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『LOVE理論』公式HP

 春クールのドラマが次々と最終回を迎えているが、ずっと気になっていたのが、テレビ東京系で月曜の深夜に放送されていた『LOVE理論』だ。


(参考:AKB48、ももクロも出演 「氣志團万博」はなぜ規模拡大を続けるのか?


 笑える自己啓発本としてヒットした『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)などの著作で知られる、水野敬也の恋愛指南書『新装版LOVE理論』(文響社)を原作にドラマ化された本作は、田舎から上京してきた20歳の童貞大学生・今田聡(大野拓朗)が、意中の女子大生・桐谷怜子(清野菜名)を恋人にするために、キャバクラ『ピカレスク』の店長・水野愛也(片岡愛之助)から恋愛テクニック・LOVE理論を伝授され、一人前の男へと成長していく物語だ。


 形式は、『モテキ』(テレビ東京系)以降の“自意識過剰な童貞青年の成長ドラマ”なのだが、作りは情報バラエティに近く、先に自分の恥ずかしい話をすることで相手の恥ずかしい話を聞きだし新密度を高める「暴露返し理論」や、自分の服を女の子に選んでもらうことを口実にデートに誘う「ファッションマグロ理論」など、恋愛マニュアルとしても妙に説得力があるように見えるのが面白いところである。


 ただ、この種のドラマは個人的には苦手で、見る前は少し抵抗があった。それは自意識過剰な青年が、狼狽して恥をかく姿を突き放した目線で見せることで、見世物のように扱う傾向があるからだ。


 だから、劇中に主人公を導く師匠的存在が登場しても、最初は何も言わずに主人公が大失敗してから、説教するというパターンがほとんどで、その見せ方自体が、ダメなアルバイトの新人研修のようで、「失敗するってわかってるなら、最初にちゃんと説明しろよ!」と、ついつい思ってしまう。


 そういった後出しジャンケン的な説教自体、逃げ道を奪い、自分の教えを盲目的に信じるように仕向ける自己啓発セミナーのメソッドなのだが、『LOVE理論』が素晴らしいのは、主人公が失敗する前に、LOVE理論マスターの店長が先回りして、具体的なアドバイスをしてくれることだ。


 だから、LOVE理論そのもの以上に、自信のない若者に対して大人がどのようにアドバイスを送るのか。という見せ方の部分で感心することが多く、お色気要素満載のバラエティ風深夜ドラマなのに、「何でこんなに教育的なんだろう?」と、驚かされた。


 失敗する前に、ちゃんとアドバイスしてくれるドラマは本当に少ないのだ。


 また、『モテキ』以降だなぁ。と、感じるのは、劇中でかかる挿入歌の数々。


 「LOVER SOUL」(JUDY AND MARY)、「LOVE LOVE LOVE」(DREAMS COME TRUE)、「Hello,my,friend」(松任谷由実)など、なぜか90年代のJ-POPが多く、しかも「Hello,my,friend」なら歌い手がユーミンではなく槇原敬之のカバー曲だったりと、原曲よりもカバー曲の方が多かったりする。


 だが、主人公の今田の年齢は20歳で、90年代J-POPにそこまで思い入れがあるとは思えない。classの「夏の日の1993」を歌っていたらclassの元メンバーの日浦孝則が登場していっしょにデュエットするというシーンがあるのだが、今田にとって93年は生まれる前だ。


 おそらく、この90年代カバー曲は、今田を見守る水野の視点を現しているのではないか・


 今ではキャバクラのオーナーとして圧倒的なカリスマ性を誇る水野愛也だが、実は彼もかつては田舎から上京してきたダサい大学生で、モテなかったためにLOVE理論を自分で生みだしたことが、劇中では語られる。


 店長の年齢は不明だが、片岡愛之助が72年生まれなので、おそらく90年代前半を大学生として過ごしたのだろう。同時に、今田の行動自体が、店長のLOVE理論をそのまま借りているというカバー曲を歌っている状態に近いため、LOVE理論と90年代カバー曲を重ねているのだ。


 最後に、『LOVE理論』のテーマをもっとも体現しているのが、エンディングテーマとなっている氣志團の「Don't Feel,Think!!」だろう。


 CDジャケットからわかるとおり、ブルース・リーの名言「Don't Think,Feel!!」(考えるな、感じろ!)をひっくり返したタイトルだが、「戦略を立てて行動しよう」と指南する本作のテーマを、もっとも明確に表している。


 同時に思うのは、この「感じるな、考えろ!!」という言葉自体が、2015年現在の日本において批評的な鋭いメッセージになっているということだ。


 CDセールスからライブやフェスの動員に、ミュージシャンの主戦場が以降していく中、「いかにその場を楽しく盛り上げるか」が第一というライブのスポーツ化が音楽シーンで起きている。


 そのため、歌詞について分析したり、深読みしたりといった内省的な試みは「愛」、「熱量」、「感動」といった言葉に押しやられ、「考えるな、感じろ!!」という世界観がマジョリティとなりつつある。


 そんな状況下で「感じるな、考えろ!!」と歌う氣志團のメッセージは痛烈だ。しかし、彼らのコミカルなビジュアルもあってか、表現自体は実にコミカルで笑えるものとなっている。


 氣志團はヤンキー、水野敬也は自己啓発書という、「考えるな、感じろ!!」の世界に属している。しかし、そのメッセージは「感じるな、考えろ!!」だというのは、根底にあるのが状況を俯瞰してかき回す「笑い」にあるからだろう。どちらも尻尾がつかみにくい作風だが、その煙に巻くようなスタンス自体が、受け手に対し「考えろ!!」と挑発しているかのようだ。(成馬零一)