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「少年院に送られて、初めて支援された例もある」セイフティネットとしての「少年法」

2015年06月25日 17:31  弁護士ドットコム

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投票年齢の18歳への引き下げなどに伴い、「少年法の適用年齢引き下げ」の議論が、自民党の特命委員会などで行われている。日弁連は6月24日、東京・霞が関の弁護士会館でプレスセミナーを開いた。出席した元少年院長や元鑑別所長らは、非行少年・少女の実態を伝えつつ、適用年齢引き下げに疑問を投げかけた。


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元富山少年鑑別所長の川邉譲・駿河台大学心理学部教授は「非行は減少の一途」「少年非行は凶悪化していない」として、「現在の少年非行がどうなっているか。現状をちゃんとふまえて、法改正を考えてほしい」と、現在行われている法改正の議論に注文を付けた。



●非行少年は「パートタイム」


川邉教授によると、多くの非行少年は、24時間ずっと非行を繰り返しているのではなく、先生の前とか仲間の前でだけ強がっている「パートタイム非行少年」なのだという。



「そういう子たちは『まともな世界』と『非行の世界』の間に、片足ずつを置いて、どちらに行こうかなと漂流している状態です。その状態の子どもたちに、罰を与えて『向こうの世界へ行け』というのか、それとも抱え込んで『健全な世界で一緒に頑張ろうよ』というのか。そこが本当に考えなければいけない部分だと思います」    



また、少年たちは一見大人に思えても、未熟な部分がたくさんあるという。



「少年たちの多くは、鑑別所にバスで連れてこられるときには周りの子がいるので、少し強がって平気な顔をしている。でも、夜ひとりの部屋に入れちゃうと、かなり大きな子でも『寝られない』とずっと泣いています。強がっていても、お父さんお母さんが面会に来ないとすごく心配になって、『どうしたらいいんでしょうか。手紙を書いたほうが良いのでしょうか』と言ってくる子たちが、実際には多い。とても、大人として自分のやったことの責任を全部自分で負う準備ができているとは思えない」



●少年法が「セイフティネット」になっている


一方、元浪速少年院長で、龍谷大学で講師を務めている菱田律子さんは、実父らから性的虐待を受けて14歳で家出した少女が、18歳で少年院にたどり着いたエピソードを紹介した。



この少女は18歳のとき、たまたま働いていた風俗店が摘発された際に補導された。少女は家裁調査官と面接した際、『実は父親からの虐待があって家出をした』とうち明けたため、少年院送致になった。少年院では「勉強できるのが楽しい」と話していたという。少女は実父に知られないよう、20歳になってから中学卒業資格の試験を受けて合格し、いまは自立して働いているそうだ。



菱田さんは「彼女のように、保護者から適切な養育が受けられない・・・むしろ虐待を受けたにもかかわらず福祉の手が届かず、少年院送致されたことで初めて支援されたという事例が、残念ながら少なからずあります。特に18~19歳の年長少年は、児童福祉法の対象外ですので、少年法が彼ら・彼女らのセイフティネットになっていることをご理解いただければと思います」と強調していた。



●少年による凶悪犯罪はピーク時の12%以下


日弁連・子どもの権利委員会に所属している山﨑健一弁護士は「少年非行は減少し、少年による凶悪事件はピーク時の12%以下まで減っています」「少年院では人格の内面に踏み込んだ指導をしていて、多くの非行少年が早期に立ち直っています。現行法制は有効に機能していて、世界的にも高く評価されています」と説明。少年法の適用年齢は「少年の更生や再犯防止などの観点から考えるべきだ」として、引き下げに反対していた。


(弁護士ドットコムニュース)